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テクノロジーにワクワクを取り戻す NOTHING流デザイン哲学の話を聞いてきた

NOTHINGというブランドをご存知だろうか?
イギリスのロンドンに本拠地を持ち、まだ3年目という若い会社でありながら、スマートフォンやワイヤレスイヤフォンを世に出し、そのかっこいい製品に共感する人々を多く持つ会社だ。

先日もCMFというブランドラインから1万円ちょっとの価格のスマートウォッチを発表。
アマゾンでもすぐに在庫がなくなってしまうぐらいの話題性とともに注目を集めている。
かくいう私も大ファンで、スマートフォンこそ手を出せていないものの、イヤフォン等にも手を出させていただいている。

中身の見える透明なボディ。
こだわり抜いたパッケージ。
蛸や昆虫などを使用した独特なブランディング。

一言で言えばかっこいいに尽きるのだけど、どうしてこんなアイテムをどんどんとリリースできているのか。またどんな考えで作っているのかということを知る機会はなかなかなかった。

しかし、2023年11月23日
唐突にNOTHINGがデザイン哲学をトークするイベントを京都でやると発表したのでじっとしてはいられない。

そんなわけで今回は、京都で開催されたNOTHINGのイベント「コンセプトから製品へ NOTHING流デザイン哲学」というイベントに参加してきた個人的な覚書を共有させていただければと思う。

市場調査はしない

NOTHINGのデザインディレクターを務めるアダムさんのスライドは「任天堂のゲームボーイ」との出会いから語られた。
8才のときに見たゲームボーイを買うために、ディズニーの音楽が出るオモチャを買うのをやめて、貯金をしてゲームボーイを買ったという。

そして、「ソニーのウォークマン」もお姉さんからお古を譲ってもらったことで手に入れた。
その頃はまだコンサートなどにいける年齢でもなかったので、ウォークマンでビートルズをききながら、ビートルズがまるで自分だけのために演奏しているような想像をして聞いていたという。

アダムさんの子供時代は日本のテクノロジーに囲まれて過ごし、そこへの賞賛が育まれた。
そして、日本の2つのプロダクトから「市場調査ではなく少人数のチームで作るものが、イノベーティブで世の中を変えうる」ことを学んだと話されていた。

その後アダムさんは「ダイソン」に入社。
そこでも市場調査ではなく、初期段階からプロトタイプを作って試していくアプローチが行われていた。
社風として失敗を恐れるなと言う会社だったが、任天堂もそうだときいているし、ダイソンは失敗をしながらも学んできたという。

ここまでの話でもNOTHINGのアイテムのものづくりの手法には、日本の任天堂とソニーも少なからず影響を与えてきたことが感じられた。

後半のトークイベントでも、株式会社スマイルズの取締役社長兼CCOの野崎さんから、NOTHINGのスマートフォンと、任天堂の「ニンテンドーDS」や「Wii」を出していた頃の共通点が指摘されたりした。

ソニーのプレイステーションとマイクロソフトのX BOXが映像表現や処理速度と言った「スペック」で争う中、任天堂は2画面をもつ携帯ゲーム機やモーションセンサーを組み込んだゲーム機を発表。
機械のスペックだけで見たときに、任天堂はうまくいくはずがないと批評されたが、結果として任天堂はここからユーザー体験を根本的に変えていくことによって、ゲームチェンジをしていったという。
NOTHINGはそのころの任天堂に近い仕掛けをしているように感じられるという。

スマートフォンに必要な機能がある程度固まり、画素数や処理速度が大きな差異として受け止められなくなった中で、スマートフォンにどのような価値を求めるのか。
スマートフォンの市場は成熟し、作っているメーカーも少なくなってきた。
しかしながらNOTHINGは3年目ながらきちんとユーザーから反響を受けているという。
また、小さい会社であるからこそ、大規模予算や日程の縛りは今のところない。
それゆえに今までにない新鮮な視点や方法論を取り入れられることが有利だとNOTHINGのアダムさんは語っていた。

アプリの通知に集中力を削がれないために魅力的になった「背面」

NOTHINGのスマートフォンの最大の特徴とも背面の「グリフ」という機能

様々な光と音の組み合わせで、漠然と見ているだけでもかっこいい。
製品を見た当初、それ以上の価値を読み取れなかったのだけれど、なぜこの機能を作ったのかという話をイベントで聞いてとても面白かった。

スマートフォンを使っていると、仕事でメールをしているだけのはずが、様々な通知を見ているうちにYOUTUBEを見ていた……なんてことが誰しもあるのではないだろうか。
スマートフォンの画面、更に踏み込めば「アプリ」たちは、いかに自分たちを使ってもらうかという視点のもとに様々な通知やスクリーンタイムを伸ばす仕掛けを行ってくる。

NOTHINGのスマートフォンはそういった表示から離れ、必要最低限の情報を得る方法として「スマホの画面を下にして置く」ことを推奨するために作られたという。
背面の光り方は様々なプログラミングがユーザー自身で可能にしたことで、例えば「UBER」が来たらアプリを開かなくてもわかるような状態を考えたという。

個人的には私はこのあたりを誤解していた。
どちらかというとスマートフォンがかっこよく光ることで「こっちを見て!」と言う目立つアプローチなのかと思っていたが、全然違ったのである。
でもたしかに、スマホの画面よりも見ていたくなるかっこいい背面は、スクリーンタイムを減らしてくれる新しいアプローチとしてみるととてもおもしろい。

また、京都精華大学のデザイン学部准教授の蘆田さんからは、「スマートフォンそのものをなくして生活する」といったようなこともNOTHINGとして検討されたのかという突っ込んだ質問もされたが、「もちろんそれも行った上で、現時点の文明においてはスマホなしでは生活が難しく、その中でも改善する余地を考えた」とのことで、ただただ理想を押し通すのではないNOTHINGのバランス感覚も感じさせられた。

ファンコミュニティではなく「愛される」なのでは?

NOTHINGといえば、中身の見えるスケスケな透明感のあるデザインがかっこいいブランドなのだけど、それは「透明性」への会社としてのこだわりでもあると話されていてとても興味をひかれた。

また、透明性については製品だけでなく、自分たちの会社のスタジオをメディアや一般ユーザーに向けてオープンするイベントを開催したりしながら、透明性を会社として提供してく大切さを重視していることを話されていた。

更にユーザーと交流していく中で、ユーザーコミュニティに参加してくれるユーザーも多く、製品に対する意見もそこから得られるという。そういった意味では市場調査は行っていないけれど、ユーザーコミュニティからフィードバックを受けるという新しいマーケティングとも言えるのかもしれないと蘆田さんからは指摘されていて面白かった。

また、野崎さんからは「ユーザーコミュニティ」と「ファンコミュニティ」の違いがあるのではないかとも指摘されていた。

冒頭にも登場した「任天堂」をグーグルで検索しようとした時、「任天堂 愛される」といったような内容が出てくることがある。
SNSで何かが炎上しても、任天堂フリークスたちが火消しをするようなことがよくある。
コミュニティというよりはトライブ(共通の興味・関心やライフスタイルを持った集団のこと)と感じられるというお話をされていた。

これについてアダムさんもキャノンやソニー、フジフィルムといったカメラのブランドで似たようなことが起きていることを実体験から認識していた。
それぞれのカメラブランドを使用する人たちが掲示板で議論したりしていて、それもあっていいことだと感じると話されていた。

これは、個人的にも「熱狂」的なファンコミュニティに疲れてきていたので、「トライブ」としてのお客様との繋がり方はとても興味深く感じられた。

テクノロジーにワクワクを取り戻す

イベント中に何度も繰り返された言葉は実は「テクノロジーにワクワクを取り戻す」というもの

テクノロジーがなんだか無機質で冷たく、面白くないものになっているのではないか。
そんな感触から、NOTHINGはものづくりを行っている。
そう聞けば確かに、NOTHINGのアイテムにはワクワクするようなかっこよさや機能性、近未来感がある。 
昆虫や蛸といった生き物を組み合わせたプロモーションも、無機質になりがちなテクノロジーに「有機的」な「あたたかさ」を感じてほしいという狙いと考えれば腑に落ちる。

その源流には日本の任天堂やソニーのウォークマン、更には日本の楽器を手にしたときのワクワク感があることを今回のイベントで知ることができてよかった。

これから期待感をもってNOTHINGというブランドを応援して行きたくなるイベントでした。
あくまで覚書なので、少し間違っているところなどあるかと思いますが、イベントに行けなかった方の参考になれば幸いです。

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