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「電波少年」を守った男は「歌モノを撮らせたら日本一」のディレクターだった!後にマイケルジャクソンを唸らせた演出テクニックはどうやって生み出されたのか?!

土屋:では、一番最初に棚次さんのご紹介。僕、一番印象的なっていうか、まずご紹介させていただきたいのは、僕が『電波少年』をやっている時に、棚次さんがCPで、いろいろ問題が起きまして、数々の問題が起きた時に、自分で謝りに行こうかなっていう時に、棚次さんが「いや、おまえ、土屋は行くな。俺が行ってくる。ディレクターは、謝りにいくと番組が萎縮してしまうから、ディレクターは行かない方がいい」っておっしゃって。で、棚次さんが謝りに、さんざっぱら行っていただいた。


棚次:散々行きましたね。


土屋:そうですよね(笑)。


棚次:ええ。ありがとうございました。


土屋:その節は本当にありがとうございました。


棚次:いえいえ。


土屋:それは、そんなこと言っていただいたのって、僕、正直、棚次さんだけなんですけど、それはどういう? やっぱり自分のそういう経験?


棚次:そうですね。反面教師がいたわけですよね。今まで僕の上にいたPっていうのが、嫌なことはやっぱりしなかったですね。自分がいい顔したいというか。つっちーは、だからそれを、そういうことを……。


土屋:そういう目に……。


棚次:遭わせたくないなと。そういうので、俺が行くからっていうより「おまえの辞書の中に謝るっていうことはない」と、そういう言い方をしたと思うんだけど(笑)。


土屋:はい(笑)。


棚次:それで頭下げて回ったと。


土屋:じゃあそれは反面教師、それをやってくれた……。


棚次:人はいなかったわけです。


土屋:いなかったんですか?


棚次:はい。


土屋:じゃあそういう伝統はないんですね、反面だけ。


棚次:そうです。


土屋:ああ、そうか。それはすごいな。

長く僕なんかも下に、棚次班にいるというところで、意地というか、作り手の意地みたいなものの感じっていうか、だから僕も、これ、あれですけど『24時間テレビ』、僕もやらかして。


棚次:うん。


土屋:ねえ(笑)。その伝統的に、そこを20数年あるんだけど、やらかして、その次の年かな? その次の年『24時間テレビ』を一緒に僕、麹町の西館の下の食堂で見てた記憶があるんですよね、オープニングを。


棚次:僕と?


土屋:そうそうそう。それで、だから『24時間テレビ』やってんのに、暇なのよ、この2人は。呼んでもらってないから(笑)。


棚次:(笑)。


土屋:それで、オープニング見ながら「このカット割りはないな」とか言っている、本流に呼ばれていない2人っていうのがね。『24時間テレビ』のオープニングで、西館の食堂で食ってた記憶があるんですよ。まあ、覚えていらっしゃらないと思いますけど。


棚次:昔の音楽班でいうと、クラシック班の?


土屋:そうそうそう(笑)。もう主流からはじかれた(笑)。

自分でディレクターになったのって、何年目の何ていう番組ですか?


棚次:いわゆる、キュー振りだした、キュー振った最初は、キングレコードの歌番組が土曜日の夕方にあったんだよね。


土屋:それがいわゆるサブコンに入って、キュー振るっていうディレクターになった最初?


棚次:そうです。


土屋:もうその時は「じゃあ俺、歌撮らしたら一番になるぞ」っていう野心は秘めている?


棚次:一番っていうか、俺たちアーティストじゃないぞ、芸術家じゃないぞって。それなりの撮り方があるだろうと、そっちですよね。


土屋:なるほど。


棚次:だから「僕の作品が~」なんて言うやつは、張り倒したくなりますよね、たかがテレビで。


土屋:棚次さんは、ずっと基本的にはディレクターですよね。


棚次:もちろん、もちろん。


土屋:ディレクターの中でも、やっぱり有名なのは歌を撮るっていうとこではあるんですけど、いわゆるバラエティー、笑いとか、そっちもお好きですよね?


棚次:うん。好きだし、書いてたしね。


土屋:コントとか書いてたんですか?


棚次:コントも時々書いてましたよ。


土屋:そうなんですか? ほお~! それは番組でいうと?


棚次:番組の中で、そのコーナーの中でも。


土屋:『レ・ガールズ』みたいな?


棚次:いや、例えば『今夜は最高!』にしろ何にしろ、『うわさのチャンネル!!』の時でも。


土屋:はあ~!

棚次さんといえば、音楽を撮るディレクターとして要するに、だから「歌を撮らしたら棚次隆は日本一だ」というふうになるのは、なんでなんですか?


棚次:きっかけはね、やっぱり、歌のシーン撮ってるやつももちろんいたけれども、その前に、俺がこいつら抜くのはどうしたらいいか考えたんですよ。


土屋:こいつらを抜くのはね。


棚次:はい。センスもないくせに、どうのこうのとか思ってたりして。


土屋:センスないなと思ってたわけですね。


棚次:思ってましたよ、もちろん。特にセンスというのは、僕から見たセンスだから、それは絶対評価なわけですよ。


土屋:はい。


棚次:何々と比べてということじゃないんですよ。


土屋:ああ、なるほど。でもとにかく、それまでのカット割りというか、歌を撮ってるやつを見て「だっせーな」って。


棚次:画の作り方とかね、そういう考え方も含めて。それで、周りのディレクターと話をしてても、彼たちは、戦争に行くのに自分の持ってる武器を、どんな武器を持ってるか知らないわけですよ。ひどいやつは、武器を持ってないで戦争に行っちゃうわけですよ。


土屋:なるほど。入りました、最初ADです。先輩ディレクターたちが歌を撮ってるのを見て「うわ、だせぇ」って思って、「だせぇ」というよりも、これを抜こうと、まず思うわけですよね。


棚次:そうです、そうです。


土屋:抜くためには、この機能を知るのがいいんじゃないか。


棚次:自分の武器をね。自分の武器を持ってるはずだから、そのもっといい部分。武器を持てるはずじゃないか、なんで持とうとしないんだ。


土屋:でも当時、例えばカメラの機能とか、例えばいろんな効果、それからスイッチャーの機能みたいなものを、使おうと思って使ってる人間はいないわけでしょ?


棚次:いなかった。スイッチャーさんに相談しながらやってる人がいたけども、クロマキーで、ここはどうのこうのって。


土屋:それはなんでできたんですか?


棚次:その理屈を知ったからですよ。


土屋:だって、大学は別にそういう勉強じゃないじゃないですか、技術の人じゃないわけじゃないですか。


棚次:うん。


土屋:でも例えば、先輩を抜こうと思いますよね。このジャンルで一番に、歌を撮るっていう意味では、一番になれるなってまず思ったわけですか?


棚次:うん。その前に、センスはあると思ってたからね。


土屋:はいはい。


棚次:そのセンスを、どうすればちゃんとセンスよく撮れるかっていうことは別ですから。


土屋:でも手本がないわけですよね?


棚次:手本ないですよ、全然。ただ、やっぱりみんな優しかったのは、いろんなことやって、ここはこうやってって、そのスイッチャー卓を、こことここを出すと、ここに出てきてとかいうのは、いろんなメモしながら聞いて勉強していると、例えば、Hサブとかから「棚次さん、今サブコン空いてるけど来ないか」って「(電源)入れてやるぞ」とか言って。


土屋:そうすると、一緒になってそこのスイッチャー卓をいじりながら。


棚次:これの画を出しといてくれて「しばらく遊んどいていいよ」って言って。そういう人が2人いたんですよ。


土屋:それは技術の方?


棚次:技術の人。


土屋:はあ~! でも、なんでそうなったんですか、やっぱり。しつこいようですけど、棚次さんが、その時のテレビマンたちは、自分の得意なものを追求するみたいなことが当たり前みたいなことがあったのか。


棚次:見せびらかすとか「俺はこんないい画が撮れるんだぞ」とかいうことは、毛頭、全くないんですよ。『うわさのチャンネル!!』の時に、生でいろいろ曲を撮って、その時にコントに、百恵にしろ、郷ひろみにしろ、秀樹にしろ、(みんな)コントやってくれてましたよね。

その時に、マネジャーに言われたんだけども、ちゃんと歌をね、すごくどこよりもよくきれいに撮ってくれて、その翌日は、レコードの売り上げもちゃんと数字に出てくるしね。そういうの、マネジャーたちはみんなわかってたんですよ。だから(「うわさのチャンネル‼︎」は)コントに出ないと出られないから。


土屋:なるほど。


棚次:逆にいえば、そっちからの、それがプラスの要素。こちらから呼び水としては、出ても、いい画を撮って、こんな素晴らしい曲なんだっていうのはわかるような撮り方をしようと。いわゆるミュージックビデオとか、そういうのはなかったから。


土屋:まだね。だから、あの番組に出ると、自分たちの曲がかっこよく表現されるよと、映像的に。


棚次:そうそう。


土屋:っていうのが、すごく価値があったってことですよね。


棚次:そうです、そうです。


土屋: そうか!

棚次さん、師匠って別にいない?


棚次:いない。


土屋:いないですよね。だから、笈田さんとか、そういうPの人たちに(対して)1人で開拓して音楽を撮るっていうジャンルを築いた。


棚次:そうですね。


土屋:僕、それこそ日本テレビに入った時に『うわさのチャンネル!!』のサブコンを研修で見にいったんですよね。


棚次:へえ。


土屋:で、人事の大内さんって女性。


棚次:ああ、いらっしゃいましたね。


土屋:いらっしゃいましたよね。その方が非常に、僕ら新入社員からすると、自慢気にという感じだったんですけど「ここにいるね、棚次さんっていうディレクターはね、NHKの方が見にくるような方なのよ」っていうふうにおっしゃったのをよく覚えています。


棚次:本当に来たんですよ。


土屋:そうですよね。要するに、どうやって歌を撮ってるんだろうっていうことを見学にというか、盗みに。


棚次:そうです。スイッチャーとカメラ5、6人かな、グループで。その時に「ちょっとすいません。ちょっとですけども、台本を多めに(代金は)お払いいたしますので、とっておいていただけますでしょうか」って。


土屋:ずうずうしいですね(笑)。


棚次:うん。


土屋:それでこうやって見ながら「ああ、こうやってやってんだな」って。


棚次:そう。


土屋:本当にあれですよね。普通、普段いじらないところをいじって画を撮るとかっていうことですもんね?


棚次:そうです、そうです。


土屋:棚次さんが開発された撮り方というか、カット割りとかね、そのあれで、今も残ってるとか、それから、それが一つの形になったみたいなことって多分たくさんあると思うんですけど。


棚次:たくさんありますけれども、本当はそうじゃないんだよねっていうのが多いんですよね。


土屋:本当はそうじゃないんだよね?


棚次:うん。例えば、つなぎの時に「空(カラ)に行く」あれは多分一番だと思うんですよ。


土屋:ああ、なるほど。


棚次:次にディゾルブしていくだけじゃなくて、こうやってココのところを、ここでこちらから出てきてなくちゃ成立しないんですよ、僕の絵作りではね。


土屋:なるほど。逆にいうと、棚次さんの前は「空にいく」っていう手法自体がなかったってこと?


棚次:なかったですね。


土屋:だから、寄り、引き、例えばとか、ずっと(歌ってる人が)映ってるっていう。


棚次:ずっと映ってると。


土屋:が、基本というか。はあ~!


棚次:Hスタで撮ってたけども、NHKの人が「なんでここであの画が撮れるんですか?」っていうのはHスタのドアを開けると、エレベーターがあるんですよ、作業用の大道具の大きいエレベーター。

エレベーターを、そのシーンのちょっと前になると、ADさんがエレベーターのボタンを押して、ずっと開けておくんですよ。スタジオの大きい扉も開けて、エレベーターの扉も開けて、その一番奥に4カメがいて、それもワイドにして、周りは照明を落としてもらうから、ワイプで黒っていう、ダークグレーはね、ワイプでそうして。

で、ドリーインすると同時にワイプを広げていくから、真っ黒の中に、このぐらいの窓がフレームだとすると、このぐらいの人が、ぽって見えるわけですよね。それがずっとドリーインしていって。っていうのは、コマーシャル明けはよくやりましたね、それを。


土屋:はあ~! そうか、そうやってやんのか。細かいことですけど、Hスタのところって、こうなってるじゃないですか。


棚次:なってますよ、ちゃんと。


土屋:あそこ、だから美術さんに埋めてもらうっていうか。


棚次:そうです、そうです。


土屋:埋めて緩やかにしといて、そこをローで、一番奥のHスタのあそこから、こうやっていくんだ。


棚次:そうです。


土屋:はあ~! そうか。でも、ワイドにしといて、でも当然そのまま撮ると、こっちが全部出ちゃうから、ワイプで切ってるんだ。ソフトフォーカスからにしといて。


棚次:ソフト。


土屋:はあ~!


棚次:渋谷公会堂で、ピンク・レディーの『透明人間』、「あそこ、生で消せる?」って言うから「簡単に消せますよ」って。本当に消したんだよね。


土屋:ピンク・レディーの『透明人間』。


棚次:消えますよ、消えますよ、消えます、消えます、スーッて。全体の音を、例えば2回目が正面だとするじゃないですか。そのシーンになるまで、最後までそのカメラは使わない。そのカメラを使わなければ「消えますよ」で、そのカメラを使うからね。

なんで使えないかっていうと、中継車でもなんでも、フレームシンクロナイザー、FSっていう、フレームシンクロナイザーっていうのを必ず入れてるんですよ、そういうのも詳しかったからね。

フレームシンクロナイザーっていうは、映像が乱れた時とか、その前のフレームを記憶していて、その前のフレームに、けがする前の画に戻ってフリーズする、止まっちゃうの。それで黒みを抑えないようにして。

そのフレームシンクロナイザーに、手動で止めるボタンもあるの。で、フレームシンクロナイザーを中継で、コマーシャルの間に「カメラをロックしといて」って言って、誰もいない、セットがあるからさ。そのセットを人もいないようにして、だからバンドも入ってないような画をFSでフリーズ押しておいて、そこまで来るまで待ってるの。

それで「消えますよ」って言えば、必ず同じ画面で。「消えますよ、消えますよ」って言ってから、フレームシンクロナイザーの画に、そのフレームシンクロナイザーの画をどっかに上げといてもらってね、カメラんとこに。あんなの簡単にやってくれるから。で、こうやって、ゆっくりディゾルブしていくだけ。


土屋:同じサイズにして、そのFSの画にディゾルブするんだ。


棚次:そうそう。


土屋:ああ~、なるほど。そうですね。ああ~。

そんなことばっかやってたんだよ。それ、だから、誰もいないんですよね。一応もう一回聞きますけど。誰かがやってたわけじゃないんですよね? そんなことばっかり。


棚次:ばっかりやっていましたよ。


土屋:そんなことばっかり、要するに、こんな画、誰も見たことねえだろっていうことばっかりやっていたんですよね?


棚次:うん。


土屋:はあ~! そこなんだよな。

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