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ホリエモンがプライベートジェットを使い2日間で排出するCO2量は日本人の年平均以上

海外セレブの二酸化炭素排出量は一般人の100倍以上

 ドイツの政治経済学者のマーヤ・ゲーペル(Maja Göpel)が書いた『希望の未来への招待状』(大月書店、2021年)の第9章にはプライベートジェットに関する興味深い研究が紹介されている。

 2019年に生態学者のシュテファン・ゲスリンク(Stefan Gössling)はセレブや経済界のリーダーなど有名人の飛行機移動について調べた。その多くがプライベートジェットの保有し、世界各国を飛び回っている。面白いのはその調査方法だ。普通、有名人の移動など本人やごく一部の人しか知らないと考えてしまうが、シュテファン・ゲスリンクは有名人がSNSで公開した投稿を元に彼らが排出した二酸化炭素(CO2)排出量を推計したのだ。

 元の論文は概要しか読むことができないが、マーヤ・ゲーペルによると以下のようなことがわかったという。

ビル・ゲイツは〈世界を飛びまわる人〉リストの筆頭で、調査によると2017年に少なくとも350時間、雲の上にいました。彼はプライベートジェットを好んで利用するため、1600トン以上の二酸化炭素が排出されました。リストの二位と三位、パリス・ヒルトンとジェニファー・ロペスの場合、どちらもたいていプライベートジェットで移動しますが、それぞれ1200トンと1000トンの二酸化炭素を排出しました。(前掲書、165頁)

 全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)によると、2018年のアメリカ人一人当たりのCO2排出量が15.1トンなので、ビル・ゲイツは一般的なアメリカ人の100倍以上のCO2をたった1人で排出していることになる。

ホリエモンの移動経路から排出量を推計する

 日本でプライベートジェットを乗り回している有名人として堀江貴文(ホリエモン)がいる。堀江は2019年にHondaJetを購入し、YouTubeでも公開してる。

 また、堀江は飛行機による二酸化炭素排出について以下のように語っている。

ホリ でも、飛行機が地球温暖化ガスを増やすとかいう話をするのは、人間が人間であることを否定することになると思うんだよ。本当は堂々と飛行機に乗って、技術革新で地球温暖化ガスを減らす方向に動いたほうがいい。それが「人間らしさ」であって、グレタさんのような活動は方向性を間違えているよ。

 そんな堀江が実際に排出している二酸化炭素量はどれくらいなのだろうか。本人がプライベートジェットを買ったことを自慢している記事から推計しよう。

購入してすぐに北海道と青森を周遊した。まずは函館でゴルフをして、その夕方に札幌へ移動してご飯を食べた。函館空港から札幌丘珠空港まで車では4時間くらいかかるが、飛行機なら20分。だからこそ可能なスケジュールだ。 
次の日は利尻でムラサキウニとバフンウニの食べ比べをしてから、稚内でゴルフ。さらに、青森に行ってマグロを釣った。釣果は20キロのマグロ。東京に持って帰ってすしのイベントで使ってもらった。
定期便の飛行機とは違って、ルールに縛られず柔軟に運用できるのが大きなメリットだ。普段は仙台空港に置いてあるが、成田空港なら15分くらいで到着する。まさにタクシー感覚で使えるので本当に便利だ。

 この記事を参考に移動経路を考えると(仙台→)東京→函館→札幌→利尻→稚内→青森→東京(→仙台)となる。プライベートジェットは「普段は仙台空港に置いてある」ということなので、仙台空港からプライベートジェットを成田空港に呼んで移動したと仮定する。また、函館空港から札幌丘珠空港(155.69 km)を20分で移動していると言っているので暫定的に移動した時速を467.07 km/h(7,784.5 m/min)とする。距離はGoogle マップの距離測定機能を使い直線距離で大まかに計測した。

仙台(仙台空港)→東京(成田)…267.04 km(165.93 マイル)
東京(成田)→函館(函館空港)…668.26 km(415.24 マイル)
函館(函館空港)→札幌(丘珠空港)…155.69 km(96.74 マイル)
札幌(丘珠空港)→利尻(利尻空港)…237.64 km(147.66 マイル)
利尻(利尻空港)→稚内(稚内空港)…55.09 km(34.23 マイル)
稚内(稚内空港)→青森(青森空港)…526.46 km(327.13 マイル)
青森(青森空港)→東京(成田)…552.47 km(343.29 マイル)
東京(成田)→仙台…267.04 km(165.93 マイル)

 総移動距離:2729.69 km  ÷ 467.07 km/h = 5.84428458 h となるので合計移動時間を6時間とする。

 排出量を概算するために使ったのは「Private Jet Carbon Emission Offset System」と呼ばれるオープンソースの計算式。

 HPを見る限りだとプライベートジェットを利用した分のカーボン・オフセットを計算するための計算式らしい。機種を堀江がYoutubeで公開していた「Honda Jet Elite」に設定し、移動時間を6時間にして計算すると、「23,030 lbs / 11 mT」と出てきた。「23,030 lbs=10.446232トン」となる。

 先ほど利用したJCCCAのデータによると、2018年の日本人一人当たりのCO2排出量は8.5トンということを考えると、堀江はたった2日間で日本人一人当たりの年間排出量を超えるCO2を排出していることになる。

前澤友作は宇宙に行く前に大量の二酸化炭素を排出する

 同じ方法で前澤友作の排出量も計算してみる。

 前澤が乗っているプライベートジェットは堀江の機体よりも大きい「Global 7500」という機体。

 

 前澤は宇宙に行くための訓練をロシアでしており、ロシアに行くのに、このプライベートジェットを使っていくという。前澤が訓練しているのはモスクワにあるガガーリン宇宙飛行士訓練センターということなので成田・モスクワ間を1往復する際に排出するCO2量を計算してみる。成田・モスクワ間はJA Lの直通便で約10時間かかるということなので往復で20時間。

 これを先ほどの計算機で機体を「Global 7500」に設定して計算すると、「239,275 lbs / 109 mT」と出てきて、「239,275 lbs=108.533…トン」となるので、前澤が宇宙に行くためロシアで訓練しにいく際に排出する二酸化炭素量は日本人の平均年間排出量の12人分に相当する。

金持ちのわがままに未来を奪われる

 マーヤ・ゲーペルは前掲書で次のように指摘している。

気温上昇1.5度までにおさえられれば、気候変動の深刻さは緩和され、気候変動に適応するためのコストの上昇もおさえられます。この1.5度という制限を達成するために人類に許された二酸化炭素の排出量は、2017年以降で計算すると、あと約420ギガトンということになります。……人間一人あたりに換算すると、地球が2020年初頭の段階で、前述した1.5度以上の温暖化を起 こさないために許される二酸化炭素排出量は、42トンです。 ビル・ゲイツに話を戻すと、これはどういうことでしょう。 ビル・ゲイツは、フォーブス誌のリストによると108億ドルの資産をもつ、世界で三本の指にはい る富豪ですが、この観点から見ると、38人が生涯で許される二酸化炭素の排出量を、一年で排出していることになります。それだけの人が1.5度の境界を超えないで暖房、移動、消費のために排出できる量のすべてを、です。たった1人の人物が、自分のためだけに、SNSで見つけられ で、たった1年で、です。 実際にはいまのところ、C02排出枠をほとんど使わないようなライフスタイルをおくっている人たちもいて、その分をほかの人たちに使わせていられる、という状況です。(前掲書、166~167頁)
あきらかに不公正なのは、こういった極端な排出者のうちほとんどだれ ライフスタイルを真剣に問題視しようとしていない、という事実です。そして、その理由だと私が思えるのはただひとつ、彼らはこういったリソースを自分で確保する経済的手段をもっている、ということです。その経済的手段で彼らは、C02排出枠を使ってしまった人たちにはできないことができます。 気候変動に適応し、環境がまだ良好な場所に引っ越し、少なくなった食糧に高いお金を払い、家が破壊されても保険にカバーさせることができるのです。……
これは公正でしょうか?……
限界があることを認めれば、モノと、汚染する権利にもかぎりがあることを認めなければならないからです。ケーキをずっと大きくしつづけることはできないので、問題はおのずと、それをどう分けるか、ということになります。生態系にはかぎられた量の原料しかなく、かぎられた量のゴミと排出ガスしか受け入れられないので、問題はおのずと、だれがどれだけ使っていいのか、どれだけ捨てていいのか、どれだけ排出していいのか、ということになります。 環境問題はつねに分配の問題であり、分配の問題はつねに公正の問題なのです。(前掲書、168~169頁)

 このように考えると堀江や前澤がプライベートジェットに乗ることは公正ではない。

 なぜ彼らは我慢できないのか?ゴルフなんか北海道に来ないで近場でやればいい。プライベートジェットに乗らずに一般の旅客機に乗れば良い。彼らがやっていることは資源の浪費であり、未来の浪費だ。

 今回はざっと排出量を概算したが、シュテファン・ゲスリンクのように彼らのSNSを追って計算すれば彼らの1年間の排出量がわかるだろう。そうすればいかに不公正なことが起きているのかを数値化して比較することができるだろう。


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