黒い職場見学 (C社 その2)

C社で初めて、CADオペレーターの職に辿り着いた。
とは言え、そこまで難しいレベルではなく、2Dだったものですから、ハイ。
でもある種のクリエイティブ系、まぁなかなかに興味深かった。
これを使い熟せるようになれたら、幅が広がるなぁ。
昔から「ものづくり」に興味はあったけれど、「理系じゃないし、芸術系でもないし」と諦めていた私には、「こういう働き方もあるんだな」と思える業務経験であった。

但し、それはソレ、これはコレ。
「製造の現場で働くという事」がどういう事なのか、たった2年でも、何となく垣間見えた。

女は何故、昼食を皆で集まって食べるのだろう?
A社でもB社でも、何故か女は仲間と集団で机を囲んで食事をしたがる。
…と言い切ると偏見だが、本当に…本当ーーーっに、何をするにも群がって行動するのを好む女性は多い。
無論男性だってそうだ、連れ立って飯を食う人間は其処彼処に居る。
でもさぁ、群がりたく無い人間だっているんだよ、世の中には。
昼休み位、一人にさせてくれよ、休憩時間なんだからさ。
…昼飯に連れ立って出て行った男性達は、一通り食べ終えるとそそくさと自席へ戻って来て、目を瞑り昼寝をする。
ところが女性は食事を終えても、群がったまま時間ギリギリまで喋りまくる。
うるさいよ、静かにしてくれよ、興味の無い話題に限られた時間を費やすなんて無駄でしかないよ…頼むから、休憩時間くらい静かに休ませてくれよ…。

C社は地方の工場だからか、食堂以外での飲食が原則禁止だからか、やたらと派閥や集団を作って昼休みを過ごすのだった。
私も8人程の派遣社員グループに誘われ、「とりあえず逆らわない方が良さそうだな」と考え後ろをついて歩いていた。
いわゆる「工場内の全派遣社員を取り締まるようなお局様」が、ここでもいたのである。

昼休みは、苦行に近かった。
8人程のグループは、うち3人が弁当持参で、5人が食券で食事を買う。
単品の麺類と、日替わり定食の2つの窓口があるのだが、集団で定食の列に並ばないと「えー何で定食じゃ無いの?」という目で見られるし、実際に口にもされた。
定食は400円位、麺類は一番安い物で220円…お局様は人の財布に厳しく当たる。
お局様達はいわゆる「ママ友」のようなもので、それぞれ小学生に入るか入らないかのお子様をお持ちらしく。
「うちの幼稚園はあーだ」「保育園ならこーだ」「小学校はそーだ」の、子育ての愚痴話が多い。
あー…当時20代独身が聞いてもイミフと言うか、将来に対する暗い予習にしかならないんだがなぁ…。
他人の意味のわからない愚痴を聞きながらの昼食は、勿論美味いはずも無い。

私が彼女達に反抗心を見せたのは、就業して1年が経った時だった。
お局様の部署に新しい派遣社員が入ったのだが、その彼女はベジタリアン(完全ではなく、魚はOKらしい)で自作弁当持参型だったのだ。
かなり特殊な人だったが、ママ友談義についても合わせる所は合わせるが、無関心な所は「私は独身だしわからないわ」と言って上手い事躱す。
肉が一切入っていない弁当についてお局様に何か言われても、「私はお肉を食べない方が体の調子が良いのよね」と、引かない。
…あぁ、そうか…主張しても、良いのね…。
それから私は、特に好きでも無くやたらボリューミーな日替わり定食を選ばず、毎日単品の麺類、しかも一番安いわかめうどん220円を中心に選ぶようになった。
勿論お局様のツッコミが入る…「何で定食にしないの?」「お金無いんです」…だって本当の事ですから。
「えーでもバランス悪いよ?ちゃんと食べないと」と食い下がるお局様に、私は更に本音を続けた。
「水泳とダンスで良い感じに痩せて来たので、このまま維持したいんです。毎日残すのも罪悪感があるので、食べ切れる量の物を選びたくて。」
むっちりお局様達は、言葉を失っていた。

私は小さな反抗をその後も続けた。
更に10ヶ月以上過ぎた頃、新たに人員が増え、比較的私と同じような年齢の派遣社員達が入って来た。
何もかも合わないのは周知の事実だったので、お局様グループを離れ、同年代のグループで昼食を摂るようになった。
「(子供の)学校の話とか、私よくわからないんで」と、自己主張もちゃんとした。
勿論一気に避けるのは大人のやり方ではないので、5回に2回は付き合いの如く元のグループと連結し、でもテーブルの2/3の所で会話が完全に切り替わるような仕組み。
毎日は嫌だが2日に1回も有るか無いか程度なら、イミフな子育て愚痴話が聞こえても耐えられるし、時々耳にする喫煙者のお局様ならではの「喫煙所で明かす社内事情」も手に入るので十分だ。
同年代グループは、ワリと自由だった。
定食だったり、弁当持参だったり、朝コンビニで買って来たり、タバコも吸わないし…話が尽きたら自由に席へ戻り、午後の作業開始まで軽く目を閉じる。
…あぁ、最初からこうしていれば、もう少し続けられたかもしれないなぁ…実はもうこの頃、契約を更新しない意向を派遣会社へ伝えていたのだ。

私が契約を更新しない事をお局様グループへ告げたのは、契約終了の1週間前だった。
もうあまりグループに関わらなくなっていたし、だからと言って当日に「今日でさよなら〜」もちょっと違うし、恐らく増員の時点で何かしら気付くだろうと思っていたのだ。
すると、驚きの事実が発覚した。
お局様の部署の、あの特殊な派遣社員の彼女が、急遽辞める事になったのだそうな。
就業して1年、そして上手い事お局様を躱しているなぁと感心していたのに。
気になったので、隠れて彼女へ声を掛けた。
「あの、お辞めになるって聞いたんですけど、びっくりしました。」
「うんーちょっとね、私には合わないなぁって思ってね。」
「…あー、(お局様は)圧が強いしタバコ臭いから、辛かったですよね…。」
「うん…悪い人じゃ無いのはわかってるんだけど、ちょっとね…。」
あぁもうこれって、派遣社員同士のパワハラやんけ。
特殊な人だったけれど、感覚はマトモだったんだなぁと最後の最後に思ったのだ。

最終出勤日、私と特殊な彼女は連絡先を交換した…とは言え「お疲れ様でした」の一言メールだけでそれ以上続かなかったけれど。
お局様からは「SNS(当時こんな言い方はせず、直接サービス名でしか呼び様が無かったけれど)やってるよね?良かったらこれ、私のアカウントなんだけど」とメモを渡されそうになった。
「あ、身内でしかやらない主義なんですよ〜」とお断りした…これも本音、今でも私のSNS類は閉鎖的。
振り返ってみれば、私と特殊な彼女だけでなく、お局様グループでは他にも辞めた人間が複数いた。
お局様本人は、事実に気付いているのだろうか…どんなに頂点に立っても所詮派遣は派遣、当時のルールは3年以上も続けられたようだが、たとえこちらが希望しても派遣先の都合で契約を更新できない場合だってある事に。

ボスザル化していたお局様には、何度か笑わせて頂いた。
特殊な彼女の「ベジタリアン」を羨ましがり、肉を止めて野菜ばかり食べてもお腹が空くので「肉以外の何か」を食べ過ぎて太ったと。
運動で痩せていく私を見て「何でやせないのかしら〜」と定食をムシャムシャがっつく姿。
普段はファンデーションや口紅を一切つけないのにネイルにはやたら拘り、「ほらぁ、カルジェルが〜」と当時流行り出したジェルネイルをゴテゴテに施すあまり、「息子の卒園式用に」と長い爪を真っ青に染め鼻高々な笑顔。
…あぁ、この人が握った握り飯は食いたかねぇなぁ…古い考えかもしれないが本気でそう思ったものだ。
今では流石にあの職場を離れた事だろう、労働に関する法律も変わっているし、あの会社の正社員は本来それなりの学歴が必要なのだそう。
今でもあの趣味の悪いネイルに拘っているのだろうか…勿論十人十色なので否定はしないが、もう50代半ばなのだからオンオフの区別ぐらいついていて欲しいと、陰ながら思う。

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