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十二の真珠(アンパンマンだけじゃない。やなせたかしの世界)

 『アンパンマン』でお馴染みのやなせたかし先生。ですが『やさしいライオン』や『チリンの鈴』を知っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?個人的に、やなせ先生の作品は「優しさと悲しさ」を共存させた内容が多かったように感じます。
 私は、この『十二の真珠』という本に出会うまで、アンパンマンの世界でしかやなせ先生を知りませんでした。もともと元祖の『アンパンマン』が読めるとう理由で、この本を手に入れたのですが、始まりの『バラの花とジョー』から最後の『十二の真珠』に至るまでえらく感動させられました。
 以来、この本は数少ないお気に入りとなっています。
 今回は自分的に好きだった話を、簡単なあらすじを交えながらレビューしたいと思います。

 バラの花とジョー

 薄汚い野良犬のジョーと美しい薔薇の花のお話。薔薇とジョーは好き合っていて、いつも甘い言葉を交わしている。のんびりとした穏やかな日々が続くわけもなく、薔薇にもジョーにも不幸が訪れる。薔薇とジョーの儚くも美しい愛の物語。
 
 誰かを思う気持ちとか、好きだからこそ優しくしたり、好きだからこそ嘘を吐いたり…。そんな、暖かで甘い話です。最後は悲しい終わり方をしてしまうんですけどね。
 個人的にジョーみたいな男の人は滅茶苦茶好きです。

 クシャラ姫

 家系の中で鼻が低いことをコンプレックスにしているお姫様の話。実際に周囲から低い鼻を笑われることもあり鼻を隠して生活している。 
 そんな姫がある日、森で恐ろしい顔をした黒い竜と出会う。クシャラ姫のとった行動が竜の心を癒し、物語の展開はハッピーエンドへ。
 
 この話ですが、冒頭の「泣いちゃいけないチンクシャラ。あなたの心の奥底にもっと大事なものがある」という言葉が印象的です。コンプレックスとどう向き合うかではなくて、自分の中にある大事な価値に気づいてねというメッセージが込められています。本書で一番心が温まる話でした。

 天使チオバラニ

 マンナカ山の国境線の上で生まれたユレルという少女には先天性の黒子があった。その黒子は、頭のてっぺんからつま先まで点線のようについていて、彼女が国境出身であることを強調しているかのよう。ユレルは毎日天使に「黒子を消して下さい」と祈っていたがその願いは叶えられずに天使は現れなかった。いつしか、マンナカ山を挟んで両隣の国が戦争を始めた。マンナカ山の所有権を巡っての戦いだったが、毎日多くの人が死んでいくのを見ていたユレルは天使に「戦争をやめさせてください」と祈った。すると、初めてユレルのもとにチオバラニという天使が舞い降りてきた。

 この話を読んだ後に、神社参拝とかで自分以外の誰かのことを祈る人ってどれくらいるんだろうと思いました。人間自分勝手だからこそ、争いは起こるのかもしれません。

 チリンの鈴

 純粋であどけないチリンという子羊がいた。 
 母親やほかの羊たちと穏やかな日々を送っていたチリン。しかし、一匹の狼の襲撃によって羊が食い殺されてしまった。たった一匹生き残ったチリンは、狼に復讐をするためだけに生きることを決意する。その先には何があるのだろうか?
 
 もう、暗いし気分が落ち込むで「これアンパンマンの作者が書いたの⁉」と驚いてしまうような話です。穏やかな日々は簡単に奪われてしまうからこそ、貴重なんだということでしょうか。狼の名前を「ウォー(war)」にしたのも凝ってるなと思います。最高にしんどい話なんですが、チリンの心境の変化をこんなまとまり良く書けるのは天才です。読み終わると分かります。これは、短編にしては内容が濃すぎると。
 個人的にアンパンマンより『チリンの鈴』が作者の最高峰なんじゃね?と思うほど、よくできた物語です。大人にこそ読んでほしい。

 アンナ・カバレイナの鼻息

 アンナは歌手になる事が夢だった。夢を叶えるために上京するが、なんせ太りすぎているし、歌声がジャイアン並という欠点があった。 
 そんなアンナは歌手デビューをすることができるのだろうか?
 
 夢を叶えるには代償が必要で、どんだけ代償を払ってもいいから叶えたいと思う心が夢を実現させる。でも、実現した夢は本当に自分が望んだものだったのだろうか?お金とか名声をもらっても楽しいと思えない自分がいたら、苦しいという感情しかなかったら、キラキラ光っていた夢はいつか錆びついてしまう。
 夢について考えさせられる話しでした。


 ほとんど最初にある話を紹介した感じになりましたが、物語はまだ半分あります。著作権が怖いのでここまでです(冷汗
 子供にも読み聞かせできると思いますが、内容がなんせ大人向けです。厳しいというか、現実を突きつけられるような話盛りだくさんです。「人間ってやつは、どうしようもなく我儘で愚か者だけど、それでも愛おしいよね」というのが、本のテーマかな?と私は思っています。やなせ先生が戦争体験者だからこそ、この短編集は生まれたのかもしれません。
 
 『十二の真珠』最初から最後まで本当に面白かったです。(元祖アンパンマンも収録されています。)








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