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17秒


なんとなく気になって留守電を見返した。
いつまで遡れるかな、という好奇心もあった。

最後は2017年だった。もしかして、と思った。残っていた。昨年8月に亡くなった祖父の声が。

「ばいばぁい」したあと、切り際に必ず後ろの方にいるばあちゃんと何かモニョモニョ話してから切るのが毎回だった。そのモニョモニョを聞きたくて、先に切ることは絶対になかった。

そんな祖父の声が残っていた。「●●(名字)ですけど」と名乗った、その「17秒」が私の涙腺を崩壊させた。


祖父が亡くなってから、撮りためたホームビデオをまとめて限定公開でYouTubeにアップし家族と共有した。
編集しながら、家族の名前を呼ぶ声が、私にとってものすごく大事なものだと気づいた。そして同じく、自分の名前を名乗る声が聞きたくてたまらなくなった。
生活をしていて、名乗ることなんて電話に出る時ぐらいしかない。意外と自分の名前をクチにする機会が少ない事に気付いた。


からの、留守電。
もう最高だった。名字。名前。生きた証。そこに存在した証。


今は留守電を残さない携帯料金プランもあるらしい。絶対に無くすものかと思った。


そして留守電をそのままLINEに送った。過去の声を聞けた上にシェアもできる。文明の利器にこんなに感謝したことはない。

いまだに亡くなった感覚がない。
地元に戻れば「おぉ!いつ東京から帰った?」と聞かれる気がする。ずっと手を触ってかわいいなぁかわいいなぁって言ってくれる気がする。大好きな蕎麦と鰻を食べて、夕方には甘いお菓子としょっぱいお煎餅と砂糖の入ったコーヒーを飲んで一緒に相撲を見ている気がする。
一緒に歌って近所を散歩してる気がする。

私は、今、思い出に生かされてる。
思い出を胸に、なんとか踏ん張れてる。

亡くなる前の辛そうな顔や、怒ってる顔じゃなくて、笑顔いっぱいのじいちゃんしか思い出せないのが、一緒に笑って過ごしてきたという何よりの証拠で、じいちゃんの功績。

たった17秒で、奮い立たせてくれてありがとう。
なんとか楽しんで生きてるからさ。まぁ見ててよ。
会いたいけどさ、めっちゃ会いたいけど。もうちょっとこっちで頑張ってみるよ