6月の邂逅

振り返ろうと思った。

6月の関西ツアー、慣れ親しんだルート。
かれこれ23歳くらいから開拓した、扇町para-dice、神戸ARTHOUSE(現 PADOMA)、京都nano。

繰り返し、繰り返し、何度も歩いた道のり。
最初の頃は右も左もわからない、まさに未知の世界で。
まさに、冒険そのものだった。
そこに幾多の出会いがあって、考えがあって、生き方があって。
それを繰り返し、反芻して、わからなくなったらまた確かめに行って。
お金になるかと言われたらそうではないけれど、知りたくてたまらなくて
足をすすめていた。

コロナ禍があけて、世界が変わって
小さな自分の中の違和感、世間や社会とのギャップ、なかったことにされそうな危機感、色々なことが溜まりに溜まってもう一度あの街に行くようになった。

歌いたいこと、もうとっくの昔になくなっていると思った。
わかりやすいものとか、他人受けするものとか、作って形にするまでを実際にしてみた。結果必要なかったものだってあったけど、それは実際に形にするまで納得できなかった。だから、形にする必要があった。

自分の選ぶ選択はいつだって遠回りなものかもしれない。
わかっているつもり、充分理解しているつもり。
でも、やっぱり理解が追いつかない直感、説明できない予感がいつだってあって。だから今回も関西に今だから出るべきだと思って飛び出した。

でもやっぱり気づく。あの初期衝動のようなものはなくて
ある程度理性が働いた状態で動いていることに。
それが悪いことかどうかはわからないけど、変わってしまったこと
今まで通りの気持ちではないこと、それをどう受け止めればいいか
とても考えていた。

1日目 大阪 扇町para-dice
みなれた楽屋、街並み、雰囲気
でも親しみを込めて、ホームのような気持ちがある。
つい先日、ここでワンマンライブをやった時は
もう記憶をとばすほど必死だった。
余裕も余力もなかった、けど来てくれた人は笑顔だったから
それでよかった。
今日はそういう意味では、いつも通りのライブの日で。
準備を慎重にすすめていた。

この日の共演者さんは皆素晴らしかった。
誰に媚びるでもなく、争うでもなく
自分の音を鳴らす、それが最高によかった。
顔色伺いながら、そちら側に擦り寄るなどは
いくらでもできるものだけど。
しっかり自分の音を鳴らす、というのは
とても難しいことだと思う。
芸術、アーティスト、自己表現、一般の方がしない手法で
自分のうちなるものを放出する、それがやっぱりとても強いことだと思った。


そうして自分の出番。
始まる前から、現状を全て出し切れるように思ったライブは
楽しんでいただけたようで、ライブ後に多く声をかけてもらった
乾杯をするたびに自分の身体が火照っていく、嬉しい、楽しい。
でも、こうやって知らない人、出会うことがなかったであろう人々と
出会えたこと。音楽を鳴らす、繋ぐ、SNSでは得られない生きた繋がり
そういったものに充足した幸福感があった。

終演後、スタッフのフレッシュさんと飲みに出かけた。
なんやかんや二人でサシで呑むのは初めてだった。
大好きな野球の話、音楽の話、たわいのない話。
自分なんかがと思ってしまうほど、受け入れてもらえることが
嬉しかった。

グダグダとなりながら帰路につき、楽屋のソファーに身体を埋めた。
そこから気づいたら翌日になっていた。


2日目 神戸 PADOMA
この日は、たんげまことさんのリリースツアー関西編に参加させてもらった。

たんげさん以外、全員知り合いで、とてもうれしかった。
長く続けていると、仲間と呼んでいた人々の数は次第に減っていく。
そういったなかで、airlieは同い年の同期と呼べるシンガーで
前川翔吾さんこと、ゼンさんは憧れのミュージシャン。
西川卓志さんと 伊藤伶さんはこのハコの熟練の顔ぶれで合って
メロディーメイカーだ。

このハコに来るたび、とにかく笑う。笑顔、お客さんと共有する、阻害しない、老若男女が足を運ぶ、だからとっても好きだ。
ライブハウスの閉鎖的な感じがない。これが一番の魅力だと思う。

そうして全部の演者さんのライブを見ていた。
あっという間だった。ライブを見ていて思ったのは、誰が歌って、誰が言葉を発して、誰がステージに立っているのか、シンガーソングライターはそれが魅力だと思った。

伊藤伶さんはやっぱり曲が良い、聞くたびに人柄が溢れている。
音が綺麗で繊細、毎度聴くたびにその声が欲しくなる。
西川卓志さんはもっと人柄が溢れている、大きく見せようとしないところが最大の魅力だ。

やっぱりairlieは圧巻だった、初めて出会った時からの衝撃からいまだに衰えることなく、自分を貫く、手が届かない高みにいるように思えた。
真っ向勝負しても敵わないなと思うシンガーだった。

たんげさんは初めましてだったけど、素晴らしいとしか言えない
重厚な厚みのある音楽だった。
ちょっとだけタイムリーなことも合って、母ちゃんに送った歌がとめどなく身体に入ってきた。もっと話したかった。

そしてゼンさんのライブ。
まさに、前川翔吾だった。人が積み重ねてきたもの、その人が言うから意味がつくもの、重みが出てくるもの、それを体現しているようだった。

この日は、少し緊急な一身上の出来事が起きてしまって(親族系です)急遽酒を飲まず打ち上げに出れずになってしまった。

みんなに心配をかけてしまったのが心残りだった。

忘れがちだけど、やっぱり生きた人間とやりとりをしていると
救われる。



3日目 京都nano
前日の急な出来事で昼まで起きていて
もしかしたら急遽帰らないといけないかもしれなかった。
でも、無事にその日を迎えることができた。

そういったことが初めてで、それをどこにも持ち込みたくなくて
自分の精神を落ち着かせるために鈍行列車に乗って京都に向かった。

あっという間の3日間。
今回は観光はもちろん、どっかに外食したとかもなかった。
ひたすらに思考を張り巡らせていた。

日日是好日と銘打たれたこの日は
会場であるnanoのサイトを見てもらったらどういった日だったのか
確認してもらえると思う

京都の街には好きな人が沢山いる、名前を上げたらキリがないけど
その名を呼びたくなる人々が沢山いる。
よく京都の客層を一見さんお断りの風習があると聴く。
けれど、裏を返せばそれは馴染めば受け入れてもらえると言うことだと思う。

だから、ずっと通って少しずつこの街に馴染ませてもらっているのだと思う。

ここにライブをしにきた。
音楽を鳴らしにやってきた、それまでの道を振り返ると全部いまあるものを出していたと思う。ここnanoでも幾多も実験的なこと、小さなことを積み重ねてきた。それができるのはこのハコだからこそだと思った。

いつの間にかフロアが顔見知りで埋まった。
もちろん初めましての人もそこにいた。
お久しぶりも初めましても全部楽しんで帰って欲しくて
この日も、今あるものを全部出し尽くした。

やはり人々は生活をしていく中で、小さな無理だったり無茶を繰り返していたり、それはいわゆる不器用な人なのだと思う。でもふと歌いながら思った、別に器用な人だってなんのリスクも負わず、楽にイージーに生活している訳ではない。こっちが不器用な人だなって決めつけてしまったり、そういう人が好きなんてことを言葉にしてしまうのは些か引っかかりがあった。人には人それぞれの悩みや背負うものがあったり、それを敢えて人に見せなかったり、言葉にしなかったりする人が存在すると思う。

僕は、不器用な人用のセラピーではない。そうはなれない。
ただ、共鳴しあっているに過ぎない。今自分自身が置かれている状況と僕の音楽が。

この共鳴し合うと言うこと、聴き手に響かせるように仕向けるのではなく、お互いが呼応するといった音楽を今は作りたいのだと思った。
誰かの音楽を否定するのではなくて、そういった意図で言っていることではなくて、今の自分はそうありたいと思った次第だった。


終演後
「昔1回だけ見たことがあってその時は興味なかったけど、久々みたら別人になってた」と声をかけてお酒を奢ってもらった。

それがとても嬉しかった。

あの日この街にきて音楽を鳴らさなければこの日は訪れなかったと言うのはもちろんの事、あの日からの続きを迎えることができた、そして幾年かの時を経て受け手と音楽を共鳴し合えたのかと思った。

歌を作る、歌を歌う、それは長い道のりだと改めて痛感させられた。
あんまり職人気質の閉鎖的な感じにはなりたくないけど
生きている間に見つめて、みつけて、気づいて、それを繰り返していく中で
まだまだ音楽を作って知らない世界、自分の音楽について没入して行きたいと思った。

こうして僕の3日間は終わった。

時間が立ってこの記事を書いているのがそこからが怒涛の日々だったからだった。忙しい毎日を過ごすことはいいことかもしれないけど、今はこの3日間で蓄えた思いを次は実現しようと動き始めている。

今の自分を音源化したいと思っている。新しい曲を書き下ろして、それを録音してリリースしたい。

そのために6月からしばらくの間はライブ活動はおやすみすることにした。
ライブがないからと言っても立ち止まる訳ではなく、戻ってくる時には日常に自分の音楽が鳴っているようにしたい。

6月3日から始動したpora poraもそう。毎日の小さな積み重ね、退屈には今は思わない。時間をかける時は今だと思うし、また忙しなくライブで色々な街を駆け回る日々がくると思う。

その時はどうぞよろしくお願いします。

改めて3日間出会ってくれた人、お久しぶりの常連さん、そして助けてくれたスタッフのみなさんと共演者さん。

ありがとうございました。

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