【読書メモ&データまとめ】WiMN編『マスコミ・セクハラ白書』文藝春秋、2020年

 2月13日に発売されたばかりの本。


 概要は以下の通り。

「胸触っていい?」「抱きしめていい?」
テレビ朝日の女性記者に対する財務省幹部のセクシュアルハラスメント事件は、世間に大きな衝撃を与えた。しかし、この記者を自分と重ね合わせた女性たちがいた。声なき声をすくいあげ、社会に届けるジャーナリズムに携わってきた多くの女性記者たち。彼女たち自身が、声なき声の当事者だったのだ。
事件をきっかけに、2018年春に「メディアで働く女性ネットワーク(WiMN)」が発足。100人超(19年末現在)の会員は、北海道から沖縄、海外在住者も含み、新聞・通信、放送、出版、ネットメディアなどで活動する(フリーランス含む)。
もう黙ることはしない――。
会員約30人の決意の告白、最近のセクハラ事件を取材した社会時評、そして主要メディアのセクハラ対策調査を、これからペンを持とうとする女性たちへ贈る。

 先日、4/18(土)の朝日新聞でもライターの武田砂鉄氏が紹介していた。

 書評にもある通り、本を読むとその内容に「愕然(がくぜん)とする。そして、怒りが湧く。」

 壮絶な体験談については直接本を買って読んでほしい。 

 個人的に興味を引いたのは本末尾のアンケート。主要な新聞社・通信社・テレビ局に対してセクハラ対策や窓口・対応について質問項目を送り調査しているのだが、各社ごとの女性社員比率が挙げられていた。

 新聞協会が行っている調査において、全記者数中の女性記者率は出ているが、意外と各社ごとの女性比率は公表されていない。

 協会の調査によると、全記者数中の女性記者率は最新の2019年では21.5%となっており、一番古いデータの2001年が10.1%なので、この20年でやっと20%を超えたというところだろうか。

 逆にWiMNの調査では全社員中の女性社員比率なので、営業職やその他職種も含めた回答になっている。本来であれば、職種ごとに調査するべきであっただろう。

 また、本に記載されているWiMNの調査ではNHKやテレ朝などのテレビ局や集英社や講談社といった出版社だけなく、BuzzFeed JAPANといったネットメディアも合わせた全86社にアンケートを送付し、65社から回答を得ている。ただ、今回は便宜上新聞社と通信社に限った。また、新聞協会に加盟しているが今回調査対象から外れた地方紙や郷土紙もあるのでこれが新聞業界をすべて反映しているとは言えないが一定の参照軸にはなるだろう。


 その上で各社の女性比率は以下の通りだ。

新聞社・通信社の女性比率(社別).001

 解答欄が空白の部分はWiMNがアンケートを送付したが、回答がなかった社。※がついている産経新聞と中日新聞は回答の詳細を表の末尾に記した。

 なお、中日新聞はWiMNのアンケートに対しては「具体的な数字等について公表する予定はない」としているが、リクルート用のHPには公表している。HPによると、全社員2,873人のうち女性696人であり、その割合は24.2%である。

 産経新聞もWiMNのアンケートに対しては回答していないが、会社HPの会社概要には女性社員数を公表しており、全社員1595人中351人である。割合的には22.0%である。

 一覧表にして第1に分かるのは女性役員数「0」の多さだ。47社中、30社で女性役員が「0」である。

 比較対象としてふさわしいか分からないが、「30%Club Japan(30%クラブジャパン)」の調査(2019年7月末時点)によると、株価指数(TOPIX)100を構成する企業100社のうち女性役員ゼロは15社だった。

 新聞業界は女性ゼロ比率が30/47=63.8%と非常に高いと言えるだろう。

 第2に見られる特徴は比較的企業規模が大きい全国紙やブロック紙よりも、地方紙の方が女性社員比率が高いということだろう。

 中でも「秋田魁新報社」「新日本海新聞社」「山陰中央新聞社」「大分合同新聞社」の4社だけが30%を超えている。一方で先ほども指摘したようにこの割合は女性記者率ではなく、企業全体における女性社員割合であるから一概にこの4社の記者職が多いとは言えないだろう。

 傾向的に地方紙の方が女性社員割合が高いのは何か構造的な理由があるのだろう。その点も含めて詳しく調査して欲しかった。

 ただ、本の重要な核は女性記者たちの体験談である。中でも印象に残ったのは以下の部分だ。

「女性には、「報道記者は危険な仕事」だと自覚してほしい。男性記者には「性的暴力は許さない。そんなことが起きたら見逃さない』という態度を日ごろから示してほしい。もし、当事者から被害の話を打ち明けられたら、共に歩み、相談を受けられる人になってほしい。じっくり話を聞いて、一緒に考えることで前に進むことができる。被害者に寄り添える記者は、社会で起きていること、埋もれている声をきっと聞くことができる」それがジャーナリズムに関わる私たちの仕事だ。

 とにかく買って読んでほしい。特に男性に。


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