空と君とのあいだには
昨日、新宿ピカデリーに「中島みゆき 劇場版 ライヴ・ヒストリー 2007-2016」を観に行ってきました。中島みゆきのライブってリアルでは一度も足を運んだことないですし、映画ぐらいの大画面で観たのも初めての体験でした。
全編素晴らしかったんですが、個人的に特に印象に残ったのは「ファイト!」「誕生」「空と君とのあいだに」の3曲でした。
「ファイト!」はドラムのキックとスネアだけのイントロが印象的ですが、今回のライブではベースのルート弾きで始まりました。こういうアレンジもあるのか……とため息が出ました。
「あたし中卒やからね」と、可愛らしく愛嬌たっぷりに歌い出す中島みゆき。今はだみ声を張り上げている歌い方のイメージが強いかもしれませんが、こういう泣き笑いのようなチャーミングな歌い方を初期はよくしていたと思います。僕は彼女のこの歌い方が好きです。「横恋慕」もこんな感じですよね。
そこから、クライマックスに向けて血を吐くような叫びに変わっていきます。ただひたすら「ものすごかった」としか言いようのないダイナミズムでした。
そして「誕生」。実を言うと、僕はこの曲がちょっと苦手でした。飲み屋に行くとよくこの歌をカラオケで歌う人に遭遇するんですが(「糸」より遭遇率高いです)、正直なところ「繰り返しが多くて長い曲だなあ……」といつも思っていました。
でもやっぱり本家は違いますね。引き込まれてしまって「長い」とは全然感じませんでした。
しかし自分でも一番驚いたのは、「空と君とのあいだに」で涙が出てきてしまったことでした。
* * *
世の中には、弱っている人に上手いことを言おうとする人がいます。つらい別れに泣いてる人に、「話聞くよ」と簡単に言いよる人。どっちもどっち、とも言えるのですが、簡単に言いよることができなくて街路樹の枝になることしかできない人もいるわけです。
しかも、ポプラってあまり強い樹じゃないんですよね。強風には割かしなすすべなく折れてしまいます。僕も北国の出身なんで分かります。
弱っている人につけこむことができない人は、同時に相手の心にある憎しみを取り除くこともできません。ただすり減っている相手を見つめるだけです。
そうした自分の無力さへの悲しみから「僕は悪にでもなる」という決意が生まれてしまうのでしょうか。
歌詞の言葉を噛みしめながらつい、自分が目にしたいろいろな場面が思い出されてしまいました。
「自分をもてあそんだ相手に復習してやる」と暗く瞳を燃やしたあの人。涙が出てきたのは、その時の自分の不甲斐なさに対してだったのかなと、帰りの電車でぼんやり考えました。
ところで僕の生涯最大の自慢は、中島みゆきのオールナイトニッポンに投稿ハガキが採用され、彼女にエコー付きで本名フルネームを呼んでいただいたことです。どうだ羨ましいか。
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