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星の話、星と話し。

帰ったらまず、星を見あげる。
このまちにきて、変わったこと。

すくわれているのだと思う。
そこに浮かぶひしゃくでそっと、私という存在をすくってくれるような気がする。
おかえり、と、やさしく、出迎えるように。

いったん家に帰って詩を書くときは、(•••)「生きのびる」ための言語体系から、「生きる」ための言語体系へ、シフトする。
(穂村弘, 『短歌入門』, 2016年,河出文庫,p28)

「生きる」ための言葉を、どうにもないがしろにしてしまう。
分かりやすくて社会的で有益な「生きのびる」ための言語は、ときにこちらへ押しよせて、水分を奪いとっていく、と知っているのに。
からからになった土には、木の一本すらふらふらと揺らぎ、言の葉ひとつ、落ちてはこない。
そんな渇きを、知っているのに。

星空とのあいだには、「生きる」ための言葉がある。
社会的でなくて、有益でなくて、それでいてとても愛らしい、言葉たち。
それは星々と言葉を交わすようでありながら、
星々の向こうにいるあなたと、言葉を交わすようで、そうしてあなたに向かって、祈りをささげているようで、何かが私にそそがれて、そうして乾きも渇きもなくなってゆく。

一つの小さな祈りは
暗くて巨きな時の中に
かすかながらもしっかり燃え続けようと
今 炎をあげる
(谷川俊太郎,『さよならは仮のことば』,2021年, 新潮文庫,p25)

こちらの灯を、あちらの灯へ、あちらの灯を、こちらの灯へ、仄暗く、時に激しく、炎はゆらめき点滅し、燃えながら、互いに生きている。
星もわたしも、あなたと星も、わたしと、あなたも。

冬の予兆はいつしか冬の只中へ、そうして春の気配へとかわりゆき、朝と明日がもう、すぐそこに、くる。




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