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Local to global

東洋開発㈱の倒産からはや一年が経とうとしている。全ては自らの不徳とする所だが、昨年1月メインバンクからの融資が急遽ストップし、一連のコロナ融資もほぼ受けれなかった為、前会社の経営続行はその時点で不可能となった。それでも何とか雇用を守り、連鎖倒産を防ぐための苦肉の策として、家内の経営する(合)KT UNITY.に担保物件では無かった2店舗の営業権を買い取ってもらい、これまで2店舗とネット販売事業は継続できている。

新会社(合)KT UNITY.として店舗再開をした当日は、想定以上のお客様のご来店があり、十分なことが出来ず、かなりのお叱りを受けた。その時のお客様からのお叱りを胸に、お客様への十分なおもてなしが出来るように、クルー一丸となって汗を流している。応援してくださるお客様の期待をこれ以上裏切らないようにお店と商品と接客をピカピカに磨き続けたい。そう思う。

お取引先様も、一社を除いては以前の会社のままの条件でお取引きを継続して下さった。「ありがとうございます!」「ありがとうございます!」「以前のままの、間違いない商品を持ってきてくださってありがとうございます!」これまでずっと心の中で何度もそうつぶやいている。

家主様も経営譲渡と2店舗の営業再開を喜んで下さった。以後も厚い応援をずっと続けて下さり感謝してもしきれない程良くしていただいている。

店舗のクルーも、一名を除き全員以前のまま残ってくれた。「計画倒産ではないのか?」「倒産した会社の肉はまずいのでは?」そんな言われの無い風評も全て、クルーの汗と笑顔がキレイさっぱりと吹き飛ばしてくれた。

それ以外にも雇用を守り、連鎖倒産を防ぎ、父が興した事業を継続する為の知恵を具体的に授けて下さった方々がいる。私が一生頭が上がらない方々である。

新会社の代表である家内は私にとっての命だ。「始末と算用」と言う経営の中枢を一人でやり抜いてくれている。経営者としての器もお客様やクルーを大切にする心も私は彼女には及ばない。本当に心強く頼もしい存在だ。そして苦労をかけて申し訳ないと思っている。どうか健康でいて欲しい。

このように私は、考えられない程多くの方々の力で守っていただいている。そう思わざるを得ない。そして倒産から新代表の家内と共に立ち上げた1年間を経験し思うことは、私はこのままではいけない。ということ。やはり地域の未来に少しでもその恩をお返しできるようにもっと強い使命感を持って働かなければならない。そう思うようになった。

話は少しそれるけど、私はコストパフォーマンスという言葉が昔から好きでは無い。すでに日本の外食産業は世界一のコスパを有しているのは周知の事実。「そんな考えだからお前の会社は潰れたのだ」と言われるかもしれないが、それでも何度考えても、私の使命はそれを追求することではない。それは以前にも増してハッキリしている。

私が焼肉屋の息子に生まれ、アメリカ産牛肉BSE事件をはじめ様々な牛肉問題を経験し、そして倒産も経験し、手元に残ったものは一体何か?それが自らの問いに対する答えの始まりだと思った。

自らに問う。私が今こうして商いをさせていただいている場所(西予市と大洲市)は、日本の中の地方ではなく、世界の中の地方となのだという考え方で、自らの食の仕事をブラッシュアップさせ続ける事。それが私の使命なのではないだろうか?と

比べるのはおこがましいけど、例えば、レストランで言うとフランスのミシェル・ブラス。地方的な集合体だとスペインのサンセバスチャン。世界中から人々はその場を目指して旅するのである。世界的な視点で、食に携わる産業は人の心を豊かにする。人は心をより豊かにしたいのだ。そういう事だと思う。そしてそれらの存在は私にとって、”グローバルレベルで通用する店や産業があれば、そこがどんな場所であっでも栄える”と言う事実を証明してくれたのだ。

実は私は焼肉屋の息子に生まれながら、肉料理の修行経験が全くない。つまり私は料理人とは言えない。そして比べるのはおこがましいが、先に名前を挙げさせていただいたミシェル・ブラス氏も他店での修行経験は無い。それでも世界的なレストランを創り上げた第一人者だ。素材や料理やクルーと向き合う情熱と努力とセンス。そしてそれを理解し応援する方々。そのすべてが集まれば修行経験などは大した問題ではない。そのことを先駆者は教えてくれた。私はその事実を知ってから自ら肉を捌く時の包丁はミシェル・ブラスと決めている。包丁そのものの切れ味だけでなく、思想の切れ味を傍に感じながら仕事をしたいからだ。

また、ミシュラン三つ星レストラン、ジョエルロブション氏はこう言った
「質の良い食材は地方にしか無いのに、何故それを地方で活かそうとする料理人が少ないのか?」
人口の多い所に物も人も集まると言う必然に超一流の料理人は、ご本人も含め本当にそれが食に携わるものの志か?と問いかけているように思えてならない。私がコストパフォーマンスと言う言葉が好きではない理由もこの中にある。

ジョエルロブション氏の言う質の良い食材とは、私にとって「黒毛和牛」の事を指す。日本の国策としても黒毛和牛はこれからも守り大切にされる食材の筆頭格だ。さらに黒毛和牛に特化して質を追求する(系統と飼料を自由自在に操る)一貫生産農家さんはすでに世界一の肥育技術を有している。世界の肉牛肥育の現場をほとんど知らない私でもそれ位はわかる。そして肥育技術そのものだけを捉えれば神戸や松坂の生産者よりも優れていると私は感じている。

本当に質の良い黒毛和牛は部位ごとの味にもそれぞれ繊細な個性があり、黒毛和牛に特化した部位ごとの料理の可能性はまだまだはかり知れない。

私はそのような国の宝とも言うべき黒毛和牛という食材を丁寧に取り扱わせていただく事で世の中に地域に貢献したい。高級食材であっても、現在の貨幣価値で1000円以下の和牛料理もお客様にご用意できるそのようなレストランであり続けたいと思う。それは決してコストパフォーマンスでは無い。食材への敬意とお客様への感謝のみである。

Local   to   globalそれが私の使命である。そう信じる事に決めた。ただ年齢を考えると私に残された時間はさほど多くない。なので、今後弱き心に流されないために、あえてここに書き留める。

  (合)KT UNITY.   村上 剛             


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