「アマゾンで買った書籍の消費税は払い損?!」ではありません。

日本出版社協議会(以下出版協)という社団法人があります。この法人のサイトに同会の副会長であり、自らは彩流社という出版社の代表者である竹内淳夫という方が、「アマゾンで買った書籍の消費税は払い損?!」という記事を書いています。該当記事 → 出版協のサイト

この記事は「アマゾン 消費税」というキーワードでグーグル検索すると常に上位にヒットする記事であり、この記事の主張に同意した意見もネット上で見つかります。主に「アマゾンは書籍の国内通販で消費税を払っていない」という意見の根拠として引用されることが多いのですが、これは全くの誤解であり、アマゾンは国内での書籍販売を含む通常の通販事業については消費税の納税義務者であるので、法令に従った消費税の納税義務を果たしているはずです。 → 「アマゾンの日本での消費税の納税について」

竹内氏の記事は多くの誤解と根拠の無い憶測に基づいたものであって、アマゾンを批判する立場からも、消費税を批判する立場からも、この記事が正しいものとして読まれてしまうことは望ましくないと思います。

今回、この竹内氏の記事の誤っている点を一つ一つ指摘することで、これ以上、竹内氏の記事を根拠として「アマゾンは消費税を払っていない」という誤解が広がらないようにしたいと思います。

■国内取引の課税の対象

アマゾンが行っている国内通販は、アマゾンという外国法人が、日本国内に存在している「モノ」を日本国内の購入者に対して販売するという行為です。

これは消費税法が定めている課税の対象に該当し、アマゾンは消費税の納税義務者です。

(課税の対象)
「国内において事業者が行った資産の譲渡等には、消費税を課する。」
(消費税法第4条)

「資産の譲渡等」というのは消費税法で定義された用語ですが、今回問題になっている「通販」という行為は、「資産の譲渡」(モノを売ること)であり、「資産の譲渡等」に該当します。

(納税義務者)
「事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務がある。 」(消費税法第5条)

「事業者」という用語も消費税法で定義されていますが、これは「個人事業者及び法人」を指します。この定義により全ての法人は消費税法上の事業者に該当します。全ての法人なので、米国アマゾン社のような外国法人も消費税法上の「事業者」です。

国税庁の説明参照 → 非居住者及び外国法人の申告・届出の方法

次に「国内において」という部分です。アマゾンは外国法人であり、日本に子会社はあっても、取引の主体であるアマゾン社は米国シアトルにあります。シアトルにある会社が日本国内で通販を行う行為は「国内において」に該当するのでしょうか?これは下記の通り法令により該当することになっています。

(課税の対象)
「資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、次の区分に応じそれぞれに定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。 」
(消費税法第4条3項)

「通販」の場合はどうなるでしょうか。
(課税の対象)
「資産の譲渡である場合 その譲渡が行われる時においてその資産が所在していた場所」
(消費税法第4条3項1号)

つまり「モノ」の販売である場合、その販売が国内取引になるかどうかの判定は、「そのモノ」が国内にあったかどうかによるとされているわけです。「誰が」売ったのかということは関係ありません。

■竹内氏は法人税の問題と消費税の問題が違うということを理解していない。

竹内氏の記事の冒頭に、国税庁がかつて、アマゾン社に対して課税をしようとしたが、日米課税当局の協議によりこの課税は取り消されたということが書いてあります。このこと自体は事実なのですが、これはあくまで法人税に関することであり、消費税の課税関係とは全く関係がありません。

竹内氏の記事では、同氏がアマゾンが日本の消費税を払っていないとする根拠が全く示されていないのですが、この記事全体の趣旨からすると、上記の法人税の課税がされていないということを同氏が独自に拡張解釈して「消費税も払っていない」と思い込むにいたったのではないかと考えられます。

■参議院議員有田芳生氏の質問主意書について
竹内氏はまた、平成25年11月11日に、民主党の有田芳生議員が参議院に提出した「出版物販売における海外事業者への課税に関する質問主意書」についても触れています。この質問主意書には5つの質問が掲げられています。竹内氏の記事では「四点を質した」とあり5つ目の質問に触れていませんがこの5つ目の質問がまさに、「外国法人の日本国内での消費税の課税関係」に関するものなのです。竹内氏はこの質問及び回答に関しては一切触れていません。

有田議員の質問のうち、1~3は米国アマゾン社及びその内国子会社の課税関係に関するものであり、答弁書ではこれらについては「個別具体的な事例」ということで具体的な答弁はされていません。これは全く当たり前のことであって、国会において、個別の企業の課税関係がどうなっているかということは、基本的には明らかにされる理由がありません。

この質問主意書に対する答弁のうち重要なところは4~5であり、ここで内閣は、消費税法の規定をそのまま説明することによって、間接的に「アマゾン社の国内通販については、法の規定どおりの取り扱いがされている」ということを示しているのです。

有田芳生氏の質問主意書 → 参議院のサイトのアーカイブ

■なぜ、竹内氏はアマゾンが消費税を払っていないと考えているのか。

出版協の前身は、出版流通対策協議会という業界団体であったようですが、この旧協議会のサイトを見ると、同会の目的が記載されています。

それは

1=再販売価格維持制度(再販制度)の堅持
2=差別取引の撤廃
3=出版・表現の自由を守る

の三点であるようです。

このうち、1の再販制度の維持という目的と、アマゾン社に対する批判は密接に関連しています。

アマゾンは、Amazon Studentという大学生等に対する書籍の優待販売を行っています。対象となる購入者には10%のポイントを付与するということで、これはアマゾンが書籍を10%の値引き販売をしていることに相当します。

竹内氏は、このAmazon Studentに対して大きな危機感をいだいており、これが今後、学生限定に留まらず、全てのアマゾン利用者に対して同様の値引き販売が行われることになったら、再販制度が維持できなくなってしまうと考えているようです。

竹内氏は下記に引用するようにこのポイントサービスの値引きの原資が「購入者から受け取っていても納税していない消費税にある」と考えているようです。

「この値引きの原資が当初ははっきり分からなかったが、実は消費税の“ただ取り”がそれだったとすれば、10%になった時は、どれだけのポイントサービスが可能か、考えるだけでも恐ろしい。」

既に説明したとおり、アマゾンは国内通販分の消費税は納税しており、この竹内氏の推測は憶測に過ぎません。

■電子書籍のことと混同しているのではないか

今回直接批判の対象としている竹内氏の記事では触れられいないことですが、「アマゾンが払っていない税金」という点では「Kindle 電子書籍の配信」には現行の法令では日本の消費税はかかっていない。ということもあります。

「(法人税の)追徴課税がされたが日米協議の結果、アマゾンは(法人)税負担を免れた」ということと「Kindle 電子書籍の配信についてはアマゾンは消費税を払っていない」ということを独自に拡大解釈して、「アマゾンは一般書籍の通販の消費税も払っていない」と思い込んでしまったのではないでしょうか。

→ 「アマゾンの日本での消費税の納税について」

■「一般的に輸出業者には還付されることになっている。」

竹内氏は次のように書いています。
「アマゾンジャパン社は読者からの注文を受けると、日販等取次を通して調達、アマゾンジャパン・ロジスティクス社の倉庫に納品され、代金はアマゾンジャパン社から支払われているという。この代金は消費税込みであるが、一般的に輸出業者には還付されることになっている。」

上記引用部分で「一般的に輸出業者には還付されることになっている。」とあるがこれはどういう意味でしょうか?アマゾン社の仕入れた書籍は、そのまま日本国内にある、「アマゾン・ロジスティクス社の倉庫に納品される」のであって、別に輸出されるわけではありません。

ここで竹内氏は、「モノを仕入れて売る」場合に販売者(この場合米国アマゾン本社)が自分の手元にいったん置く必要があると考えているのではないでしょうか?アマゾンは自分が日本国内で仕入れたものは、自社の子会社であるアマゾンロジスティック社の倉庫に納品させることで、自らの管理化におきます。これだけでアマゾンは日本で販売する物品を自分で仕入れたことになります。

「一般的に輸出業者には還付されることになっている」という表現で、竹内氏はアマゾンが輸出免税の適用を受けることで、取次に対して支払った消費税の還付を受けているのであるということを示唆しているようです。しかし輸出免税を含む消費税法に関する十分な知識が無いために、「一般的には」と曖昧な表現に留めています。

「書籍を輸出する」というのは書籍そのものが外国に対して送り出されることであって、国内に所在する書物を外国法人が仕入れることとイコールではありません。

輸出免税による消費税の還付を受けるためには消費税法に定める「輸出証明」が必要であり、「伝票の処理のみ」で免税を受けることはできません。

■「伝票上は輸入扱いになって、消費税を日本に納める必要はない。」

竹内氏は「アマゾンが消費税を払っていない」ことをどのように表現しているでしょうか?

「売り主はあくまでもAmazon.com Int'l Sales,Inc.で、実物は国外に出ることはないが、伝票上は輸入扱いになって、読者が支払った消費税はシアトルにあるAmazon.com Int'l Sales,Inc.に入るが、その消費税を日本に納める必要はない。」

この部分には正しいことと誤りが混在しているので分解してみましょう。

【正しい】
(1)売り主はあくまでもAmazon.com Int'l Sales,Inc.
(2)実物は国外に出ることはない
(3)読者が支払った消費税はシアトルにあるAmazon.com Int'l Sales,Inc.に入る

【誤り】
(4)伝票上は輸入扱いになって
(5)その消費税を日本に納める必要はない

上記で「正しい」に分類したことだけで米国アマゾン社は普通に消費税の納税義務者になります。「誤り」に分類したことのうち、(5)は結論なので、竹内氏の根拠は(4)だけであるということなります。

さて、この部分を否定しようとすると困ってしまいます。「伝票上は輸入扱いになって」と言うこと自体が全く意味不明なことだからです。「輸入」というのは海外から到着した貨物を国内に引き取ることです。アマゾンが国内で販売する国内出版の書籍は一度も海外に出ていないのに、どうやって「輸入」するのでしょうか?竹内氏には「伝票上輸入」ということでどういう取引を想定しているのか教えて欲しいです。あるいは税関なり関連行政機関に対して「モノが実際に海外と国内の間で移動せず、伝票上輸出、輸入ってことはありえますか?」と質問してみて欲しいです。

どうして竹内氏は「伝票上は輸入」なんてことを思いついたのでしょうか?それは「アマゾンは輸出免税を受けているのではないか」という憶測と、「外国法人がモノを仕入れる時は手続き上、いったん手元に置く必要がある」と誤解していることによるのではないでしょうか。この二つを根拠に、アマゾン社が仕入れた書籍は「伝票上一旦、シアトルにあることになっている」と考えたのでしょう。しかし書籍は日本国内の購入者の所に届けられるので、今度は「伝票上輸入される」とこじつける必要があったでしょう。

それからもう一つ、竹内氏には消費税に関する重大な知識が欠落しています。それは「輸入の際に消費税がかかる」ということです。

(課税の対象)
「保税地域から引き取られる外国貨物には、消費税を課する。 」
(消費税法第4条2項)

もし竹内氏が考えているように、アマゾンは仕入れた本を輸出しているとして免税還付を受けているとしたら、今度はその本を「輸入」する時点で消費税が課されるのです。輸出の時に還付を受けて、輸入の時はそのままであるなんて都合が良いことがあるはずありません。

というかそもそも竹内氏が考えているような「モノが動かないまま伝票上、輸出、輸入」なんてことはありえないのです。

竹内氏が「書籍の再販制度の堅持」のためにアマゾンのポイント制度を批判することは自由です。確かにもし現在のような学生向けのポイント付与に留まらず10%という高額なポイントが一般向けにも付与されるようなことになれば、ただでさえ、打撃を受けている書籍の小売業界は大打撃を受け、それが「出版の自由を脅かす」ことに繋がることもあるかもしれません。

しかし、その自らの主張を行うのに、全く根拠の無い「アマゾンで買った書籍の消費税は払い損?!」というようなことを言い出すのは、間違いであると思います。そんな憶測に基づき、自分の主張をしても、正しくない根拠に基づいていれば肝心の「再販制度維持」という主張まで不確かなものになってしまいます。

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私の竹内氏に対する反論は以上ですが、こんな匿名の記事で反論を受けても、竹内氏は納得しないかもしれません。

竹内氏及び関係者の方々にお勧めしたいのはそれぞれ出版社だったり書店だったりの経営者さんなのでしょうから、自社の顧問税理士、あるいは自社の経理担当者に「自分の記事は間違っていないか」ということを確認してもらうことです。

■奥村税務会計事務所さんの代表者ブログ「消費税回避の達人、アマゾンのしたたかさ」という記事について。→ 該当記事

この記事も「アマゾン 消費税」でグーグル検索すると常に上位にヒットするページです。しかし、このページの内容も多くの誤りがあるページです。

「140億円の消費税の追徴課税が2009年に東京国税局からなされた。」とありますが、この追徴課税は消費税ではなく、法人税に対するものです。

「ネット販売では、日本に拠点を持たない、つまり日本に会社が存在しない場合、日本の納税義務者になりえないのだが、東京国税局は日本にある倉庫を日本に支店があるとみなして課税したのである。」この部分は、外国法人に対する法人税の扱いに関して、PE(恒久的施設)の有無によって法人税の課税の有無が判断されるということについての説明だと思います。つまり上記記述は法人税の納税義務が無いということについての説明ならば概ね妥当しますが、消費税の納税義務が無いということの説明には全くなっていません。

この記事のこの後の記述はアメリカの州税である売上税に関するものですし、このページのタイトル自体も「消費税回避の達人」というものであり、「消費税」に関する記事のつもりで書いたものであるようです。

どうして、このような誤りが多い記事を税理士事務所の代表の方が書いているのかよく分かりません。

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