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由比、田子の浦(静岡県)

富士川から清水にかけて、車やバイクでバイパスを行くと景色を楽しむ余裕がない。しかし当然ながらバイパス以前の道はあるし、そこは比較的交通量も少なく、側道を歩いていても心配はない。

由比駅で降りて一駅歩いた。この辺りだと駿河湾にせり出している薩埵峠が名所として有名だが、その前後は海側になだらかに下がっていく地形の場所に街がある。地域の鎮守の神社も階段登っていった先に社があり、昔から変わらない、そこからの景色が素晴らしかった。

(静岡市清水区由比)

バイパスの下は誰もいなくて静かだ。近くのコンビニで冷たいビールとつまみを買っていただく。左側に迫る西伊豆の突き出しと、右手の山々、駿河湾の先に太平洋。潮風と景色と、一人でビールを頂く幸せな時間。

(静岡市清水区蒲浦)

普通電車に揺られて、もう一つの目的地、万葉の歌枕、田子の浦へ。

「田子の浦に打ち出でて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ」(山部赤人、百人一首)

有名なこの歌だが、これは百人一首の選者、藤原定家が手を入れたもので、元歌はこちらも万葉の歌、その長歌の反歌である

山部宿禰赤人の富士の山を望める歌一首〔并せて短歌〕
「天地の 分れし時ゆ 神さびて 高く貴き 駿河なる 富士の高嶺を 天の原 振りさけ見れば 渡る日の 影も隠らひ 照る月の 光も見えず 白雲も い行きはばかり 時じくそ 雪は降りける 語り継ぎ 言ひ継ぎ行かむ 富士の高嶺は

田子の浦ゆ打ち出いでて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける」

京都から下がってくると、薩埵峠、富士川を経て田子の浦に着く。その時の関西からの旅人の感慨たるや、この気持ちだったのだろう。百人一首の方も嫌いじゃないけど、万葉の方が実際に現物を見てる感じがして良いなと思う。(まあ定家は京都から出てないから実物見てないだろうが。)

海抜0メートルから富士山頂(標高3776メートル)を目指す全長約42キロメートルの登山ルート「富士山登山ルート3776」が設定されている。その起点もここ田子の浦である。

残念ながら富士山には雲がかかっていた。遠雷の音。富士の高嶺に雨が降ってるようだ。

(2023/8)


(富士市ふじのくに田子の浦みなと公園)

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