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【詩の森】538 届いた言葉

届いた言葉
 
僕の心の奥深く仕舞われた言葉が、きっと僕を突き
動かしているのだろう。大事なのは、たくさんの情
報ではない。たった一つの言葉だけでも、僕らは生
きていくことができる。
木内みどりさんが始めた、ウェブラジオ番組「小さ
なラジオ」。その中で紹介された彼女のイラストの本
「私にも絵が描けた!」は、売れれば売れるほど、赤
字が膨らむのだと彼女が笑いながら明かしていた。
そんな価格にしたのは、もちろん彼女自身である。
「何でも、金・金・金、それがイヤなのよ」、木内さ
んは、そんなふうにもいっていた。
それは、彼女の小さな NO!だったのかもしれない。
彼女はその本を、できるだけ多くの人に届けたかっ
ただけなのだろう。僕は何となくわかる気がした。
 
定価500円のその本が手元に届いたとき、僕は、
彼女の言葉を反芻していた。「何でも、金・金・金、
それがイヤなのよ」。その本の見開きには、彼女の直
筆で、次のように書かれていた。
いろいろなつながりがあるようでうれしいです。
「小なラジオ」これからも応援してください。
木内みどり2019.3.19。
ところが、小さなラジオはそれから一年も経たずに、
突然打ち切られた。木内さんが滞在先の広島で急逝
されたからである。2019年11月18日のこと
だった。僕は彼女と面識はない。ただ、番組の中で僕
の反原発の詩「黒い海」を朗読して頂いた、一筋のあ
えかなご縁があるだけである。
僕にあの言葉を届けて、彼女は今天国にいる。
 
2023.9.7
 

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