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【詩の森】脳化社会

脳化社会
 
定年になるまで
仕事以外のことは
殆ど何も知らずに生きてきました
いってみれば
上意に従うだけのことを
来る日も来る日も
効率よくやり続けていたのです
何の疑いもなく―――
 
定年になると
上意という雲がすっと晴れて
効率を疑う日々が
やってきました
効率ということが
心を縛るものだと気づいたのです
効率ということばは
人を機械にする『呪い』だったと
いまは思っています
 
それをとやかくいう
つもりはありません
ただ君にも気づいてほしいことが
一つだけあります
養老孟司さんが言っているように
この社会は
脳化社会だということです
元々はだれかが頭の中で
描いた世界に
僕たちは住んでいます
 
もし君がハイキング好きで
ふとあの弾むような土の感触を
味わいたいと思っても
君は毎日
アスファルトの固い道を
歩くしかありません
もし君が故郷の空を思い出して
ふと空を見上げても
そこにあるのは
パズルのピースのような
小さな都会の空なのです
 
脳を最優先する社会が
心と体を蝕んでいます
目覚まし時計があるというだけで
それが分かります
現役時代の僕も
それが鳴った途端に
心と体を無理矢理
ベッドから引きはがしていました
病気になるのは
ストライキのようなもの
心と体の実力行使なのです
 
異常な国の
異常なことば―――
hikikomoriも
karoshiも
今では英和辞典に載っています
かつて
エコノミックアニマルといわれて
猛反発した国は
その狂気を返上したのでしょうか
この国の脳化社会は
原発事故の被災者さえ
置き去りにしているのです
被曝限度を
20倍にして―――
 

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