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添える

添える言葉がみつからなかった。
少なくない時間を共にしていたのに、なにも発することなく手を合わせて離れた。

ばちばちと電気がはしったあとに、記憶がごちゃごちゃとなった気がした。平衡感覚を失ってしまったみたいでちゃんと歩けない。崩れてしまいそうな時に通り過ぎる人々の涙をみた。

スイッチがはいったみたいに無重力になっていた思考は重力の重さを得たようにストンっと戻ってきた。緩んでいた視界はピントが合った。

みんながみんな、問われてしまっていた。
思うように泣くのがいいのか、大人として気丈に振る舞うのがいいのか。思いの丈をぶつけるのか、静かに沈黙を選ぶのか。それぞれの在り方でその場にいた。全部間違いじゃなかった。

自分はどこか平気なふりを精一杯していた。
平気ではいられないから、誰かを気遣ってみた。すごく自分本位。

突然なんだから許してほしい。

翌日の天気は土砂降りの雨だった。
アイツが旅立ったその日はご機嫌な晴れだった。

急いでスーツを探して、バタバタと準備をしたせいで部屋は散らかりっぱなしだった。
朝洗おうと思っていた洗い物は1日中浸かりっぱなしだった。

夢とかにでてこないかなってどこかで思っていたけど友達が多い奴だから一番近い人たちの側にいったりきたりしてるよな、なんて考えてしまった。

もう何処にもいないのに。

恐ろしいくらい日常は変わらない、出勤、業務に打ち込みPCを前に仕事に没頭する。
笑う、こういう時はとことん笑う。自分よ早く戻ってこい。

山ほど残っているタスクを一個一個減らす、手につかないこともありながらすすめる。

こういう時に限ってうまくいかないことが降り注いだ。どっと疲れているのに、休む暇も考える暇も与えてくれない。

少しは思い出して浸らせてほしい、なんて心の奥底で愚痴りながら正直向き合わない時間に救われていた自分がいた。生きるとは優しくないことの連続だ。

大川内智彦は死んだ。

同い年で何故か絶妙にモテない2人なんて言われてたのがいつのまにかアイツはカッコいいバンドをどんどん大きくしていってグンっと差がひらいた。俺はいまだに客もまばらなステージで歌っていた、旅をどれだけつづけて心が養われていっても豊かにはならなかった。かといってアイツが豊かな生活を送っていたかと言われたら違った。順風満帆にレーベルや流通が決まって沢山のお客さんに愛されて、それに妬まなかった日がなかったとは言い切れない。自分が間違っていたのかと思わされたことだって何度もあった。

でも、アイツはずっと変わらなかった。
俺より曲を沢山つくって、ひたむきに向き合って反発して、でも前に進んで。なのに会えば少しも変わらず愉快なやつだった。いつまでも変わらずバカみたいな話をしてた。
そうするうちに妬むこともなくなった。
あいつはアイツなりに戦っていると知ってから、尊敬していた。自然とライブに足が運んでいた、曲に身体を揺らしてアイツの言葉に説得力がおびていく瞬間を目にしていた。

ワンマンライブに行ったとき、アイツの歌を口ずさんでいる人間が沢山いた。それがとても良かった。

会うたび、なにが良かったかって俺は伝えていたから後悔はない。

でも、振り返るとやっぱり俺はアイツのことをなにも知らないのだと痛感させられる。

みんなにみせていた表情しかしれていない。
だから、友達って言っていいのかなって考えた。

懐かしい思い出をすりきれるまで思い出しても、答えは出てこない気がした。

まいったな、ほんとにまいった。

平気なふりをこのまま続けて墓場までもっていけるやつだったらよかったのに。
今ある気持ちや感情が薄れたり、あの時俺はどんな気持ちだったかを忘れたくなくて文章をあの日からずっと書いては消している。

天国は本当にあるのか、アイツは自分がどうなったのかも気づかずに彷徨ってたりしないのか。ずっと離れない、暗い光もない場所で無限のような時間を過ごしているイメージが何故かずっと浮かぶ。いままで想像したこともなかったのに、ずっとだ。なんでこんなことをと思ってもずっとだ。俺たちが安らかにと願っていても、俺たちは魂の行き先を知らない。人間が生み出した偶像みたいな世界があるのか不安になった。せめて、せめてアイツには辿り着いてほしいと願わずにはいられなかった。

残された俺たちは変わらず毎日をすごしている、俺はまた音楽を鳴らしている。

自分の歌や言葉達が新しい表情をしている、絶えず歌えば突き刺してくる。無性に聴いてほしいと思ってしまう。俺なんかが何かできたわけでもないのに、欲深くも聴かせてやりたいなんて思えてしかたなかった。

俺はこれを書いたらもう泣き言を言わないと決めていて、snsとかに気持ちをはいたり心配かけたり表明したりなんかそういうのは人はやっているぶんはかまわないけど自分がやるのは苦手でさ、でも何処かで自分の想いをちゃんとのこしたくて。手帳とかには個人的なことを綴ったけど、でもここに書いておきたくもなって文字を打っている。

心配はない、元気にやってる。気にしてくれた人も助けてくれた人もありがとう。

俺はゆっくりと部屋を片付けていこうと思うよ。


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