見出し画像

【詩の森】469 ことばをあたためる

ことばをあたためる
 
僕の知っている高橋さんは
「もっと、ほんとうのことが知りたい」
といいました
僕の知っている菊地さんは
「こんな政治でも文句をいわないのは、
とりあえず、食べていけるからかな」
といいました
別々に聞いたそのことばを
長い間あたため続けた僕は
ある時
この二つのことばを繋ぐことばに
出会ったのです
 
それは
民は之に由らしむべし、
之を知らしむべからず
という孔子のことばでした
その本来の意味は
人民を従わせることはできるが、
なぜ従わねばならないのか、その理由を
分からせることは難しいというものです
しかし悪意のある為政者は
おそらく
従わせるだけいい、知らせる必要はない
とでも思っているのでしょう
 
そう考えると
高橋さんのことばは
僕らが本当のことを知ることができないのは
為政者が隠しているからだ
ということになります
ほんとを隠す制度はいくつもあります
総務省はメディアの許認可権を握っています
文科省は教科書の検定を行っています
そして特定機密保護法が施行されて
やがて10年にもなるのです
どんな秘密があるのかさえ
僕らには分かりません
 
 そう考えると
菊地さんのことばは
僕らは飼い馴らされているという意味
にもなるでしょう
この国では
教育は従順な国民づくりに費やされています
民主制を担う自立した個人ではないのです
社会のあらゆる場所に絶対者がいて
ものいわず従うように
仕向けています
それがこの国の秩序の正体
なのではないでしょうか
 
ところで
論語の原文では
子曰わく、民は之に由らしむべし。
之を知らしむべからず。
とありその対訳は
孔子はこう仰いました、
徳によって民を従わせることはできるが、
民に理解させることはできない。
というものです
ああ僕らには損得や特価ばかり―――
政治家も僕らも
徳を忘れて久しいようです
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?