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【詩の森】639 体の声

体の声
 
体の奥の遠いところから
その声は聞こえてきます
弛緩した筋肉の
かすかなふるえのような
声にならない声―――
僕の体の声です
 
20世紀人々は忙しくなりました
21世紀人々はもっと忙しくなりました
体は脳にコントロールされ
眠ることさえままならなくなりました
体の声を聞く人は
めっきり減っていきました
 
もはや何のために生きているのか
だれも分かりません
欲望にまかせて
ただ走り続けているのです
その先には空しいだけのゴールテープ
<死>が待っています
 
眠りは記憶をととのえ
体を回復し修復する時間です
眠りを削ればどんな事態になるか
容易に想像できます
しかし脳が
頑張れといって譲らないのです
 
布団に潜ると安心するのは
穴居時代からのながいながい
習慣だといわれています
化学物質も人工放射能も
体がすぐに適応できるとは
到底思えません
 
悲鳴をあげている
地球の声が聞こえる人なら
体の声も聞くことができるはずです
僕らの体もまた
酷使され悲鳴をあげて
いるのですから―――
 
2024.5.18
 
 

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