県美に行ってきた(日記/駄文)

電車から見える空は見事に晴れていて、如何にも秋晴れという感じだった。最寄りの国際センター駅の階段を上がると、何やらに人がわらわらと居るので面食らった。構内では、以前広報を目にしてこんな所で朝市の店が出店をして人が集まるのかと首を傾げた朝市の出店がやっており、それなりに繁盛していた。外に目をやると国際センターで何やら催しをして居るらしく、看板が立ち、若い案内員が数名いた。なるほどセンターの催しの日に合わせたのか、それは採算が立つわけだと思いつつ騒ぎの原因を調べると、どうやらガスフェアとやらがやっているらしかった。内容が面白そうだったら自分も入ってみようと思い調べてみたが、どうやらめぼしい展示は無いようだったので、賑やかしい駅前広場を出て、そのまま美術館へ向かった。

そもそもなぜ県美に行くのかというと、直接的には少し前に特別展のポスターを見た為であり、間接的には最近になって、休日は足を延ばして、リフレッシュしつつ実経験を増やせる日にしようと決めた為である。因みに見に行く特別展の内容は、簡単に言えば「近代フランス風景画」と「皇室の御宝」の二本立てだ。

美術館への道、澱橋通の途中には見ておきたいものがあった。自分は以前から弊学のグラウンドに護国神社を移転させる妄想をしているのだが、これは実際に(或いはストビューなどで)見てもらえれば瞭然なのだが、東側は旧い石垣になっており、侵入できる箇所が限られているのである。神社が建つとなるとこの辺りに入り口及び鳥居が建つのは必定であったから、一度様子を見ておきたかったのだ。さて、様子見の感触は上々だった。そこには門扉が掛かっているのだが、10m程の素朴な坂があり、神宮にはうってつけである様に思われた。車椅子の人が自力で上るのはそれなりに体力が居るだろうが、そう厳しい坂でもないので周囲の人の少しの手助けで済むだろう。(因みにこの妄想は、している内に運動部の人に申し訳なくなってくる)

下らない用事も済んだので、そのまま美術館へ向かった。本美術館は著名な建築家の設計した建物に在り、近年知事が発表した移転構想に伴い争議が起きたのは記憶に新しい。構想自体熟議に乏しい物であったように見えるし、反対多数の様を受けて結果取り下げられる事となったのは当然のように思える。本市にとっても珍しい、風光豊かな名建築であり、もし取り壊しなんて事になれば言語道断であったが故に、白紙撤回には自分もひとまず胸を撫で下ろしたものである。そんな良い建物故に、自分は来る度に写真を撮っているので、今回もまた正面付近で二、三枚頂いた後、受付でチケット(特別展:700円)を買った。ところでこの受付というのが無駄に難儀で、弊学は「キャンパスメンバーズ」とかいう枠組みに入っており、それ故に弊学生たる自分は半額で施設を利用できるのだが、受付で何といえば良いのか分からずいつも無言に陥ってしまうのである。「○○大学の学生なんですが、キャンパスメンバーズの料金で利用できますか」、今考えたこれがおそらく正解なのだろうが、頭の回りが悪いので、普段の癖で「キャンパスメンバーズは使えますか」だの「キャンパスメンバーズっていけますか」だのそういう意味不明な問いかけしか思いつかず、いつも口籠りながらそんな事を言っていて、今回も例に漏れずそんな情けない具合であった。しかしまぁ、良い問いかけも浮かんだ事だし、次からは恥を掛かずに済みそうなのは喜ばしい。

さて、コインロッカーに荷物を預けた後、時間はもうお昼時であったので、元から意図していた通りレストランで昼食でも頂くかと思いメニュー表を見に行ったのだが、値段──最も安い品目で1500円はくだらない!──を見て仰天した。いくら休日の食事は贅沢を、と思っても収入の無い自分には精々1000円が良いところである。という訳ですごすごと尻尾を巻いて最寄りのコンビニにおにぎりでも買うか、と思ってきたのだが、何とほぼスッカラカンであった。おにぎりもパンもブリトーも、まともな物は何も残っていなかった。実は本日、弊学では学祭が開催されているのだが、噂によると食事は提供されないらしい、という訳でその影響だろう。しょうがないのでアメリカンドッグにコスパの悪い総菜パンに一本満足バーを二本買って済ませたのだが、快適な食事とは程遠かった。何というか、商売人としてどうなんだという感じがしなくもない。

さて、惨めな昼食も済ませた所でいよいよ本題:展示鑑賞である。「近代フランス風景画」と「皇室の御宝」、どっちから見るか迷ったが、上階でやっている前者を先に見る事にした。近代フランスという事で、概ね18世紀から19世紀の絵であった。ランス美術館という所からの出張らしい。美術には明るくないのでそれっぽい事は何も書けないのだが、全体として遠近法などからなる写実的描写という基調であり、その中で色々と新しい表現の流れが顕れてくる、といった流れだった。日曜日で特別展も最終日という事で人が多きに失するのではないかと懸念したが、それほど大いに支障があるわけでもなく、少し不便を感じる程度だった。絵の数々はやはり上手く、真正面に立つと迫力故か不思議と鼓動が速くなった。以前厚塗りの油絵を彫刻みたいだと思った事があるが、此度の絵はそれよりは薄塗りだった為か、光がキラキラと反射しており、レアカードみたいだと、しょうもない連想をした。風景画自体は端正な構図であったが、植生や景観、一面の平野などに異国情緒的なずれを感じ、正と反が合わさったような不思議な高揚が有った。と同時に、やはり異国の美的感覚であるという違和感は付きまとい、日本の美術を恋しく思いつつ、微妙な居心地の悪さを感じながら見回った(二つは同じものかもしれない)。最後には画家らの教科書となったらしい、遠近法や図形の解説をした本が展示されており、何となく印刷技術と合理主義の威力の一端を垣間見た気がした。また風景画に基礎とも言うべき作品群を見ながら、もし現在活躍しているデジタル絵師の人達の絵が美術館に飾られるとしたらどんな感じになるのか、想像して少し楽しかった(そんな妙な妄想をしなくとも、展示(販売)会にでも行けば期待したような光景が見られるのかもしれないが、冷やかしをしに行くのが気まずくて行けていない)。妙楽氏の動画に出て来る「雨、蒸気、スピード、グレートウェスタン鉄道」の下りの様な衝撃的な出会いがありやしないかと期待していたのだが、生憎それほどのものは無かった。

さて、次は「皇室の御宝」の展示である。正確な展示名は「皇室の美——東北ゆかりの品々」であり、東京の「三の丸尚蔵館」からの出張品が主らしい。整った風景画ばかり見た後だったので、福の神が百人騒いでいるお目出たい絵なんかは少し安心して笑顔になった。また、平成に描かれたらしい絵の、どっぺりとした雲?の描写は見得を切っているようで、如何にも日本的で良いと思った。また小型の彫像なども精巧かつ豊かで良かった他、和歌をモチーフに描かれた一対の絵なんかも風流で良かった。フランス展では絵から当時の情景が伺えたが、この展示では明治天皇が巡幸の際に命じて撮らせたという各地の写真に当時の東北の情景が伺えた。当時はまた県制が無かったのか羽後国○○などと添えられており、今ではすっかり失われてしまった江戸風の街並みも相まって、異国情緒?を醸しだしていた。貴重で善い史料だと好感すると同時に、陛下の巡幸が当時の近代国家建設下の労働者にプレッシャーを掛けたであろう事を思うと、脳内の左翼連中が騒ぎだした。当時とその後にもたらされた幸福と公益の総量は、当時もたらされた弊害より大きかっただろうと反論し、少数派の切り捨てだというので、何事にも弊害は付き物だと説き伏せた?が、仕方ないとはいえ若干不愉快なものである。他に印象的だったものといえば、菊紋付きの銀製ボンボニエール(小さな砂糖菓子入れ)だろう。近代になって以降の皇室の文化らしく、慶事の際に作って渡すのだという。造形も単なるケース型ではなく、兜形や切った竹の形、更に小鳥が入った鳥籠など多様で何れも精巧であった。自分などは高校期に若干戦前の硬貨(菊紋が入っている)を集めるのにハマっていた様な人間なので、菊紋入りの多種多様な小物となるとそれは惹きつけられた。

さて、あれこれ見終わった後、土産売り場に寄ってみたのだが、そこに売ってあった、「皇室のボンボニエール」という、今までに作られたボンボニエールを総覧した本(3300円)があり、15分くらいたっぷり悩んだ後、買う事にした。もちろん様々なボンボニエールを見たいという思いもあったが、買った一番の理由は絵のモチーフに使えそうだったからである。

以前から自分にはある野望があり、それは自分の空想、妄想の類を紙上に形にしたいという物であった。それは夢の中に見た風景だったり、或いはある文脈下に居る少女であったりするのだが、中高期に自分が押し殺して気付けなかった諸欲求の一つに、そういうものがあった。それ故に入学直後は美術部に入ったり絵の練習をしたりしていたのである。とはいえ、現在は美術部も辞めて、絵の練習も止めてしまって久しいのだが、それでも、絵が描けたら様々な観点から良い、という思いは心の底流に流れているし、昨今の生活を鑑みて気分転換になるものが何か欲しいと思っていた所でもあったので、その冊子──ボンボニエールは基本的な形の物から宝船形、鳥形、地球儀型などモチーフは多岐にわたるし、小型だから書きやすいし、綺麗な物なのでモチベも上がる──を見た時に、これは使えそうだ、と思ったのである。値段が値段なのでかなり葛藤したが、以前Twitterか何かで見た「買うか否か迷った時は、迷う理由が値段が安いからならば買うな、値段が高いから買うのを躊躇っているのであれば買え」という格言?を思い出しながら買った。一応今のところは後悔してしないし、寧ろ買っていなければ後悔していたであろうから、恐らくはこれで良かったのだろう。買ったからには実際に役に立って頂きたいものである

展示を見ていた時間は一時間半から二時間といった所だったろうか。出た時にはそろそろ夕方になろうかという頃合いで、片付け中の学祭を横目にキャンパスを通り抜け、大学図書館へ向かった。行って良かったと思う。

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