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ラファエル前派のモデル ファニー・コーンフォース

Fanny Cornforth 本名 Sarah Cox (1835-1906)

ロセッティによるスケッチ、1859年

1851年の国勢調査によると、ファニー・コーンフォースはメイドであった。1860年頃、妻エリザベスが存命であったが、ロセッティの愛人となった。エリザベスはファニーを嫌っていたとされることもあるが、彼女がファニーを知っていたという証拠はない。エリザベス・シダルの死後、ロセッティの家政婦となり、愛人関係はロセッティが亡くなるまで続いた。ファニーは労働者階級出身で教育がなく、ロセッティの家族や友人の多くは彼女を認めず、関係を解消するようにロセッティに忠告した。

モデルをつとめた主な作品

キスされた唇

ロセッティ《ボッカ・バッキアータ》1859年、ボストン美術館

ロセッティにとって、ファニーはエリザベス・シダルやジェーン・モリスとは対照的な、官能的な美の化身でした。本作の裏面には「キスされた唇は新鮮さを失わず、月のごとく新しさを増す」というイタリアのことわざが記されています。ボッカチオの『デカメロン』の挿話の一節に由来し、発表されると「下品」と酷評されました。絢爛たる入念な装飾は、見るものを楽しませる目的で描かれたもので、深い意味はないようです。

ロセッティによるスケッチ

ファニーはあまり身持ちがよくなかった、という話もあります。そのことも、ロセッティの家族や友人たちが彼女を受け入れ難いと考えた一因でした。

堕ちた女(fallen woman)

ロセッティ《見つかって》1869年、デラウェア美術館

ロセッティは娼婦にシンパシーを抱いていました。本作は、田舎に暮らしたくない少女が、婚約者を捨てて都会に出て、生活苦から娼婦に身を落としたところ、たまたま子山羊を持って都会にやってきたかつての婚約者に見つかり、故郷に帰るように説得されて、抵抗しているシーンです。手押し車に乗せられた子山羊はこの女性が失った純粋さの象徴です。網をかけられており、彼女がこの境遇から逃れられないことを暗示しています。元婚約者は田舎の農夫の服装をしています。女性のけばけばしく安っぽいドレスとのコントラストを見せています。ファニーは金髪でしたが、不自然なほどに赤い髪の毛は、染めているのかもしれません。

ディケンズの小説に登場するヴィクトリア朝の「堕ちた女」や、エリザベス・ギャスケルの『ルース』のヒロイン、『メアリー・バートン』のへスターなどのイメージだと思います。本作は未完成です。

青い部屋

ロセッティ《青い小部屋》1865年、バーバー美術館

本作にはエキゾチックな小道具が使用されています。ファニーがつまびいているのは、日本の琴で、背景はアラビアのタイルと、中国の梅の模様が混ざり合っています。19世紀にヨーロッパで流行したシノワズリ、ジャポニスムの影響があるようです。鮮やかな色彩や、花、滑らかそうな触感など、見る喜びにあふれた一枚です。

魔女シドニア

バーン・ジョーンズ《シドニア・フォン・ボルク》1860年、テート美術館

シドニア・フォン・ボルク(1548-1620 )はルネサンス期に実在した人物で、殺人及び魔術を扱ったとして、処刑されました。「宿命の女」としてマインホルトの『魔女シドニア』等の複数の文学作品の題材となりました。ラファエル前派ではメデューサ的ファム・ファタルと認識されていました。シドニアの背後には、魔女のマスコットである黒猫が見えます。

バーン・ジョーンズ《クララ・フォン・ボルク》1860年、テート美術館

シドニアの善良な妹で、姉により殺されたクララ・フォン・ボルクを描いた対になる作品です。モデルは、バーン・ジョーンズの婚約者のジョージアナです。足元の黒猫が、クララが手に持っている小鳥を狙っているのは明らかで、シドニアが黒猫、クララが小鳥なのでしょう。

イザベラ・デステのドレス

ジュリオ・ロマーノ《イサベラ・デステ》イギリス王室コレクション、1531年

バーン・ジョーンズ描くシドニア・フォン・ボルクは非常に複雑な模様のドレスを着ていますが、これはジュリオ・ロマーノが描いたイサベラ・デステの肖像画に由来します。このもつれた模様は怪しげなものを連想させます。

カドガン・クーパー《虚栄》王立美術院、1907年
カドガン・クーパー《セレナーデを聴くヴェネチアの女性たち》ポンス美術館、プエルトリコ

このめずらしいドレスは、ラファエル前派に影響を受けたフランク・カドガン・クーパーもルネサンスらしいと考えたのか、自作の中に描いています。どういう構造になっているのか、絵からは分かりませんが、洗濯がとても大変そうだと思います。

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