<第9回>自分の仕事にちゃんと向き合っていますか?  ~ キャリアを考える出発点は、まず自分の仕事に向き合うこと


 前回、研修などで社員の意識を変えるというのは結構難しいというようなことを書きました。
 本人が自分事とはっきりと認識し、自発的、自律的、要するに当事者意識を持って自分の仕事やキャリアに向き合おうとする気持ちがない限り、意識改革研修、モチベーションアップ研修の類は機能しない、逆に言えば、ささやかでもいいから社員本人が行動を起こすような仕掛けがあり、それがきっかけで主体的に取り込むようになれば、意識改革、モチベーションのアップに繋がる可能性があるのだと思います。

 さて、そもそも意識を上げ、モチベーションを上げるために、昔から行われてきた会社のやり方、制度にはどんなものがあったでしょう。

 まず思い浮かぶのが、「アメとムチ」政策、「信賞必罰」、つまり報酬や会社内の地位をエサに、社員によりハードに働いてもらおうとするやり方です。
 今でもこのやり方が、会社の人事制度の根幹を形成していることには間違いがないでしょう。

アメ

 但し、このやり方、一部の「やる気満々」、あるいは野心家にはフィットし、社内ヒエラルキーを上に昇る出世競争に勝ち残っていく「少数」の社員には大いなる威力を発揮するものの、皆が遍く(自分の望むように)報酬が上がり、地位が上がり、というのは不可能ですので、振り落とされたり、ある年齢に達して先が見えてしまう「大多数」の社員には逆にモチベーションのダウンにつながることも多く、社員全体の平均という意味では、はなはだ疑問であります。
 また、高度成長期のように会社業績が継続的に大幅な右肩上がりになっている場合ならいざ知らず、業績不振の会社では、分け与えるべきアメ自体のパイが少なくなってしまう、という問題もあります。

 「自分の通信簿は自分でつける」を標榜し、そもそも報酬や地位といったアメで動くことを是としてこなかった私としては、「人間の本性って、そんな欲得ずくのものではないのではないか?欲望をベースにしたモチベーションには持続性がないのではないか?」と思うところ大であります。

加えて、最近の「草食系」と言われるような若者の場合は、「社長になんかなりたくない」どころか「管理職になりたくない」といったこじんまりした世間のアンケート結果が出てくるような有り様で、「アメとムチ」に代わる、新たなパラアイムが必要なのではないかと思います。

 モチベーションがアップするかどうかに関係なく、あるいはそういうことはあきらめて、社員に、より効率的で、より質の高い仕事への取組みを促すために、管理職のマネジメントスキルが強調されてきたこともありました。
 「管理」というものにフォーカスして、細かなところまで口を挟み、あるいは仕事を任せ、上手に褒めたり、叱ったりしながら、OJTで部下育成を図っていくという考えですね。かなり高いハードルを設定し、超えさせることによって達成感を感じさせながら育成するというのも手口です。
ただこのやり方は、管理職のスキルや人間的な魅力に依存する面が多く、場合によってはパワハラの発生、仕事はするものの「やらされ感」が強く、長続きしないという弊害もありそうです。

 私の観察では、現在の日本の大概の会社は上記の2つをベースにした運営を行っているように思います。しかしそれでは、上記の「アメとムチ」型や「管理」型で、本当に社員の意識改革、モチベーションは上がるのでしょうか?
答えは否だと思います。

 40年の私自身のビジネスパーソンとしての経験からは、上記どちらのやり方も、社員本人の「本当の意味で」の意識改革、モチベーションのアップは難しいのではないか、というのが個人的な結論です。
 ここで「本当の意味で」と言うのは、アメがなくても、素晴らしい管理スキルのある上司がいなくても、持続的な向上心、仕事に向き合う姿勢の改善など、に取り組める・・・そうです、「当事者意識」のある意識改革・モチベーションのアップです。

 「アメとムチ」や管理職のスキルによるモチベーションのアップと当事者意識による主体的、内在的なモチベーションのアップのどこが違うのでしょう。それは本人の「幸せ感」「多幸感」、科学的に言えば脳内物質のセロトロニンが出るような強い、あるいはじんわりとした喜びの感覚のありなしのようなものだと思います。もちろん管理職のスキルでも、本人が成長したという実感がある場合は、同様に幸せ感を得られる場合もあるでしょうが、会社に余裕のあった昭和の時代ならいざ知らず、効率性や目先の利益が優先されるようになってきた日本の企業の中で、長期的な視野で育成を行ってくれる管理職はどれほどいるのでしょう?

 社員自身の当事者意識による自律的、主体的な意識改革、モチベーションアップ・・・それはキレイごとの「お花畑」のようなことですが、社員一人ひとりが、報酬とか地位とかのエサとは別に、また上司から褒められたといったことではなく、自分自身で「仕事が楽しい」と思えたらどんなに良いでしょう。もっと正確に言うと、楽しい仕事をやらせてもらっているから楽しいのではなく、「仕事の中に何らかの楽しみ、やりがいを見出す」、そんな社員が一人でも増えれば、その会社は離職率も低く、学生からの人気も上がり、何よりも職場が明るくなるのではなり、ひいては会社の業績アップにもつながるのでしょう。

夢物語と仰る方もおられるでしょうが、そうした会社が一つでも増えて欲しいということが、私自身の願望でもあります。

 多少言葉を変えて言うと、当事者意識、つまり社員が仕事を「与えられたもの」ではなく、自分事に感じられるようにすること(自分にとっての重要性を自分なりに腹落ちしていること)、そして、「与えられたやり方」でやるのではなく、自分が差配するものとして捉える、つまり「自己決定感」を持てることが重要なんだと思います。

 しかし、一人ひとりの社員は、そこに至るための道は決して平坦ではありません。
 そのために要素を多少分解してみれば、

 ・自分の仕事に真剣に向き合う、さらに分解すると、自分自身と自分自身のキャリア形成、ビジネスパーソンとしての成長について(逃げずに)考えること、
 ・自分の現在の仕事に(やはり逃げずに)ちゃんと向き合ってみること
 ・会社について、会社の中で自分をどう生かすかといった自分と会社の関係を考えてみること

 そんなことを日々、意識的に実行する習慣を身につけることが大事です。

 考えてみて下さい・・・自分なりの工夫などを採り入れ、仕事の中に楽しみを見出し、仕事をやることが楽しくなれば、当然仕事にも身が入り、懸命に仕事をやる気も起るでしょう。そして懸命に、楽しく自分自身が誇らしくなる・・・そうしたことがビジネスパーソンの成長の一つの形なのではないでしょうか。

 誰だって、楽しく仕事したいですよね。だって、平日の1/3の時間は通勤や仕事に使われており、睡眠時間や食事などの生きていく上で必要なことを除いて考えれば、平日の多くの時間は仕事に占められているのですから・・・。
 逆に、仕事に何らかの楽しみを見出せなければ、それはつまらない人生になってしまう可能性も高いのではないでしょうか。決して、その仕事の種類を言っているのではありません。「職業に貴賎なし」、どんな職業であれ、それに向き合う、その姿勢の中に仕事に幸せが隠れているのでは、ということですね。

 ほとんどの仕事は、向き合い方一つで、少なくとも一つや二つ位は楽しみを見出すことが可能なのではないでしょうか。

以前、NHKの「プロフェッショナル」で、中国出身の中年女性でが、カリスマ掃除人として紹介されていました。トイレ掃除にも真剣に取り組む彼女の姿勢の陰で、羽田空港が「世界一きれいな空港」として認められているとのことでした。正に「職業に貴賎なし」、仕事に誇りを持って、創意工夫を繰り返すことによって、彼女は自分の仕事に誇りを持つ、プロフェッショナルとなったのです。

こうした一見お花畑の意識改革、モチベーションアップにつながる仕事に対する姿勢について、次回は、私自身の経験も交えながら、「どんな姿勢なのか」を書きたいと思っています。

お花畑


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