人事異動
「人事について考えているんだけど、動く気持ちはある?」
体調を崩し、自宅で寝込んでいた私に教授から電話が入った。
その頃、とある病院で勤務していた。
私は脳血管内治療というカテーテルを使った治療を専門としており、この病院に呼ばれたのはカテーテル治療を立ち上げるためであった。
カテーテル治療は緊急手術が多く、呼ばれればすぐに駆けつけなければならず、家族と離れて病院の近くで寝泊まりする生活を送る必要があった。
約5年続け、スタッフの協力もあり関西有数の症例数まで増やすことができた。
院内の医師個人の売り上げはトップを続けていた。
しかし、病院での立場や給料は自分を評価してくれているものではなく、他にも心をえぐられるような出来事が続き、精神的に病み始めていた。
丁度その頃に救急で来た患者にコロナをうつされてしまった。
余儀なく仕事を休むことになるが、結果的に自分を振り返るために、良い機会になった。
そんな私の胸中を見通すかのように教授から異動についての電話があったのだ。
何でも相談できる相手がいれば、話は違ったのかもしれない。
仕事にのめり込み過ぎると
『これだけ頑張ったのに』という感情はどうしてもついてくる。
この考え方が一番の原因だと思う。
人命がかかった仕事であり、私生活と仕事を割り切るというのは非常に難しい事ではある。自分と同じように、それを他の医師に求めるのも無理な話ではある。
ただ、今の頑張っても最後にはやる気を無くしてしまうという、この悪循環から抜け出すためには、自分の機嫌をうまくとりつつ仕事を続けられるように考え方を変える必要はあった。
まずは環境から変えるしかないと、異動の話を受け入れた。
しかし、新天地にはさらなる地獄が待ち受けていた。
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