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【詩の森】620 知らないままで

知らないままで
 
若い頃
大変お世話になった人の消息を
最近になって初めて知った
その人は六年も前に
がんで亡くなっていたのだった
ちゃんとお礼もできなかったことが
悔やまれてならない
 
人生の交差点をとうに過ぎても
けっして忘れ得ぬ人たち―――
その人がこの世からいなくなるのは
なんという寂しさだろうか
これまで無沙汰した報いには違いないが
その人の笑顔だけが
脳裏に浮かんでは消えていく
 
思えば
知らずにいたことを知ることができるのは
めったにないことだ
大方は知らないままで
互いのいのちが尽きてしまうのだろう
僕は何を知り何を知らずにいるのだろう
思うだに愕然とする―――
 
後悔先に立たずという
いくつもの悔恨が漣のように押し寄せてくる
何だか人生を取り散らかしたままのような―――
気がしてくるのだ
だれもがそうなのだろうか
僕らは黙って
祈るしかないのだろうか
 
2024.4.9

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