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ラファエル前派のモデル 三美神


Aglaia Coronio(1834-1906)

ジョージ・フレデリック・ウォッツ《アグラーヤ・コローニオ》1874年

ギリシア系の実業家、アレキサンダー・アイオニデスの娘。ウィリアム・モリス及びロセッティと親交を結ぶ。ウィリアム・モリスに製本を教わり、製本家となる。従妹のマリア・ザンバコおよびマリー・スパルタリと共に「三美神」と称された。ギリシア神話の三美神の一人の名前は「アグラーヤ(輝き)」である。娘が死亡した翌日に自殺した。

Maria Zambaco (1843-1914)

バーン・ジョーンズによるマリア・ザンバコ

裕福なイギリス系ギリシア人の商人、カサヴェッティの娘としてロンドンに生まれる。スレイド美術学校でロダンに師事した。1860年にザンバコ医師と結婚し、フランスへ移住したが、結婚生活はうまく行かず、ロンドンへ戻った。1866年にバーン・ジョーンズと出会って恋愛関係となり、駆落ちを試み、マリアは自殺未遂騒動を起こした。二人の関係は1870年代初頭まで続き、恋愛関係が終わっても、マリアは魔女、誘惑者のモデルとしてバーン・ジョーンズの作品に登場した。

Marie Spartali Stillman (1844-1927)

ロセッティによるマリー・スパルタリ

ギリシア系の富裕な貿易商の娘としてロンドンに生まれる。絵画の才能を発揮し、1864年から数年間、フォード・マドックス・ブラウンに師事。マリーは家族の反対を押切り、アメリカ人のジャーナリスト、スティルマンと結婚。
A.C.スウィンバーンはマリーを「彼女が非常に美しいので、私は座って泣き出したいほどだった」と称し、ロセッティ、バーン・ジョーンズ、スペンサー・スタンホープ、ジュリア・マーガレット・キャメロン(写真)のモデルを務めた。イギリス及びアメリカの展覧会に定期的に出品し、第二世代のラファエル前派とみなされる。

モデルを務めた作品

水車

バーン・ジョーンズ 《水車》ヴィクトリア&アルバート美術館、1870年

左手で踊っている3人のモデルは、左からマリア・ザンバコ、マリー、アグライア・コローニオです。とはいえ、私には右側の女性も含め、ほとんど同じ顔に見えますが

ボッティチェリ《春》1470-80年代、ウフィツィ美術館

バーン・ジョーンズは本作の製作にあたり、ボッティチェリの《春》やピエロ・デッラ・フランチェスカを参照し、完成までに12年を要しました。バーン・ジョーンズらしい、穏やかな、夢のような雰囲気があります。デイヴィッド・セシルは「慎重に呼び起こした、哀愁に満ちた白昼夢の表現」と評しています。

プシュケ

バーン・ジョーンズ《マリア・ザンバコ》1870年

マリアの母、カサヴェッティ夫人は、バーン・ジョーンズにマリアをモデルとしてプシュケを描くように依頼しました。キューピッドは幼児の姿で描かれる場合と、少年~青年の姿で描かれる場合とがあります。通常、恋人のプシュケと共に描かれる場合はプシュケの恋人にふさわしい青年の姿ですが、この作品では若い女性のプシュケの隣に、その子に見えるような赤ん坊のキューピッドが描かれています。

魔性の女

バーン・ジョーンズ《騙されたマーリン》1870年代、レディ・リーヴァー美術館
バーン・ジョーンズによる習作

マリアとの恋愛関係が破綻すると、バーン・ジョーンズはマリアを魔女、誘惑者として描くようになりました。アーサー王伝説に登場する魔法使いのマーリンは、若い恋人の湖の乙女ヴィヴィアン(エレイン、ニムエとも)にすべての魔法の知識を教え、ヴィヴィアンはマーリンをサンザシの木の中に閉じ込めます。ヴィヴィアンは頭に蛇をかぶっています。ロセッティのファム・ファタルであったジェーン・モリスが夫に幽閉される存在として《トロメイのピア》や《ペルセポネ》に描かれたのに対し、ここでは女性の方が力を失った男性を閉じ込める側になっています。

ロセッティによるマリア・ザンバコ

フィアンメッタ

画家のマドックス・ブラウンの元へ評判の美人が弟子入りしたことを知ったロセッティは、「ぜひともマリー・スパルタリを描きたい」と打診しました。

ロセッティ《フィアンメッタのヴィジョン》個人蔵、1878年

フィアンメッタはボッカチオのミューズの偽名です。ボッカチオの複数の作品に登場します。「フィアンメッタ」は「小さな炎」という意味です。額には、ボッカチオのソネットとロセッティ自身によるソネットが記されています。

田園風景

ロセッティ《草地の休憩所》1872年

ツィターを爪弾くブルネットの女性がマリーで、その隣の赤毛の婦人はアレクサ・ワイルディングです。ロセッティの作品で、田園風景を描いているのは本作のみのようです。4人がバランス良く配置され、音楽の和声を思わせます。習作段階では、音楽の象徴的な表現として、二人の間に小鳥を持つケルビムが描かれていました。背景の野原を走っている人と、右上に描かれている建物が、謎めいた、シュールレアリスティックな効果を生んでいます。出典

本作は視覚的効果を重視した音楽の表現であり、楽器を演奏したり、踊ったりするには不自然な姿勢です。音楽と踊りがある場合、踊りがメインで前面に出ることが多いと思いますが、ダンサーがバックになっているのがユニークです。観客として眺めているのではなく、舞台裏に視点があるかのように、演奏者の背後から描かれており、全員が体をひねり、それぞれ別の方向を見ています。

ロセッティによるマリー・スパルタリ・スティルマン

画家 マリー・スパルタリ・スティルマン

マリー・スパルタリ・スティルマン《ペトラルカとラウラの初対面》1889年

マリー・スパルタリは、遺言に、「遺す資産も金銭もないのに、遺言をするのも馬鹿げたことですが…」と書いていますが、彼女の作品群は6億9000万ドル以上の価値があるものと見積もられています。作品の多くはズッカーマン・ロドリゲス財団が所有しています。

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