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ノーペイン、ノーチェンジ

プリセールスエンジニアのセールス入門、今回は「ノーペイン、ノーチェンジ」です。これまでの記事はこちらです。

さて、もともと"No pain, no gain"という言葉があったそうですが、特に欧米企業の営業において"No pain, no change"という表現が使われているようです。小泉元総理がかつて「痛みなくして改革なし」と言いましたが、この英語の語句を踏まえていたのかとも思います。ただし、意味合いとしては、小泉氏は、改革は必要な前提で、そこに多少の痛み(問題や損害を被る人の発生)は避けられない、という意味で使っていましたが、この「ノーペイン、ノーチェンジ」は、「痛み(課題)がなければ変わろうとはしない(つまり新たにあなたの商品を買おうとはしない)」という意味です。

例えば、営業支援システムを販売しているなら、お客さんの企業のペインとして、営業担当が商談後のデータ入力やレポート作成に時間を取られている可能性や、分析や売上予測がうまくできていない可能性がありそうです。現時点でこう言った課題の痛みを感じているお客さんなら変化(契約受注)に結びつく可能性が期待できますが、課題の痛みがない場合、現状維持に落ち着いてしまう(失注)可能性が高い、ということになります。

併せて大切なことは、顧客側の担当者が、こういった課題があることに、すでに気づいているケース(顕在化した課題)と、気づいていないケース(潜在的な課題)があるということです。更に、顕在化している課題でも、その大きさ・影響範囲に気づいていないケースも多々あるため、うかがった課題は確認、掘り下げを行うことがとても重要です。


お客さんが、「営業支援システムの導入を考えています。機能の紹介やデモ、ライセンス体系の説明をしていただけますか。」と連絡をくださり、商談をした場合のことを考えてみてください。

それぞれ説明して、お客さんに「検討いたします」と言われたにも関わらずしばらく経っても連絡がなく、こちらから何度も連絡してようやく「残念ながら社内で稟議が通りませんでした」と教えられる。これは、ペインがなかった、あるいは、ペインの大きさが顕在化されなかった可能性があります。(もちろんそれ以外の可能性もありますが、わからないのでこの失注を次に活かせないことがもう一つの問題です)。

そうではなく、説明する前に、こう言うわけです。「ご連絡いただきありがとうございます。ぜひ説明させていただきたいと思いますが、まず、御社で営業支援システムの導入を検討されている背景について教えていただけますか。

この回答が、営業担当のデータ入力に時間を取られていて問題になっているのか、売上予測の精度が悪いのか、あるいはすでに営業支援システムが入っているけれど費用が高く費用対効果が得られていない、という問題なのかによって、プリセールスがこの後力を入れて説明する内容や提案書に記載する内容が変わってくることは想像できるかと思います。

ここで、聞き方について二点ほど注意したいところがあります。まず「御社のペイン(課題)を教えていただけますか」とストレートに聞いてしまうのは、お客様が警戒してしまうのでやめた方が良いでしょう。

もう一つ、「分析や売上予測の精度が悪いという課題はありませんか」などとイエス・ノーで答えられる聞き方も避けましょう。本心ではないけどイエスと答える人は意外と多いです。


さて一方、プリセールスが商談に関わる前の商談で、すでに課題がヒアリングできている場合もあると思います。その時には、その課題を掘り下げて、大きさや影響範囲がわかるような質問をしましょう。

例えばデータ入力に課題があるのならば、「御社では現在営業支援システムをお持ちでなく、データ入力に掛かる時間が課題になっていると伺っています。」と、前回のヒアリング内容がちゃんと社内共有されているよ、ということを示した上で「ちなみに、今はどのようにデータ入力を行っているのでしょうか。」ですとか「現在営業担当の方はデータ入力におよそ週にどのくらいお時間を掛けているかご存じですか」あるいは「今回、営業支援システムを導入しよう、ということになったのは上層部からの指示なのでしょうか。それとも弊社からのご紹介の内容を踏まえて○○様が社内でご提案する形でしょうか」などと聞いて行きます。

答えが得られたら「なぜその方式ですと入力に時間が掛かってしまうのでしょうか」などと更に深掘りします。その回答にあわせて、新営業支援システムの説明をする時に、現状と比較した使い勝手の良さのアピールポイントが見えてくるのではないでしょうか。

2番目の質問の回答により、導入しやすい費用感がわかってくるかと思います。例えば新システムのライセンス費用を上回っていそうであれば、すぐにでも導入した方が良いですよ、ということになりますし、もしライセンス費用の方が割高だ、ということがわかれば、データ入力以外の営業支援システムの導入価値を説得できないと、費用対効果の観点で導入が保留になる可能性が高いと考えられるので、今後の商談の進め方がかなり変わってきます。

3番目の回答によって、システム導入の可能性の高さがわかってくるかと思います。上層部からの指示であれば、何らかのシステムを導入する可能性は比較的高く、他社製品と比べた優位性の話になる可能性がありますが、担当者から提案する形ですと、そもそもの価値を伝えることに時間を掛ける必要があるかも知れません。その時、データ入力に時間が掛かっている、という課題を上層部が把握しているかの確認も重要となります。

ペイン(課題)を確認し、「このペインが解決できるなら変革の価値がありますよね、うちの製品はその課題解決に最適です」というのが、ソリューションセリングの進め方です。

上層部についての話などはプリセールスが聞く内容ではないのでは、と感じた方もいるかも知れません。また、営業担当がヒアリングによって確認済みの場合も多々あると思います。ただ、話の流れなどで、プリセールスの皆様の質問にお客様がスムースに答えてくださっている時や、営業担当が若手でヒアリングが足りていないと感じた時など、同じ船に乗っているプリセールスエンジニアが非技術面の質問をすることを躊躇しないようにしましょう。

特に、いまデータ入力にどのようなツールを使っていて、どのような課題があるのか、のような、回答に技術的な内容が含まれそうな質問については、営業担当が行うよりも、技術的知識が豊富なプリセールスが聞いた方が、良い質疑になることが多いです。ヒアリングは一度行って終わりではありません。初回商談でうまく聞けなかった内容は、次回の打ち合わせで聞いても良いのです。商談プロセスを通してヒアリングしていく、という気持ちを持ちましょう。

今回の記事は以上です。課題がないお客様にはどうするのかなど、気になるところがある方もいるかも知れません。今後の記事でも色々カバーしていきたいと思いますが、気になることがあればコメントにご記載ください。
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次の記事を書きました。この記事でも例として挙げた営業支援システムを、実際の商談でどのように話していくか、やり取りの例を記載しています。参考になれば幸いです。


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