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【詩の森】477 真実の葦舟

真実の葦舟
 
一つの葦舟が
真実の島を目指して進んでいる
日に焼けた腕で
逞しく櫓を操るのは
情報の海に眼を凝らす
涼やかな青年だ
 
情報の海は
文字通り種々雑多な情報で
波のようにうねっている
向うからやってくる
情報なら造作なくいくらでも
捕まえられるだろう
 
しかし青年は
そんな情報には眼もくれず
真直ぐに前を見据えている
青年は
自分が発した問の答えを
探し求めているのだ
 
青年の小舟の前を
やあと大声をあげて
いましも横切っていく舟がある
そうかと思うと
前方からやってきて後ろへ
遠ざかるものもある
 
この広い海原で
情報に飢える者は皆無だろう
手を伸ばせばいたるところに
情報はあるのだから―――
但しそれが本当に
欲しい情報かどうかは別だ
 
しかし青年は知っている
問いを立てその問いに
自分で答えきることだけが
真実の島へ行き着く唯一の道なのだと―――
そうだ
問いこそが羅針盤なのだ
 
問いに導かれて
青年はここまでやってきた
そして珍しく風のないある朝
前方に待ちに待った島影が現れると
思わず微笑んだ
眼にはうっすらと涙を泛べて―――
 

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