<第25回>構造変化の時代は事業開発の時代          ~ 全社的な事業開発ムーブメントと人財開発


 週に1回投稿しているこのコラムも一つの節目である25回(25週)を迎えることが出来ました。傑出した能力のない私ですが、一度始めると比較的長く持続できることが「自分の大きな才能だよな」、と一人勝手に思っています。

 但し、正直この辺りまでは書きたいこと、伝えたいことが山盛りだったのですが、さすがにここまで来ると、多少「何を書こうかな」と考えざるをえなくなってきている面があります。そこで、今回は今まで書き散らしてきた内容の中から、まだ書き足りない部分について、少し詳しく書いてみることにしたいと考えています。

 さて、第18回では 「『経営人財』の育成の仕方 ~ 全ての日本企業には「改革」が必要であり、そのための『人財』育成が喫緊の課題」として、今のような構造変化の時代には、経営人財も改革、そして事業開発に秀でた人財でなくてはならない、しかし、事業開発型の人財というのは、希少財であり発掘・育成するのが難しい」というようなことを書きました。
 今回は、この内容について少し深堀りするべく、事業開発、あるいは新事業開発や商品(サービス)開発など、「開発」ということについて書くことにいたします。

 現在が構造変化の時代であることについては、最近フェイスブックで見つけたhttps://www.youtube.com/watch?v=KpHM0HJEAcU をご覧いただくのが手っ取り早いように思います。
 これは、友人である経営コンサルタントの河瀬さんと、ベストセラーである「起業の科学」https://www.amazon.co.jp/%E5%85%A5%E9%96%80-%E8%B5%B7%E6%A5%AD%E3%81%AE%E7%A7%91%E5%AD%A6-%E7%94%B0%E6%89%80-%E9%9B%85%E4%B9%8B/dp/4296100947/ref=sr_1_2?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=22OOGWHIDAGHU&dchild=1&keywords=%E8%B5%B7%E6%A5%AD%E3%81%AE%E7%A7%91%E5%AD%A6&qid=1585971066&sprefix=%E8%B5%B7%E6%A5%AD%E3%81%AE%2Caps%2C279&sr=8-2 

の著者である田所さんの対談ですが、IT、特にAIの進化・活用によって、今後ドラマチックに産業界、社会が変化していく様を明確に語ってくれています。また、私も大好きな本でベストセラーである「イシューから始めよ」 https://www.amazon.co.jp/%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AF%E3%81%98%E3%82%81%E3%82%88%E2%80%95%E7%9F%A5%E7%9A%84%E7%94%9F%E7%94%A3%E3%81%AE%E3%80%8C%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AB%E3%81%AA%E6%9C%AC%E8%B3%AA%E3%80%8D-%E5%AE%89%E5%AE%85%E5%92%8C%E4%BA%BA/dp/4862760856/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=1GUX57VFFQTZQ&dchild=1&keywords=%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%81%8B%E3%82%89%E5%A7%8B%E3%82%81%E3%82%88&qid=1585973058&sprefix=ishu-+%2Caps%2C258&sr=8-1 

の著者である安宅さんの最近の著作である  https://www.amazon.co.jp/gp/product/4862760856/ref=dbs_a_def_rwt_bibl_vppi_i1 も示唆に富むように思います(左記の本は大部であるので、この本の元になったこちらhttps://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2017/inv2017_04_02.pdf?fbclid=IwAR0-KbeCtoROt0ufzEVJjtU1ZhUwSR5WUyay4SSxRiWZLSF7IQHpqXa-Nec を読むほうが簡単かもしれません)。

日本列島


 日本の企業社会も長らく続いた凪の時代=停滞の時代を超えて、構造変化の荒波に進んで入っていかなければいけない段階に来ていると言えましょう。多かれ少なかれ、「開発」(事業開発、商品開発、イノベーション・・・様々言葉があり、それぞれは違った内容を指しますが、ここでは、「とにかく新しいことをやる、そしてそれは事業にならないと意味がない」ということで、本稿ではまとめて「事業開発」と括ってしまうことにします)が求められているのだと思います。

 スミマセン、ここで例によって、ここで自分の経験を少し書かせていただきます・・・・・

 私自身、40年のビジネスライフの中では、兼務も含めかれこれ10年以上「商品開発」「事業開発」「イノベーション」という仕事に関与してきました。大体、会社の中で「開発」というのは、エリートが歩む王道ではなく、むしろ私のような「跳ね返り」であり「新しもの好き」の部門なのですね。

 まあとにかく、自分の経験を語りながら、これまでの産業界での「開発」の歴史や流れを概観してみたいと思います。

 遡ると・・・バブルが生成されていった1980年代、私は金融機関の資産運用の部門にいて、有価証券や外国為替を大量に売ったり買ったりしていました。その過程で「スワップ」とか「オプション」とか「ニュー・プロダクト」と言われるような金融におけるテクノロジーの進歩、商品開発に大きく関わりました。

 ところで金融商品というと、皆さんはものすごく難しい商品と思われるでしょうが、簡単に言えば、その商品に入ってくるお金(キャッシュ)のインフローと、その商品から出ていくキャッシュのアウトフローの差額が、その商品から発生する利益、というシンプルな考え方で設計されています。一つの会社というものが売上というインフローと、費用というアウトフローの差額である利益を積上げていくものであるのと同じですね。
 商品を購入する顧客から見れば、インフローとアウトフローが逆になるわけです。

 ここで、ちょっと面倒くさいのは、資本主義経済では、今の100円と、1年後の100円というのは価格が違うので、そこを勘案しないといけないということなのです。金融の世界では、そこをどうするか、この点だけ理解すれば、金融商品というのは超簡単なものとなるのです。
 時間が先であればその時間分の金利を加算することによって、今の100円と、金利1%のときの1年後の101円が等価であるというように考えることによってこの問題をクリアできるわけです(こういうのをDCF・・・ディスカウント・キャッシュ・フローと呼びます)。逆から言えば、このDCFの考え方を以ってすれば、時間という概念を取り込んだ形で、キャッシュのインフローとアウトフローを比較し、その差額の利益を予め計算しておける、ということになるのです。外国為替の先物、生命保険、不動産価格の算出・・・金融商品は皆、この考えで成り立っているシンプルな世界なのです。

 もっと言うと、このインフロー、アウトフローのタイミング、その時その時の金額さえ決まれで、どの時点での元利合計が計算できるということになるわけです。金融の場合、これに振りかけるスパイスが、「蓋然性」(それは確率で表現されます)です。例えば、生命保険の死亡保障であれば、年齢別の死亡率という確率論の数学を噛ませ(今後起こる「死」という今後の年齢別での計算される「死亡リスク(蓋然性)」をトータルで数値化したもの)、会社側が取る事務・営業費用や利益を加えた(会社にとっての)アウトフローと、これから毎月払っていく保険料とが等価になるように、保険料を計算するということになるのです。
 このように、一見複雑に見える金融商品も、キャッシュフローの金額、タイミング、そして、その確率この3つで成り立っているのです。

 ちょっと難しかったですか?
 金融商品が難しいと言われるのは、上記のことを金融のプロがちゃんと説明しきれないからであり、このことさえ分かれば、そんなに難しくないのですよ。但し、金融の商品開発で難しいのは、この確率であり、これがきちんとで試算できないと・・・そう、リーマンショックが起こってしまった、というようなことになるわけです(リーマンショックでは、不動産担保融資の返済不能の確率を、業界の競争から歪めて過小に試算したことから起こったショックです)。

 確率のお勉強で必ず出てくるのは、最適化とか、線形代数とか、言った数学的なことなのですが、元を辿れば、物理学から来ており、例えば「オプション理論」という金融の仕組みも、物理学のアットランダムな(すなわち、確率論で数値化できる)動きである細胞の「ブラウン運動」の解析から来ているということなのです。

線形計画

 何が言いたいのか・・・要するに、80年代の金融で起こった開発のムーブメントは、科学者によってもたらされたということであり、それは、米ソの宇宙開発競争が終わりを告げ、職にあぶれたNASAロケットサイエンティストたちが、大挙して80年代の金融業界に入ってきて、開発を行ったということなのです。確率論に基づく「制御技術」は商品開発だけでなく、リスク管理といった分野でも活用され、これは金融だけではなく産業界全体の進化に繋がったとも言えましょう。
 例えば、1991年に勃発したイラクのサダム・フセインを米国が叩いた「湾岸戦争」で、有名になった「スカッド・ミサイル」(発射されたミサイルをレーダーでチェースし、弾道起動を計算して迎撃ミサイルを命中させるもの)でも、この技術は遺憾なく活用されました。そもそも原子力発電の根幹技術は、核分裂と、そこから発生するエネルギーが爆発しないようにする制御技術との2つなのですね。
 そして、金融の世界では、はっきり言って、80年代のそうした大きな技術開発のムーブメントが、多少洗練されたり、焼き直されただけで、その後、金融界の中だけでは大きなイノベーションは起こらなかったと言えるんだと思います。

 私自身のことに話を戻しましょう。90年代です。90年代の初めの頃には、専任として、商品開発を担当しました。今思えば、ぶっ飛んでいたのは失敗したのですが、会社の中にいたスーパー・ファンドマネジャーの資産運用ノウハウ、売買ノウハウをシステム化しようとした試みです。NASAのサイエンティスト級のイギリス人のいるイギリスの会社と合弁会社を作って、人間の脳の中にある複雑な意思決定を売買行動に反映させようとしたのです。今でいうところのAIです。しかし残念ながら、当時は機械学習や深層学習のノウハウもなく、ビックデータ取得のためにデータをリアルタイムで自動的にフィードする仕組みもなく、あえなく失敗に終わりました(しかし、その副産物は多く、AI的ではない制御系の商品開発は大きく進みました)。

 またその後90年代半ばに、生命保険商品の開発にも携わりました。保険金を支払う事由について、顧客に魅力的(つまりそれが起こると恐ろしいこと)で、発生率の根拠が数値化されるものによって商品開発するわけです。私は生命保険についてはそんなに詳しくはなかったのですが、友人の母親がパーキンソン病で亡くなったということがきっかけで、厚生省の指定難病に罹患したら保険金を支払う「難病特約」というものを開発したのが唯一の勲章です(私自身の開発ライフは、社会人なりたての頃の「倒産確率推計モデル」への関与とか、2010年代のプリペイドカード〔まあ、フィンテックです〕の会社での勤務、大手旅行会社でのイノベーション部門との協業経験などまだまだありますが、クドイのでここまでにします)。

 NASAのサイエンティストたちは、90年代には金融機関から離れていきました。時代の最先端は、最早金融ではなくなったからです。それはIT業界です。IT業界での技術開発については、GAFAの躍進等、皆さん、十分にご存知のことかと思います。さらに、最近ではIT技術が、IT業界だけに留まらず、あらゆる業界にも入っていっていることですね。フィンテック、メディテック、エドテック・・・そして私も関係しているアグリテック、スポーツテック・・・・。


ミサイル

 このコラム自体の本題である、人財開発に話を進めましょう。
 上記に描いている通り、制御技術、AI、そしてそれを支えるインターネットの通信技術、PCやそのPCを構成するハードなどの進化によって、「とりあえず「技術革新」の大所は全貌が出そろったわけであり、次の段階として、このIT技術の「活用」に焦点が移っているわけです。

 そこで重要になってくるのは、冒頭「起業の科学」でも強調されている「PMF」(プロダクトとマーケット〔顧客〕がフィットしている)、つまり自社の商品の独りよがりでない、顧客のことを理解(現在の顧客ニーズとは限りません。リリース前はニーズがなくてもiPhoneのようにニーズが創造されることもあります)した上での開発なのです。

 もっと、事業開発成功の要素を分解すると、「アイデア」+「マーケットの理解」、そしてそれを合致させる「マーケティング力」ということになります。いずれにせよ、技術に磨きをかけるだけではダメですし、顧客のニーズに迎合するだけでは、レッドオーシャンでの血で血を洗うような競争の餌食となります。
 やはりかなり高い能力が必要だと言えるでしょう。

サメ

 こうした力を会社が持つためには、以下のことが必要なのではないでしょうか。

① 会社全体として、「構造変化の時代には事業開発が全社的な課題」であることが認識されていること
(会社内で事業開発のムーブメントを共有する)
② 希少財であり事業開発人財を発掘すること
(発掘する社内的な仕組みが必要)
③ 事業開発人財が伸び伸び開発をし、その結果を頭の固い上層部が潰さないような仕組み
(若い人、面白い人が活躍できる風土)


 もう随分昔の話で言えば、3M(スリーエム)という会社が全社を挙げた開発意識により、例えば「ポストイット」といった商品を開発したことが商品開発の教科書には載っていました。今でいえばやはり、「業務時間の10%は自分の好きなことをやっていい」というグーグルを始めとするGAFA(マイクロソフトも入れればGAFAM))でしょうか。

 自由な職場の雰囲気作り、開発を全社課題とした意識改革、人財発掘・育成、そんなのことが今求められていると言えるのだと思います。


<ターンアラウンド研究所https://www.turnaround.tokyo/  小寺昇二>
 ※「経営改革・事業開発×人財育成」という形で、企業社会に貢献したいと考えています。

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