青春のふいうち
大学生くらいの若い男女がグータッチを交わしたあとで「じゃあな」「バイバイ!」と手を振って声を掛け合う別れ際の光景を目にする。
男性は長身で、日焼けした肌にスッキリとした短髪、Tシャツにハーフパンツというスポーティな格好だった。
女性は男性より頭一つ小さく、丸顔で目がぱっちりとしており、グレーのハンチング帽を被っていた。
男性に向かって笑顔で手を振ったあとで、警察官の敬礼の真似をするように、帽子の前あたりで手のひらをピッと伸ばす。
男性は挨拶を交わすやいなや、踵を返して足早に歩き出した。脚が長いので歩幅も大きい。
女性は彼の背中をすこし名残惜しそうに眺めてから、青信号に変わったばかりの横断歩道を渡り始める。
おれは昨夜かなり酒を過ごしてしまい、さっきまで部屋でごろごろしながらスマートフォンで馬券を買ったり外したりしていた。
鏡を見ると髪の毛はボサボサで無精髭も伸びているし、顔もむくんでいる気がする。そういえば今年の夏はすでに3キロ太った。
八月のわりに今日は涼しくて、一日中薄雲がかかっており、たまに時雨れるときもあったが、おおむね柔らかい日差しが注がれる過ごしやすい日であった。
日曜の夕方まで怠惰に溺れていた中年男性に放たれる青春の不意打ちはとてもきびしい。今日の夕焼けはいつもより朱く、目にしみる気がする。
(了)
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お酒を飲みます