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みーちゃんとママ④ 路面電車

みーちゃんの住むマンションから歩いて三分のところに、小さな無人の駅がある。
電車は単線の路面電車で、二両編成の先頭に運転手さんがいる。駅では一両目の最後部のドアだけが開き、乗る人はそこから乗る。
少し前までは、乗るときに整理券をとって、降りるときは運転手さんの前で現金を運賃箱に入れてから降りていた。三年くらい前からICカードが使えるようになり、降りるときに「ピ」をする人が増えた。みーちゃんのママとパパは普段は電車に乗らないので、ICカードを持ち歩いていない。だから今でも整理券をとって、降りるときに小銭を払っている。
休みの日に時々、みんなで電車に乗り街に行く。街の駅までは一駅しかない。乗っている三分の間、電車は空き地や神社、高校の前、民家の壁のすれすれを走っていく。
みーちゃんたちは電車の窓からそれらを眺めて、「あそこ、みーちゃんの保育園のところよ!」「いまワンワンがいた!」などと叫ぶ。
終点が近づくと、乗っている人は席を立って電車の先頭に移動し始める。みーちゃんがママを見ると、「電車が停まってからよ」とママは言う。
電車が停まると、みーちゃんたちは席を立って先頭に向かう。みーちゃんと弟は、自分がお金を払うと言ってママから小銭をもらう。運賃箱の前で抱っこしてもらい、運賃箱に小銭を入れる。電車とホームの間には少し隙間があって、みーちゃんは注意してジャンプし、ホームに降りる。弟は怖がってママに抱っこされて降りる。
それから駅を出て横断歩道を渡ると、そこが街の最北端だ。そこから南に向かって約二キロ、商店街が続いている。
石畳の通りの両側には、昔からある和菓子屋や古本屋、文房具屋、傘屋、古着屋、カフェ、美容院、自転車屋、居酒屋が並んでいる。しばらく行くとアーケード街となり、歩行者天国になる。みーちゃんと弟は走り出してママに注意される。
目的地は本屋さんだ。
本屋さんに着くと、レジを通り過ぎて左手が子ども向けのコーナーになっている。
「好きなのを一個ずつ選んでいいよ」と、ママが言う。
みーちゃんは入り口に置いてあるおもちゃ付きの雑誌から一つ選ぶ。弟はトーマスの絵本を欲しがる。
「これなんかいいんじゃない?」ママが選ぶ絵本は、保育園にあるような絵本だ。みーちゃんがプリキュアやプリンセスのおもちゃ付きの雑誌ばかり欲しがることを、ママはあまりよく思っていない。
お金を払って本屋さんを出ると、みーちゃんは買ったばかりのおもちゃで遊びたいので「もうおうちにかえろう」と言う。弟は疲れて抱っこをせがむ。パパとママが交代で弟を抱っこして、喫茶店に入る。
ママはコーヒーフロート、みーちゃんと弟はジュースとアイスクリームを注文する。パパは何も注文しない。パパは誰かが残すのを見越しているのだ。
みーちゃんは買ったばかりのおもちゃを袋から出して眺める。「おうちに帰ってから遊ぼうね」とママは言う。
ジュースとアイスクリームは冷たくて甘くておいしい。でもやっぱりみーちゃんはアイスクリームを残してしまい、パパが食べることになる。
帰りも駅まで歩く。弟は抱っこされて、そのうち寝てしまう。帰りの電車では、弟は寝ているし、みーちゃんも膝に抱えた本屋さんの袋を見つめて、窓の外を見ない。
家に帰ると、パパとママは布団をしいて弟を寝かせる。みーちゃんはおもちゃを広げて遊び始める。

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