カネは姿を変えて。

お金に消費期限をつける
そうすれば、そんなにたくさんなくていいことに気づく。

これについてどう思うか。

普通に考えると面白くないので、せっかくだからディストピア調に、深夜テンションをフル活躍させて書く。

たんなるディストピアも面白くないから、せっかくなら経済の勉強になるように小話を織り交ぜながら。

消費期限を定義するところから始めてみる。

消費期限は普通食べ物についていて、消費期限を過ぎると「もう食えない」ことになる不思議な期限(実際、自分の体が大事ならもう食わない方がいい)。つまり消費期限が過ぎた食べ物は捨てられるわけだけれど、本質的にこれは「以前は価値があったものに価値がなくなる」ということになる。

以前は価値があったものに価値がなくなるという理不尽な現象はよくあることで、例えば期限が過ぎたチケット、割れてしまった皿、穴の開いたコンドーム、財布が空になったパパさんなどなど。
当初はある目的を達成するために作られたり存在していたけれど、その目的をもはや果たせなくなってしまった『モノ』は、大抵価値を失い捨てられる。

ここまで、『モノ』(一部パパ等生き物の例外あり)が価値を失うタイミングについて考えてきた。しかし「モノ」にカッコをつけたのには理由がある。これは『資産』と区別するためだ。資産は厄介なシロモノで、『モノ』の価値は目的を果たせるかで決まるのに対して、『資産』は価値自体が目的だ。たとえば、わかりやすい資産で『株』を考える。あなたがもし、今メチャクチャホットな有名スタートアップの株を保有しているとしたら、その目的はなんだろう。それはきっと、株を買った時よりも株価(つまり価値)が上がったときに売り払って、一儲けするためだろう。

つまり株という資産を保有する目的は「価値の増加分」、「価値そのもの」なわけだ。

さて、ここであなたが株を保有しているスタートアップが経営判断を盛大にミスり、巨額の赤字を抱え倒産の危機に追いやられたとする。言ってしまえば、この企業の財布が空になったわけで、要は今までリッチだったのに羽振りの悪いパパさんよろしく、お先真っ暗といったところである。株価は真っ逆さまに下がり続ける。平均的な頭脳の持ち主であれば「損切り」、つまり株を買った時の価格よりも安くでも、これ以上株価が下がる前に我先にと株を売ってしまうだろう。

そして、大抵の場合価値が変動することはない資産とは言え、「金」にも同じことが言える。

僕たちが生活している貨幣経済では貨幣(つまり金)に皆が納得する共通で一定の価値を与えることで、モノと貨幣を交換することを可能にしている。これは画期的な大発明で、大昔なら「自分が欲しいけど持ってないモノ」と「アイツが持ってるけどいらないモノ」がお互い一致しないと交換が成立しないという激レア現象を解決した。大昔なら「隠居するからふかふかで暖かい毛皮が欲しい引退狩人」と「更年期障害で暑いから毛皮が必要なくなったけど、息子が狩にでたがっているオジサン」が奇跡的に出会って初めて、「使わなくなった槍あげるから毛皮ちょーだい」ということが成立していたけれど、今なら「毛皮1万円で買いまーす。いらない毛皮持っててお金欲しい人挙手。」で交換が成立して、お互いハッピーになるわけだ。貨幣がこんなに万能なのは、貨幣があらゆる価値を代表するということに全員が納得しているからだ。

つまり、貨幣の目的は価値そのものである。

さて、先程「目的が果たせなくなった『モノ』は、大抵価値を失い捨てられる。」ということを確認した。そして、まさにこの現象が起きるタイミングを予測しているのが消費期限だ。

では、貨幣(金)に消費期限を与えるとどうなるだろう。貨幣の目的は価値そのものであるから、こうなる。

「貨幣の消費期限とは、貨幣がその目的を果たせなくなるタイミング、つまり、貨幣が価値そのものを失うタイミングである。」

一見当たり前だけれど、これは実はとんでもないことだ。

命題を再確認する。
「お金に消費期限をつけよう。そしたら、そんなに無くてもいいって事に気づけるんじゃないか」

仮定として、この消費期限を「すべてのお金は、もらってから5年後に価値が消滅する」とでもしよう。5年に特に意味はない。

さて、先程金は資産であると言った。そして株の例を挙げて、資産を保有する目的が価値そのものであり、仮にその価値が減少するともなれば、手遅れになる前に売り払われるであろうことも確認した。

しかしここで疑問が湧く。価値が下がることがわかってしまった株を売れば代わりに現金が手に入るが、価値が消滅することがわかった現金は一体何と交換すれば良いのか。

少し頭を巡らせると、面白くも皮肉なことに、おそらくこういうことになる。

「消費期限まで残り1年の5万円と、消費期限まで残り5年の1万円、交換してくれませんか。」

スーパーに買い物に行くと、消費期限間近なパンが定価よりも安く売られていたりする。それと同じ原理で、消費期限が近い金の価値が相対的に低くなるという単純構造で新たな金融市場が回り始める。

結果として、消費期限に応じて一枚の諭吉さんに新しい価値が再定義される。

[新・消費期限つき諭吉の価値相場表]
* 余命5年の諭吉さん→5/5諭吉分の価値
* 余命4年の諭吉さん→4/5諭吉分の価値。
* 余命3年の諭吉さん→3/5諭吉分の価値。
* …

つまり、余命1年の諭吉が5枚あれば、余命5年の諭吉1枚を買い取れることになる。こんな金融市場が誕生してしまうのではないか。

しかし、問題はそれだけではない。
今まで余命永久年分だった諭吉の価値は、この消費期限施行のおかげで5/無限(無限分の5)にされてしまったわけで、実質的にその価値は限りなく0に近い。諭吉もたまったものではない。

現金に消費期限がない今の世の中では、たとえば老後のために2000万貯金が必要と言われている。多くの人にとって、この老後は5年以上先であり、その間稼ぎ続け、過去に稼いだ現金を余命の長い現金に買い換え続けなければいけない。仮に、そのために必要な総額を老後まであと30年の時点で一気に稼ぐとしたら、概算でも1兆円以上になるのではないか。実際はこれより大きく下回るけれど、それでも経済基盤を揺らがずには十分すぎる量だ。普通のサラリーマンが老後までにこんな大金を稼がなければならないとすれば、会社側も放ってはおけないから給与を上げるだろう。しかし会社もその分稼がなければいけないから、売っている商品の価格を上げる。

ここまでで、一つ気付くことがある。
諭吉の価値が下がったのに対して、物価が上がってしまった。典型的なインフレーションの症状である。ましてや、未だかつて人類が直面したことのない、否、想像すらしたことのない規模でのインフレーションである。誰も想像さえしたことがないのだから、これ、私が第一発見者です。

かつて、想像を凌駕するようなインフレーション、つまりハイパーインフレーションは何度か起きている。紙幣の価値が下がりに下がって下がり続けるものだから、人々は1日1度は銀行に金を入金しなければならず靴底が減るほどだったことから、シューレザー・コストと言ったりする。

安定した富を欲するのは人間の性。
今まで余命永久年だった諭吉の価値がlim0になってしまうとしたら、私たちはまた新しい貨幣を作り出す。

新しい貨幣の金融市場が出来上がり、新しい貨幣の経済で搾取が行われ、新しい貨幣の富が築かれる。

そのどれも、おそらく、価値そのものを目的としている。

そんな経済を人間が克服できるのは、きっと私たちに本当に必要なモノ、目的を持ったモノを手から手へと交換できる時だろう。

かつてハイパーインフレーションに襲われたどこかの国で、紙屑同然、いやそれ以下の価値しか持たなくなった貨幣に頼ることを人々が諦めた時、貨幣の代わりに手から手へと交換された「モノ」があった。

タバコ。

ハイパーインフレーションにおいても、タバコは価値を失わなかった。

私たち人間は、富の格差をなくすために今こそ、喫煙の需要性に気づかなければならないのかもしれない。

そのとき、私たちは気づく。

「お金は、どんなにあっても足らないんだ。どんなにお金があっても、吸いたい時の一服の価値には敵わないんだ。」

と。

完。

あとがき

シルビオ・ゲゼル(ドイツの経済学者)による「自由通貨」「錆びる通貨」の概念や、地域通貨「キームガウアー」という事例があり、どちらも景気活性化に効果的な様子だ。

ただ、地域通貨は現金を用いて購入する仕組みで、そこから付加価値を創造している。世のすべての金が「錆びる通貨」になった時とは状況が異なる。

また今回の問いかけは、富の集約や格差に関する視点が主なのであり、この場合資産運用の可能性も考慮しなければいけない。そこで、経済合理性に基づくと、現金に消費期限がついた時経済がどのように動き、どのような均衡点に収束するかを考えてみた。

断片的な経済の知識を荒々しく組み立てたので、もちろん批判はあるだろうと思う。

けれど、それは右から左へと流すことにする。Don’t talk to our art.

末筆となってしまいますが、こんなに素敵な知見を得る機会を与えてくれた片野さんに感謝申し上げます。

2020年5月24日
埼玉

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