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算数と数学とワタシ

―その日、白い半そでのカッターシャツに夏物の制服スカートをはいた私は、肌を突き刺すような激しい日差しにあぶられながら自転車をこいで学校へ向かっていた。
前から吹いてくる熱風にどっと流れ落ちた汗の粒が、後方に飛んでいく。この道路は通行量も多いし、街の大動脈なのだ。よーく地面を見てみると波型にたわんでいるのがよくわかる。重量の大きいトレーラーだのトラックだのがしょっちゅう通るせいでアスファルトはたわんできて雨が降ろうものならできたみぞに雨水がたまってそこをまた車が通っていくので、道路の端っこを走っている自転車には車がはねた雨水がもろにかかることになる。
何でこんなクソ暑い中を学校なんぞへ行かねばならんのだ。みんな楽しい夏休みを過ごしているというのに。
前の信号が赤になった。私はブレーキを踏み、歩道に足をつきながら額の汗を手の甲で拭く。見上げると、太陽は相変わらず針のようなきつい日差しを私に投げかけていた。心臓は今にも爆発しそうだ。・・・まったく、なにが悲しくて他人が遊んでる時に私だけこんな目に・・・。
何度目かの同じ問いを自分に投げかけたとき、信号が青になった。私は「はあ・・・」と一つため息をつくとまた自転車をこぎだした・・・。

中学生。1学期も終わりをつげ、友達と「どこへ遊びに行くぅ~?」という会話がそこここで始まる。もちろん私もその中にいた。今日の1学期の終了式さえ終われば、夏休みだ!しばらく学校に来なくていい。なんせ私にとって学校というところは・・・正確に言うなら幼稚園のころから、「地獄」以外の何ものでもなかったのだ。それとしばらくおさらばできる!!・・・見たまえ、諸君!あれに見えるは紛れもなく夏休みの女神。セクシーなビキニ姿で投げキッスとウインクを何度も送ってくれている。えーい校長のバカ。この暑い中長話やってんじゃねえ。アンタの話なんて今は右から左なんだから。
後ろにいる親友がささやいてくる。
「ねえねえ、花火、いっぱい買おうね!花火大会しよう!」
私もささやき返す。
「うん!後で買いに行こうか。でも・・・ねずみ花火はやめてよ~、あたしあれ怖くて・・・」
「えー?ミリアムあれ苦手~?・・・んじゃいっぱい買っちゃう!」
「やーめーてーってば!40連発、買う?」
「買う、買う!あと、線香花火と、パラシュート出てくるの!」
「いーっぱい買っちゃおうね!!楽しもう!!」

海に行こう、プールに行こう、今度あそこのプールに水深8メートルのプールができてねー・・・エーっナニそれ、でも入ってみたい!滑り台も滑るよ!!でも、滑りすぎると水着のお尻に穴が開く・・・っていうよ。ウッソー!!きゃははははは!!!お祭りにも行くでしょ?浴衣、着る?う~ん・・・どうしようかなー。登山は?いやだあー、クソ暑い中歩いてばっかり―!!つまんない!イベントには?行くー!!!モチのロン!!

私たちの夏休みの計画は、先生の目を盗んで少しづつ、しかし確実に進んでいたのでありました。それが、どういうことなのか。
世の中の不条理、という単語にこの時私は初めて出会ったんだと思います。
夏休みの女神さまがお美しい顔になんとも魅惑的な微笑みを浮かべて両手を広げて迎えてくれている、その女神さまに抱きつかんとこちらも両手を広げて近づいていく・・・ところに現れた巨大なモノリス。私と女神さまの間をさえぎって立っているモノリスを乗り越えようと踏ん張る私の耳に、担任の先生のこんな言葉が聞こえた。
「あー・・・それと、今渡した成績表で、点数が赤ペンで書いてあるものは夏休み、補習があるからなー。サボらずに来るんだぞー。わかったなー!」
私の前に立っているモノリスの前にはしっかりと「数学、補習!!」という言葉が書いてあったのでした…。

そういうわけで、体中に真夏の日差しを受けてふらふらになりながら、私は「数学の補習を受けるために」みんなが夏休みの女神さまの腕の中に抱えられて万歳してる時に汗だくになりながら学校への道をたどっていたのでした。
今から考えれば、数学の先生方には大変申し訳ないことをしたと思っています。私たちが数学の成績をそこそこ取っておけば、先生だってあんな暑い中学校に来なくったってよかったはずだったんですから。

この「夏休みの補習」、私は中学、高校と6年間、毎年のように受けさせられ、もうすっかり「常連」でした。「数学 算数 夏休み 補習」と検索すれば私の名前が出てくるんじゃないかと思うくらいです。
私は幼いころから、国語ちゃんや社会君とは割と仲が良かったんですが、算数君、数学さんとはどうもウマが合わなかったらしく、どうしてもどうしても、仲良くなることができませんでした。
だって・・・ねえ?数学って・・・そんなに使い勝手、あると思います?国語は・・・文字くらいは読めないと、ですし、社会・・・特に公民や経済なんかは私たちの生活と直結しているので知っていて損はないと思いますが、数学は・・・?
まあ、四則計算はともかくとして、微分積分、連立方程式、因数分解、座標軸・・・こんなもん、生活の上で、使うこと、ありますぅ?
π(パイ)や√(ルート)で、生活必需品は買えませんしねー。

数学、選択授業にならないかなー・・・。ずっとずっと前から、私はそう思ってきました。
上で数学のことをちょっとディスってしまったのでいうわけではありませんが、高校の時は芸術系の教科(書道・絵画美術・音楽)は選択制になっていて、自分の興味に沿った教科を選んでとることができたんです。そういえば社会科も選択制でしたっけ?(日本史・世界史・政治経済・倫理)この中で倫理だけは、なんと選択した生徒が一人もいなかったとのことで開かれませんでした。(少なくともうちの学校では)
私たち文系が服着て動いてるような人は、別にそんなに高等な数学を履修しなくてもいいんじゃ・・・。因数分解で大根は買えませんし。その代わり、自分の好きな教科を極めたり、夢見る未来に必要なことをすれば単位が取れる、とか。
あーっお前、そんなこと言うなら病気になっても病院に行くなよ、体調悪くなっても薬飲むなよー・・・理系の諸君の文句が聞こえてきそうですが、もちろん私は数学が嫌いだとは言いましたが「なければいい」とは言ってはいません。
もちろん、自分の進みたい進路に数学が必要だという人は取ってしっかり勉強してください。医師、看護師、薬剤師、獣医さん、エンジニア、それこそIT関係の仕事がしたい!という人たち。

ホントーのホントは、みんながみんな、自分の好きな道を進んでくれるのが一番いいのになー。

「親が『医者になれ』というから一応勉強はしているけど、自分は本当は作家になりたい」という夢を持っている人は国語の勉強も大事ですよね。

「『うちの旅館を継いでくれ』と親に言われていて、それに異は唱えないんだけど、外人さんが来たらどうしよう・・・」という人は英語の勉強も大事だと思います。できれば、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語、韓国語くらいマスターできれば、もう、外人さんドンと来い!!ですもんね。

とにかく・・・「好きこそものの上手なれ」と言いますので。
みんなが、好きなことに向かってチャレンジして、壁を乗り越えていく姿ってきっと、とってもカッコよくてきれいだと思うから。

選択できるものは、選択できるようにならないかなあ・・・そんな「夢」を持っている、私でありました。
ひとに「やらされるもの」ではなく、自分が「やりたいもの」

ああ、もうすぐ、桜が咲きますね。みんな、自分の行きたい進路、決まったのかなぁ?
もし今は何がしたいかわからなくても、予想外の進路に進んでしまったという人も、焦らないで大丈夫。
これからいろんな体験をしていくうえで、「自分がやりたいこと」は必ず見えてきます。あんまり緊張しないで、のんびり行きましょう。
春を迎えて気合を入れる人、いまいち「?」な顔をしてる人、「こんなはずじゃなかったぁ!!」と思っている人。

みなさんにエールを送ります!!がんばれー!!\(^o^)/

・・・ところで数学、統計とか代数幾何とかに分かれましたけど、ホントーに・・・選択制に・・・ならない・・・かなあ?

だって連立方程式じゃシイタケも人参も玉ねぎも買えないんだよ・・・?

ムリ?・・・あ・・・そう・・・。

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