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「MDCの作り方」

ひとつの大会を開催するだけでもヒト・カネ・モノ、そして多くの時間が費やされます。大阪、福島、バーチャルを予選とし、最終決戦を東京で。優勝した選手には国内最高額となる賞金100万円を授与。そして会場には観客をいれてチケットも売る。これだけでもかなりの「無理ゲー」なのに「ただのクラブチーム」でもあるTWOLAPSは3ヶ月の間に3つのリアル大会と1つのバーチャル大会のサーキット形式の陸上大会、ミドルディスタンスサーキット(MDC)を成し遂げました。

それも、6月の日本選手権、7月の東京オリンピックを戦いながらTWOLAPSは準備を進めていきます。この大会を特別なものにしたのはレースディレクターをはじめとした企画・運営をTWOLAPSの選手たち自らが行ったこと。

大阪は石塚 晴子。
福島は田母神一喜。
東京は卜部蘭。

開催地が出身地でもある選手がレースディレクターをつとめ、各地独自のローカライズした企画やキャスティング、会場や地域陸協との調整だけでなくお弁当の手配まで。すべてにおいて選手たちが主体となってレースを作り上げた。

これまでTWOLAPSの選手たちにとってレースとは「出るもの」。しかし、レースを「自分ごと」として手探りながら作っていくなかで見えてきたものがあるといいます。

フィナーレ見て、「あ、こうなったんだ!」って

ーー横田コーチ、オリンピックイヤーに選手を送り出しながら、同時進行でよくこれをやろうと思いましたね?

横田真人
大学生の引退レース「もうひとつのインカレ」というレースを駒沢陸上競技場で作ったときに、「これ3つ作ればサーキットができる」と、思いついたんです。東京を含め、最低限3つ作れば試合としては最低限成立するわけじゃないですか。正直、腹くくれば、何でもできると思ってるところがあっていろんな人にもちろん迷惑かけたりとかしますけど、成功するかしないかはやってみないとわからない。準備から実施までの半年はほんと忙しかったですね。本当に正直言うと、しょっぱなの大阪の時はもうまじでやりたくねえって思ったんですよ。でも、フィナーレでスモークが出て金のテープが打ち上がったときに「あ、こうなったんだ!」って(笑)僕らも「これが正解!」「これを作りたい!」という気持ちはなくてその状況にあわせて最適解を考えていきました。だから福島大会と東京大会だと全然違うじゃないですか。人的なリソースもあるし場所柄もあるし。その時々にあわせてベストなものをみんなで作り上げられたことがこのサーキットの一番の成功だったのかなと思ってます。そう思えたのも、僕らが不完全だからだと感じるんです。みんなが「やってあげなきゃ」って作り上げたものだから。実際に選手としても走ってみて、最後の直線で、たむじょーが仕掛けてきて、並んだ時の歓声が僕が日本選手権で優勝した時の歓声とは違う歓声だったんです。明らかに質が違かった。1分51秒で、もちろん高校生とかが走ったら素晴らしいタイムだし、インターハイだったら沸くだろうけど、いい年こいたおっさんが1分51で走ってあれだけ沸くってことは陸上界になかった価値観だったと思うんですよね。中距離って何が面白いのって、僕らが因数分解するとタイムとかじゃなくてどっちが勝つか誰が勝つかを面白くしていくということが、中距離の価値に繋がるよねというところにたどり着いた。あのレースでも最後の直線までわからなかったじゃないですか。それがやっぱり中距離の面白さだし、僕らがやりたいことは少しはできたかなと思います。増田明美さんが東京大会のとき、「横田くん、ここはオレゴンの風が吹いているわ」って言ってて。僕もオレゴンいたんですけど、どの大会だったんだろう、いまだにそれが気になってます(笑)

あっこうなったんだ!の瞬間

自分が育った競技場でMDCをやりたいです

ーーMDCのMTGはすべてZOOMで行われました。そのすべてのMTGの議事録と物販の企画から販売までを取り仕切ったのが細井衿菜選手です。いつも議事録があっという間に出てくるのが驚きでした。

細井衿菜
もともと議事録をとるのは苦じゃなかったし、新田コーチから議事録にはToDoをつけるとわかりやすいよ。とアドバイスを頂いてそれから大学の競走部でも議事録も同じようにとってたら各方面からお褒めの言葉をいただいてやっててよかったなと(笑)物販に関しても新田コーチから「すべてまかせる!」と(笑)商品の企画からECサイトの立ち上げ、そして受発注から発送までのすべてをみることが出来たので、とても勉強になりました。通販だけでなく、試合会場で物販ブースを作ってペースメーカーやレースの前後にみんなで売り子をしたり。そうやって自分が手掛けたグッズがOTTとかいろんな大会で見かけます。それが本当にうれしいんですね。ECの売上をチェックしているとTWOLAPSの選手の一投稿でほんとに売上が動くんです。選手に積極的にツイッターやインスタグラムの投稿をお願いしたことでおかげで事前にたてていた数値目標も大幅に達成することができました。なるべくおまたせしたくないから、合宿先から発送をしようとすると合宿先が山奥だったりするから郵便ポストが小さくて入らない。だから、車で大きなポストがあるところまで連れていってもらってそこから合宿中も投函しつづけてました。佐久平駅のポストはうちのグッズで埋まっていたかもしれません(笑)本当は発送もECサイトがもっている配送サービスを使えば簡単にできたんですが、それだと「お礼のお手紙」が入れられないんです。TWOLAPSの選手からのお礼の手紙が入った商品が届いたほうが購入してくださった方はうれしいに決まってる。だから、手作業で送ることにしました。物販や通販を手掛けることの面白さを知りましたけど、やっぱりレースディレクターとして自分が育った競技場、岡崎(愛知県岡崎市)でもMDCを開催したいです。岡崎の競技場は新しくなったばかり。そしてTWOLAPSのインターンにも同じ地元の子がいるので一緒に実現させたいですね。

自分がデザインしたTシャツを着てペースメーカーを務める細井

3人のレースディレクター

ーー横田真人コーチは大阪・福島・東京のそれぞれの大会の色付けをそれぞれの地域出身の選手にレースディレクターとしてまかせた。それぞれの選手によるそれぞれのMDCとの関わりかた。

大阪大会の石塚晴子は中距離ではなく短距離選手でありながら運営だけでなくペースメイクも。

石塚晴子
中距離選手としての実績があるわけじゃなかったから、そもそも中距離の魅力をどのようにして伝えるか?さらにいうと、前例のない大会、その一発目となる大阪大会を、どうやればみんなに親しんでもらえるんだろうっていうのは結構考えに考えました。出場選手を集めることもレースディレクターの仕事です。みんなに手伝ってもらってアタックリストを作って「エントリーしてください。ぜひ会場に脚を運んでください」とお願いしていくなかで、馴染みのないものを浸透させていく難しさも感じました。でも、大阪大会があったことで、ストーリーが生まれ、福島大会、東京大会へとつながっていったと思ってます。3大会を終えてみて、もっといろいろ盛り込んでも良かったかもしれませんね。東京大会で最後にリレーをやりましたよね。あそこでなんか泣けちゃって。リレー終わったあと、赤チームに囲まれて号泣してたっていう。負けたからじゃないですよ(笑)陸上するっていうことを諦めて実業団の道に入った私がまさか数年経ってバトン握って走る日が来るっていうのも、自分的にエモかったのと参加している人たちが、本当に年齢も性別も立場も競技レベルも関係なく、ひとつになって。なんか笑顔で走ってて。それが良すぎて。私の前の走者が私の上司だったんですけどバッチバチに肉離れしてるのに必死に走ってくるんですよ。後日談で、上司が言うには「絶対敵わないなんていうのはわかってたんだけど、横田さんが僕の横をものすごいスピードで走っていた瞬間に、負けたくないと俺思っちゃったんだよね。そこで肉った」とか言って(笑)なんか陸上ってこんな風になれるんだって。かなり揺さぶられる体験でしたね。大阪大会で来年やりたいことですか?大阪陸協の理事と「来年は観客席でビールを売りたいね!」という話になりました。理事の方も47都道府県で一番自由な陸協でありたい。と感じているらしくチャレンジングな企画にも取り組んでいきたいと。実現したら、わたしもビールの売り子をやりますよ(笑)

MDC福島と東京では解説も担当

福島大会の田母神一喜はコロナ禍で開催そのものが危ぶまれるなか福島と東京を往復しながら準備を進めた。

田母神一喜
今までのその僕が関わってきたIIIF(スリーエフ)とかバーチャレとかは、やっぱり身近な人たち、それこそ福島に縁のある人たちと作ってきました。今回のMDCはTWOLAPSの人だけでなく、田中希実選手のようなオリンピアンも来てくださるということを、いかに活かした大会作りができるかなと考えたとき、福島の子どもたちは日本のトップ選手で触れ合う機会ってほぼないので、何か特別な時間にしたいと思いました。小学生がトップ選手たちをペースメークするというアイデアはそういうところから産まれてます。一つ残念だったのはやっぱりコロナ禍の中で観客を入れられなかったこと。福島県自体は陸上にすごい理解がある県です。2021年の夏、東京オリンピックでテレビでしか観ることができなかった田中さんの走りをみて、会場に来てくれた陸上関係者の人たちでさえ、あんなに盛り上がったのを他の県民の方々に共有できなかったというのがすごく悔しかったです。先日、学法石川高校の保護者さんと話す機会があったときに、コロナ禍で自分の子供たちの試合、ひとつもあの観に行けなかったけど、MDCの福島大会で子供たちの走る姿を県内で見ることができたことが本当に良かった。と言っていただいてやっぱり福島でできて良かったなっていうのすごい感じましたね。ただ、心残りなのは、福島大会を終えて学法石川の後輩を駅まで送って会場で出たゴミを処分しているうちに、記念撮影が終わっていたこと(笑)集合写真の一番後ろでジャンプをするという僕のルーティンを地元福島で撮れなかったことがとても残念だったので、そこは次回リベンジしたいです(笑)

レース前、地元の小学生に優しく話かける田母神

東京大会の卜部蘭は東京オリンピック1500m予選直後にオンラインで行われていたMTGに現れた。

卜部蘭
元々サッカーを見るのが好きで、サッカーでの一体感のある応援スタイルやスタジアム周りにも飲食やブースが展開されていて、試合じゃない部分でも楽しめていることに憧れがありました。こういうことが陸上でできたらいいなと。みなさんの力をあてにして、いろいろ企画を出すことにしました。東京陸協のみなさんと打ち合わせをしていくなかで、私から提案させていただいた試みにもご理解をいただいて「よし!やりましょう!」と二つ返事で取り組んでいただいて、一緒に作ってくださるみなさんの仕事量を増やしてしまうなというのもわかってはいたのですが、競技場のエントランスに集まったブースでは子どもからオトナまで、みんな笑顔で楽しんでいる姿がうれしくて。東京オリンピックのレース終わった日にもミーティングに参加させていただいて、こんなにも多くのみなさんが関わってくださることを改めて知って、私も大会への思いがどんどん募っていきましたね。目に見えないところでもみなさんが動いてくださっていることをレースディレクターとして知ることになったのは本当に良かったです。トランシーバーを前日に充電をしておくこと。その充電のために、会議室を押さえておくことみたいなことは選手の目線では気づけないことですから。大阪や福島で仲間が先んじて大会を作ってくれたことで東京大会はスムーズに進めることができました。MDCってどういう大会か?って最初はみんなピンと来なかったと思うんです。それを晴子ちゃんが「そうそう!それ!」とわかりやすく漫画で説明してくれた。たもちゃんは発想力。「陸上の大会ってここまで自由に可能性を広げられるんだ」って教えてくれたような気がします。小学生が日本トップクラスの選手たちのペースメーカーをするなんて、発想は私にはないですから(笑)次の大会ではもっと東京ローカルなことを考えてみたいと思ってます。世田谷で使える商品券とか地域活性化にもつながっていきそうですよね。こういうムーブメントは続けていくことで増えてくると思います。でも、やっぱり東京大会を駒沢でできたというのは、私は嬉しかったです。自分が育った競技場ですからね。

オリンピックのレース直後、MTGに参加した卜部に誰もが驚いた

お願いできる人たちがたくさんいたからできた

TWOLAPSには選手だけでなく、バックヤードを支えるスタッフたちもいる。新田コーチは日常のコーチングの傍ら、運営を進めるたびに噴出しつづける問題をスタッフやボランティアやインターンたちをあてにすることで抱え込むことなく、MDC開催までこぎつけた。

新田良太郎
MDCでは横田さんとぼくとTWOLAPSの経営マネジメントとして関わる小堀秀洋さんでバックヤード業務を回していました。本当に毎日忙しくて余裕の無くなったぼくが横田さんや小堀さんに当たるなんてことも(笑)大会運営では「これ誰に頼めばいいんだろう?」という手にあまる問題がたくさん出てきます。誰に頼めばいいのかわからない問題。そういうときぼくは迷わずCASTER BIZのオンライン秘書をあてにしました。(2021/5/1から株式会社キャスターとTWOLAPSはアウトソーシング・クリエイティブパートナー契約を締結)今回のMDCにおいては、主にボランティアやインターンの差配を横田さんが、そして各地域陸協との窓口を小堀さんにお願いしました。一口にボランティアといっても、大阪、福島、東京と違う地域で人集めをしなければなりません。地域陸協とのやりとりも各地域それぞれのやり方がある。同じパッケージのまま3大会やるってわけではないんです。まあ、毎日のように問題が噴出するんです。レースそのものを作るだけでなく、赤字では終わらせられないですからスポンサー営業もしなくてはならない。一方で東京オリンピックも控えてましたからスーツを着て営業に出向く時間もない。営業先をリストアップするだけでも一日分の仕事になりますよね。そういうときにオンライン秘書にお願いするんです。朝、練習に行く前に「MDCのスポンサーをリストアップしたい。時期はいつで、場所はここ。スポーツ関連に興味のある企業」みたいに項目出しをしてメールでお願いしておく。そうすると数日以内には50社ほどがリストアップされてくる。今度はそのリストをみながら、営業メールを送ってくれるようにオンライン秘書にお願いしておく。そうして、感触が良い企業をさらにリストアップしてもらい、そこからは直接お願いをしていく。闇雲にお願いして断られるのではなく、興味をもっている会社と話すわけだから当然、成約する確率がかなり高いんです。今回、MDCではECを使って物販もしましたが、Tシャツをどこで作ればいいか?数あるECサービスの中でどこを使うか?なんてことをゼロから自分たちでやっていたらそれだけで大仕事です。そういうのもオンライン秘書にお願いして見つけてきてもらうんです。大学生の細井選手がすぐにECサイトを運営できたのもそういう背景があるんですね。今回のMDCの運営スタッフにはOTTなどを通じてボランティア経験のあるスタッフやTWOLAPSの事業に興味のある大学生たちがインターンとして主体的に関わったことも大きかった。広報窓口を仕切っていたのはひとりの女子大学生。陸上をやっていたけど、卒業後はPR会社で働きたいというプロフィールをみて、広報業務全体を彼女に仕切ってもらうことにしました。東京オリンピックに出たばかりの選手たちが出場するとあって集まったマスコミの数はすごかったんですが、彼女が一切をちゃんと取り仕切りました。ニュースや新聞でもたくさんMDCのことが報じられたでしょう。次にMDCが目指すことは、僕の中では決まってます。それは「1万人を集めること」。今回のMDCは東京で1000人くらいが有料観客として集まりました。この1000人のファンが5人づつ友達を連れてきてくれたら5000人。それを3大会できたら、ほら1万人超えそうでしょう(笑)そんなに簡単にうまくいくとはもちろん思ってませんが、「1万人」という数字を頭にいれながら進めていくつもりです。ちなみにこの取材の文字起こしもオンライン秘書にお願いします(笑)


2022MDC

すでに告知していますが2022年もミドルディスタンスサーキットは開催します。すでに準備も進みはじめています。これまでの企画の成り立ちや進め方をオープンにすることでランナー、観客、だけでなく、ともにレースを作るボランティアとしてこのMDCに関わってくれる方が増えてくれるととてもうれしいです。皆さんのご参加お待ちしております!

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