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【詩の森】525 生き逢う

生き逢う
 
生前母が使っていた言葉に
生き逢うというのがあった
もう何十年も前のことだが
子供心に単に会うだけの人なのに
生き逢うというのはちょっと
大げさ過ぎるように感じていた
それで未だに覚えている
 
生き逢うとは
互いに生きながらえる。
生きながらえて、出会う。
という意味だそうだ
歳をとって時間ができたのはいいが
余命もだんだん少なくなる
そんな再会だった
 
若い頃一緒に遊んだ仲間たちと
50年ぶりに生き逢った
年齢的にはみな爺さん婆さんだが
あの頃の思い出を語れば
記憶の底から
青春の滾る思いが
迸るように蘇ってくる
 
人と人との間に流れる時間は
流れ去った時間ではない
その人と関わった時間なのだ
関わりを止めた瞬間に時計は止まる
そして生き逢えば再び動き出すのだ
あの頃と50年後の今が
忽ちつながる不思議―――
 
僕らは単に会うのではない
母の言葉通り生き逢っているのだ
生者必滅・会者定離―――
生きながらえて出会えたことは
何と幸運なことだろう
それはまぎれもなく
奇跡なのではないだろうか
 
2023.7.29

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