![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/20222262/rectangle_large_type_2_650620991a0c9edd40fcaffc0e67e825.jpeg?width=800)
【考察メモ】新型コロナと『ショック・ドクトリン』 上がる株価と日本的・参事便乗型資本主義
※2020年3月2日の社会状況で考えたことを断片的にまとめたものです。コロナウイルスに直接言及したものでありません。
現在の新型コロナおよびそれに対応する政府を見るなかで既視感を覚えたのが、ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』(岩波書店、2011年)の「第五部 ショックの時代ー参事便乗型資本主義複合体の台頭」だ。新自由主義的な政府機能の縮小の結果起きた、「ショック」を経済成長に転換していく様子は現在の日本とも重なる。
日本政府の新型コロナの検疫体制が不十分でもあるのも、長い目でみると「保健所」の予算を削減してきた新自由主義政策が遠因にあると指摘されている。
厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A」に9カ所も登場する「保健所」。「感染が疑われる場合、まずは最寄りの保健所へ」とする厚生労働省ですが、その保健所の数はこの間、日本の人口は増えているのに、1992年の852から2019年の472へ45%も削減されています。保健所の体制強化が必要です。 pic.twitter.com/DlwNPR6iYD
— 井上伸@雑誌KOKKO (@inoueshin0) February 25, 2020
行政をさんざん「削減」し続けてきた結果がこれです。公務員を削減して行政サービスを維持することは不可能です。保健所はこの25年間で45%が削減。国立感染症研究所の規模は、対米比で1077分の1の予算。
— 今野晴貴 (@konno_haruki) February 29, 2020
新型コロナ対応 厚労省の53%が「非正規公務員」の現実(今野晴貴) https://t.co/wyB9GHf1ut
そして、今、政府は「非常事態宣言」を発令し、新型コロナの新規立法をしようと動いている。
新型コロナ対策になぜ新規立法が必要なのかいまいちわからない。素人読みだが、新型インフル等特措法の対象には「等」が入り今回含め広く活用できそうで、むしろ同法が定める政府計画や対策すら後手に見えその点政府の怠慢にも思えるが。
— 西田亮介/Ryosuke Nishida (@Ryosuke_Nishida) March 2, 2020
新型インフルエンザ等対策特別措置法https://t.co/rJu9IjFEfh
ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』では2006年に「国家権限法」が成立した際の様子を次のように記述している。
ジョージ・W・ブッシュ大統領は執務室で「国家権限法」に署名した。一四〇〇ページに及ぶ法案には、ある付帯条項が付け加えられていたが、当時それに注目した者はほとんどいなかった。それは「国家非常事態」が起きた際、戒厳令を発令し、州知事の要請に優先して「州兵を含む兵力を招集」し、「治安回復」と混乱の「鎮圧」を図る権限を大統領に与えるものだった。非常事態とはハリケーンや大衆抗議行動、あるいは「公衆衛生上の緊急事態」の場合もあり、そうなると軍隊を検疫作業や供給ワクチンの確保に当たらせることも可能になる。これ以前に大統領が戒厳令を発令できたのは内乱発生時のみだった。……(中略)……政府はこれによって途轍もない権限を獲得したが、それ以外にも少なくともあと一者、紛れもない勝者がいたーー医薬品業界である。なんらかの病気が大流行すれば、軍隊が出動して企業の研究所や薬品供給の安全を守り、検疫作業に当たることになったのだ。これこそブッシュ政権が長年、政治目標に掲げてきたことだった。ラムズフェルドがかつて会長を務め、トリインフルエンザ治療薬タミフルの特許を持つギリアド・サイエンス社にとっても、これは朗報だった。この新法成立に加え、鳥インフルエンザの脅威が継続したこともあってか、タミフルの売り上げは躍進し、ラムズフェルドの退職後も同社の株価は五ヶ月で二四%上昇した。(下巻:447~448頁)
「ショック」による参事便乗型資本主義は日本でも無関係ではないと言える。
安倍首相が2/29(土)の会見において、具体的に名前を挙げた抗インフル薬「アビガン」は富士フイルムホールディングス傘下の富士フイルム富山化学が製造している薬である。
今日の会見でも、しっかりオトモダチの「アビガン」という製品名は出して(なぜかここは具体的)、また株価に貢献してあげたわけだ
— 添田孝史 (@sayawudon) February 29, 2020
そして、富士フイルム会長の古森重隆氏は安倍首相と距離が近いと言われいてる。
同じく首相との近さが目立つのが、葛西敬之・JR東海名誉会長(4回)だ。親米保守派の論客として知られ、首相の「右派人脈」に連なる人物でもある。……葛西氏は大企業20社ほどのトップでつくる「四季の会」の中心人物としても知られる。
「四季の会」は首相に就任する前の安倍氏を囲み、季節ごとに年4回開かれてきた親睦会。富士フイルムホールディングスの古森重隆会長、東京電力の勝俣恒久元会長、三菱重工の西岡喬元会長、ヤマサ醤油の濱口道雄会長らがメンバーだ。近年は開かれていないが、その人脈は今も生かされている。(週刊朝日2017年12月29日)
実際、1月16日に日本で神奈川県内で感染症例を確認した次の日にも首相は古森会長と会食を行なっている。
(1月17日【午後】6時)33分、東京・平河町の日本料理店「下関春帆楼 東京店」。葛西敬之JR東海名誉会長、古森重隆富士フイルムホールディングス会長、ジャーナリストの櫻井よしこ氏と食事。9時3分、東京・富ケ谷の自宅。(朝日新聞、2020年1月18日、首相動静)
それ以外にも最近だと2019年12月30日の年末休みには首相とゴルフをしている。
首相が2/29(土)に「アビガン」の名前を出して会見を行い、3/1(日)の市場の休みを挟んで、3/2(月)現在、「富士フイルム」の株は急上昇中である。
第1に大きく上がったポイントがクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の清水港寄港中止になった2月6日前後、第2に大きく上がったのが2月24日前後に政府が抗インフル役として「アビガン」など3種類を使うと報道された時点である。
厚生労働省は22日、新型ウイルスの肺炎患者を対象に、同社グループが開発した「アビガン」を投与することを明らかにした。感染拡大に伴い、既存薬を生かして効果的な治療法を探す取り組みが広がっており、収益貢献につながるとの思惑から買いが入った。(日本経済新聞、2020年2月25日)
そしてこの半年だけを見ても「富士フイルム」の株価は4500円台から5500円台へと大きく上昇している。
このように考えると単純に「政府の無策・無能」を指摘するだけでは不十分だ。現在のコロナウイルスによる「ショック」という危機のなかで単なる政府批判に終わらない反新自由主義の言説を構築し、ヘゲモニーを転換し、運動を作り出す契機にしていく必要があるだろう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?