黒い職場見学 (C社 その1)

C社でCADオペレーターをしていた過去がある。
きっかけは、新たな派遣会社に登録へ行き、受けたテストの内容が良かったから。
「これだけExcelが出来るなら、是非お勧めしたいんです〜」
…ExcelとCADがどう繋がっているのか理解出来なかったけれど、条件もそこまで悪く無かったのでチャレンジする事になったのだ。

これまで、通学や出勤に際して、下り電車に乗る事は無かった。
朝の下り電車は「学生列車」とも言うほど、私学の中高生で溢れ返っている。
そして彼らのマナーの悪い事ったら…。
巨大なスポーツバッグやテニスバッグを床に乱暴に投げ、手すり両手使いは当たり前、時々ゲームをしながら大声で喋っている集団が大量発生しているのだ。
私が電車に乗るのはホンの15分程度だったが、ギュウギュウの満員電車で何考えてんだ!!と、何度学校へクレームを入れようとしたかわからない。
…本当に、学校はナニを教えているんだ…満員電車の乗り方も教えないのか…。

下り電車に乗るという事は、勤め先は「ド田舎」になるという事。
ド田舎は車社会であり、広大な駐車場に私用車で通勤する人間が9割以上を占めるという事。
つまり電車で通勤して来るのは、本来は都心の本社勤めだが訳あって出向している幹部か、どうしても車を持てない下っ端のどちらか。
そして駅からは送迎のマイクロバスに乗って10分超で、C社の工場に辿り着く。
電車が遅延すると悲劇が起こる…そもそも朝の時間帯の下り電車は本数が少なく、それに合わせて送迎バスがやって来るので、電車通勤者は選択の余地が無い。
C社工場は路線バスのルートからも外れているし、そもそも車で10分超という事は、朝はまず歩けない距離なのだ。
…工場とは…土地が必要だから…地下の安いド田舎で…車を持たない人間の事を「お前なんか人じゃ無い」というほどの圧で…。

行きは実質1本しか送迎バスが無いのだが、帰りは30分に1本位の割合で5本ほど送迎バスがあった。
帰りに2回だけ、試しに送迎バスルートを工場から駅まで歩いた事がある。
およそ1時間、道は単純だがやはり距離があるので、余程の事が無い限りは時間と労力の無駄だと判断。
だからこそ朝の電車遅延は毎朝かなりの心配で、実際に人身事故で一度だけ送迎バスに間に合わなかった事が一度だけあった。

駅のロータリーを走って送迎場所に向かっても、そもそも1本しか無いのに時間も大幅に過ぎていたので、マイクロバスなんて排ガスの跡すら見えなかった。
口を聞いた事さえ無いけれど、いつもマイクロバスで見かける人達と、思わず顔を見合わせた。
こういう時ほど、背広を着ている人間の近くに寄っておくとラクだ…本社からの出向者なのでタクシー手配の上手い事ったら。
私服や作業服でやって来る派遣とは気概が違うのだろうか、「しゃーねーな、んじゃ4人組作って割り勘で乗ってくぞ」とサクサク進むのだ。

偉い人が割り勘と言って来るのだから、下っ端は勿論それに従う。
が。
私と一緒に同乗したある派遣社員が、「細かいのが無い」と言って財布を出さないのだ。
偉い人の顔がキョトンとなった。
咄嗟に「あ、私今ここ出しますんで、後でお願いしますね」と千円札を出す私。
財布を出さない派遣社員は、踵を返すどころかほぼ無視でロッカー棟へ走って行く。
…踏み倒される事は、なんとなーくわかっていた。
どこの部署だかわからない派遣社員。
でも、知っている。
実は私と同じ駅だという事を。
私が地元駅までの道すがら、毎朝見かける、あの彼女なのだ。

彼女のことは、その後転職してからも、同じ時間に同じ道で同じ下向き前のめりの歩き姿を見かけていた。
多分今も、同じ道を歩いていると思う。

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