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パリオリンピック1万m出場権と世界ランキングの仕組み

パリオリンピックの参加標準記録は男子が27:00、女子が30:40に設定され、それぞれ27人まで出場できる。一カ国3人まで出場でき、参加標準記録で埋まらなかった部分は世界ランキングの上位者で人数調整される。ただ今回は前大会と違ってクロスカントリー枠が新たに設けられ、ここから8人が出場できる。なので参加標準記録に少し手が届かないが、世界ランキングは高い日本人選手たちにとっては前大会より出場しにくい仕組みになってしまっている。



世界ランキング順位ポイントの仕組み

1万メートルの試合はあまり多く行われないので、必然的にいくつかの限られた大会にレベルの高い選手が集まる。まずエチオピア、ケニア、アメリカ、日本、そしてヨーロッパ選手権などの自国の陸連が主体となって開催される大会は外せない。速いタイムが出るだけでなく、順位に応じて世界ランキングを伸ばすのに重要なポイントが貰えるからだ。たとえば日本選手権で1位を取るとタイムでもらえる点数に60点が順位点として追加される。(オーストラリアやアメリカの選手権も同様の点の仕組み)だがこの点数もヨーロッパ選手権1位に与えられる110点、世界陸上選手権1位に与えられる280点と比べると対して大きくない。

逆にエチオピア・ケニア選手権は1位をとっても点数は10点ほどしかもらえない。つまり順位点が低いほど選手たちは順位よりタイムを重視した試合運びをし、順位点が格段に高い世界陸上の舞台ではタイムにこだわる必要がなくなる。

だが各国の選手権以外にも1位を取ることで高い順位点をもらえる大会が主に2つある。1つ目が3月にアメリカで開催されるThe TENという大会で、2つ目が5月にイギリスで開催されるNight of the 10k PB'sだ。いずれもどの国の選手でも参加でき、1位に60点が与えられる。前者の大会では参加標準記録を突破する選手が男女合わせて12人出た。ちなみに後者はイギリス選手権も同時に兼ねており、後ほど詳しく触れる。

さらに新しくロードレースでも参加標準獲得が認められたため、1月に開催されるバレンシア、その他にもスペインのマラガやセビリアで10Kmのレースで27分を切るタイムを走った選手がケニアや、エチオピア、ウガンダから数人いる。ただこちらの方の大会は順位点は貰えないので、例えば自己ベストが27:30の選手が走るメリットはあまりない。


Night of the 10k PB's の試合展開

残念ながら当日に参加標準記録を突破した選手は男女ともにいなかった。だが女子の方では素手に3月に参加標準記録を超える30:36を走ったMegan Keithが全体・イギリスの選手のうちで1位を取ったのでオリンピック代表の内定を獲得した。試合中は終盤まで先頭を取らず、残り2周でFiona O'Keeffe(アメリカ版のMGC で優勝し、オリンピックマラソン代表に内定)、に離されかけたが、最後の20m程で前に出て優勝を31:03.02のタイムで優勝を決め実力を見せつけた。

最後の100mで後ろにいたMegan Ketihが前方のFiona O'Keeffeをとらえる

男子の方はPatrick Dever とCharles Hicks が代表内定を狙って27:00のペーシングライト通りに試合を進めた。だが5000m程でCharles Hicks がペースから遅れ始め、Patrick Deverも7000m程からペースから少しずつ離れていった。一方世界ランキングを上げに来た相澤晃と葛西潤も序盤は27:10~27:30ぐらいのペースで上位10人の中にいたものの、相澤晃は少しずつ順位を下げ始め、反対に葛西潤は少しずつ順位を上げ始めた。最終的にはMohamed Ismail が先頭で孤立していたPatrick Dever を捉えて27:22.38で優勝した。

青のユニフォームがPatrick Dever,赤のユニフォームがCharles Hicks
青のナイキのシングレットを着た相澤は全体の真ん中ほどでレースを走った

葛西潤も日本選手権から2週間ほどしか経っていない中で27:34.14のタイムでレースを5位にまとめた。最後の直線で一人を追い越すものの、2021オリンピック5000m銅メダリストのPaul Chelimoに0.1秒差で競り負けての順位だった。この結果は葛西の世界ランキングを相澤と田澤の上に押し上げ、オリンピック出場権がもらえる可能性を大きく引き上げた。だがこのランキングは6月12日に開催されるヨーロッパ選手権の1万mの結果次第でまだいくらか変わるので断定的なことはそれまでかけない。

手前がPaul Chelimo, 奥にアディダスの黒のシングレットを着た葛西が見える

つまりフランスのJimmy gressier, イギリスのPatrick Dever , フランスのFelix Bour,そしてスイスのDominic Lobalu(31位) の結果が太田智樹、葛西潤のオリンピック出場権の獲得に大きく関わることになる。

6月11日時点のパリオリンピック出場権

ヨーロッパ選手権

ヨーロッパ選手権の1万mはペーサーやウェーブライトがなく、先頭を譲り合う形となり、ペースを上げたいPatrick Dever がしびれを切らしてレースの大部分を引っ張った。序盤の29:10ペースから少しずつ上がり、7000m頃には28:30のペースに上がった。残り一周でAndreas Almgren(今年スウェーデンの5000,10000,ハーフマラソン記録を樹立)が先頭に立ち逃げ切れるように見えたが、Dominic Lobaluが最後の100mで抜かし28:00.32で優勝した。

最終直線でスイスのDominic Lobaluが前に

この結果を受け、葛西潤が出場枠の27人からこぼれ落ちてしまった。これ以降は大きな1万mの大会がエチオピア選手権以外はないので順位変動はほぼないだろう。葛西と相澤は厳しい立場に置かれたが、標準記録を突破した人数が少ない国(エリトリア、スペイン、ベルギーなど)の選手が何らかの理由で参加を辞退すればオリンピック出場権はすぐに回ってくる。

6月14日時点のパリオリンピック出場権



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