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ラインローラーはベアリング入りじゃないとダメ?

 前の記事であまり触れなかったが、スピニングリールのラインローラーはまさに滑車そのものだ。

 いま販売されている多くのリールでラインローラーにベアリングまたはそれに準ずるブッシュ等の回転体が搭載されている。ベアリングの回転抵抗は非常に小さくなっており、理論上の抵抗ゼロの滑車に近いこの部分ではほとんど摩擦が生じない。メーカー側も、糸の保護を目的としたベアリングの搭載を殊更に強調している。

 しかし、糸が通るのにベアリングが搭載されていないパーツもある
 というか、ベアリングが付いているのはラインローラーだけと言ってもいい。

 竿に付いているガイドはご存じの通り摩擦は小さいものの回転しない素材を利用している。しかも、1個しかないラインローラーと違って竿によっては10個以上ものガイドが付けられているが、SiCより遥かに摩擦の大きい旧式のハードガイドであっても、糸がすぐにダメになるということはない。

 スプールエッジはどうだ。キャスト時に超高速でバシバシと当たりまくるから、ここでもかなりのダメージを与えているに違いない。ベアリングを付けるのは難しくとも、SiCなどの摩擦が小さい素材にすれば糸のダメージをかなり抑えられるだろうが、傷防止のメッキ処理がなされているだけである。

 ベールアームもアルミやチタンといった普通の金属で出来ている。せめて何かすべりのいいコーティングでもすればいいのに。

 さらに言えば、ベイトリールのラインガイドにベアリングが搭載されている機種など存在しない。それどころか、SiC製ですらないのが現状だ。ここは竿のガイド以上に糸と接触しているのだから、糸に優しい素材を選択した方がよさそうなものだが。

 でもそれで誰も文句を言わないし、高級リールであってもこれらのパーツにベアリングが搭載される気配は今後もなさそうである。

 このように、ベアリングというラインローラーにおける糸を保護するための「必需品」が、ガイドやスプールエッジなど他の部分においては全く採用されていないのだ。このことからも、糸に触れる部分が必ずしも回転体である必要は無いことがわかる。

 実際、今も私は渓流でミッチェル308というなかなか年季の入ったリールを使っているが、このラインローラーはそもそも「ローラー」ですらなく、回転しない、固定式の「ラインガイド」である。触ってみると現代のSicリングとは比べ物にならないくらいの摩擦があるが、すぐに糸がダメになるような事もない。巻いているのは普通のナイロンだが、毎回先端を1-2 mほど切り詰めて使えば1シーズンくらいは普通に持つ。

ミッチェル308の固定式「ラインガイド」

 繊細なドラグの要求される場面ではやや難があるものの、これでも大体の釣りは成立する。糸ヨレのしにくさも、現代のリールと遜色ない。ただ、このラインガイドはタングステンカーバイド製とのことなのでハードガイド(アルミナ)程度の硬さしかない。PEラインを使用すると糸溝が出来る可能性が高いので、私もこのリールにはPEラインは巻かない(元々PEラインなんか存在しなかった1960-70年代のリールだから、当然といえば当然である)。

 懸念されるドラグの滑り出しも普通に良いと言える。ラインローラーの回転はドラグ性能に関わるとされているが、渓流で使っていて不満を感じたことは無い。むしろ昔のライン強度が基準になっているためか、滑りすぎてなかなか魚が寄ってこないのがネックと言えばネックだ。

 この例からも分かるようにほとんどの釣りで、ラインローラーにベアリングを付ける機能上のメリットはないと言っていい。クルクルシャーシャー回っていかにも糸に優しそうなベアリングだが、その効果は限定的だ。

 むしろ、ベアリングを搭載したことによりローターの重量が増したことは明らかなデメリットである。そのせいで、強度ギリギリまで肉抜きした歪なデザインのローターの開発に各社腐心する羽目になっている。

 高価なくせに消耗品でしかない「防水ベアリング」なんかはなおさら必要ないだろう。なにせ防水といっても海水で使ったらよーく真水で洗っておかないと結局は潮が析出して回らなくなるからね。

 まあ固定式ガイドはちょっと極論だとしても、安物スピニングの代名詞みたいになっているブッシュの方が錆びないし軽いしの良いとこづくめで、ベアリングよりもよっぽど実用的だと思う。「高級機にベアリング・低級機はブッシュ」というパーツ代を基準にしたメーカー本位の設計ではなく、海水使用が前提のリールには高級機でもブッシュを選択した方がユーザーにとっていいんじゃないかなあ。

 そういうわけなので、「ベアリング=高性能」という幻想を捨て去って海水耐性と圧倒的なローター軽量化に成功したクレバーな新型スピニングリールが出てきたらいいなあ。
 まあ右向け右の業界だからなかなか変わらないとは思うけど。どのメーカーも色が違うだけで似たり寄ったりなデザインですしねえ。




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