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「艦これ」回顧録 ~艦これボーカルについて~

※本文は京都大学艦これ同好会会誌「提督たちの航海日誌7」に掲載したものを編集したものです。NF(京都大学11月祭)にも出展しているそうなので、ぜひ足を運んでいただければと思います。

はじめに

 皆さんは「艦これ」のどこがすきですか?カスみたいなギミック複雑なイベント海域攻略やクソ面倒な札制度達成度のある縛り、アホみたいなボス耐久強大な敵を倒したときの快感、ほとんどパチンコみたいなバトルシステムランダム性が高く、手に汗握るバトルなど、もちろん人それぞれだとは思いますが、僕は特に「艦これ」のBGMがとても好きです。どれくらい好きかというと、切羽詰まっていて集中したいときによく聞きます。歌がついていなくて勇ましい曲が多いので、程よい緊張感の中で集中できます。……つまりは今なのですが。
 僕の切羽詰まっているさまはさておき、恐らくこの点は、かなり多くの方が同意してくださる「艦これ」の良いところの一つかと思います。通常海域はもちろんのこと、かの有名な「シズメシズメ」から「鶴墜ちる海」、もちろんそれより前の「敵超弩級戦艦を叩け!」や「索敵機、発艦始め!」も好きです。
 なので、この文章ではそうした艦これのBGMからもう少し踏み込んだところ、具体的には一般的に「艦これ」にまつわる同人文化の一部分ついての回顧録だと考えて貰えたらいいと思います。そこから艦これというコンテンツが覇権を握っていたころ(……だいたい2013年から2015年くらいな気がしますが)についてのなんとなくの所感を書けたら最高ですね。最後までお付き合い頂ければ幸いです。それでは行きましょう。

「艦これボーカル」とは?

 皆さんは「艦これ」をYouTubeやニコニコ動画で検索したことがありますか?ある方はその画面を思い出しましょう。ない方は暇なときに調べてみてください。攻略動画が最近では増えてきたような気もしますが、かつては「艦これ」と動画サイトで調べれば出てくるものはMADやMMD、そして「艦これボーカル(艦これヴォーカル)」がとても多い印象でした。
 MADやMMDについては説明する必要もないのではないかと思いますが、簡単に言ってしまえば自作の動画を用いてPVを作ったり3Dモデリングで歌に合わせて踊らせてみたり……という動画のことです。MADの有名どころでは「かんこれふぁんくらぶ」でしょうか。
 さて、それではこの「艦これボーカル」を皆さんはご存知でしょうか。「艦これボーカル」とは、ざっくり説明するとこの時期の同人音楽シーンに存在した(東方では今でもあるみたいですが)記憶のある、「公式のBGMをアレンジし、歌詞をつけた楽曲」の総称です。
 例えば東方BGMのアレンジ楽曲である「東方ヴォーカル」で一番有名なのは「おてんば恋娘」のアレンジである「チルノのパーフェクトさんすう教室」かと思います(諸説あり)が、艦これにも似たような文化があった、ということです。
 ただ、もちろんBGMアレンジだけではなくオリジナル楽曲も存在します。例えばかの有名な「恋の2-4-11」はオリジナル楽曲でした。またこの曲が後に公式化することからもわかるように、この「艦これボーカル」の流れが公式に取り入れられたということもできるかもしれません。時期的に結構曖昧なので実際にそうなのかはわかりませんが、のちに公式でもBGMに歌詞をつけたり、インストがBGM化しているものがいくつかありますね。「華の二水戦」や「提督との絆」などはその例でしょう。

 しかし、こうした文化は艦これに特有なものではなく、その時代に流行っていたものだったように思います。MADは他の作品にもたくさんありますし、艦これボーカルを制作していたサークル「幽閉カタルシス」は、東方ヴォーカルを制作する大手サークル「幽閉サテライト」の兄弟サークルとして生まれました。ある意味でこうした「同人音楽」の文化は、2010年代前半の一つのトレンドだったと言えるのかもしれません。

「艦これ(ボーカル)」の盛衰

 というわけで、ここからは「艦これ」を含めた当時の状況を少し思い出してみましょう。
 僕の記憶ではこの頃はかなり同人音楽が盛んだったイメージがあります。メジャーなものではボーカロイドの流行から歌い手、そして当時大人気だったMAD、またこの「艦これボーカル」や「東方ヴォーカル」と、この頃の同人文化には音楽を中心にした二次創作の文化がかなり多くあったような記憶が、皆さんの中にもあるのではないでしょうか。
 しかしながら現在ではこうした文化のうちメジャーだったボーカロイド曲や歌い手を除いたほとんどが消えてしまっているように思います。かつて流行したような「MAD」はほとんど話題になりませんし(まぁ、先日一瞬なりましたが……)、「艦これボーカル」自体は細々と続いていますが、「艦これ」以降に流行した様々なソーシャルゲーム、例えば「Fate/Grand Order」、「プリンセスコネクト」から近年では「原神」、「ブルーアーカイブ」などがあると思いますが、これらのコンテンツにおいては同人の文化で「音楽」が話題に上がる事はなかったように感じます。
 ではなぜ、「同人音楽」は衰退してしまったのでしょう。計量的な分析はデータが存在せず難しいところですが、感覚的にはいくつかの要因があるように思います。共感していただけるかわかりませんが、紹介していきましょう。 

 まず可能性として考えられることは、商業の介入があるかと思います。米津玄師(ハチ)やヨルシカ(n-buna)をはじめとした著名なボカロP、そして96猫、MARiAといった著名な歌い手がメジャーデビューをしたことがその証左と言えるでしょう。
 もちろんこれは艦これのサービス開始以前から徐々に始まったものです。ボカロPのメジャーデビューは艦これのサービス開始やそれ以前からあります。やなぎなぎさんこと歌い手のガゼルさんは、その一番明らかな例でしょう。
 ただ、こうした商業化の波がより大きくなったのが2014-2016年ごろなのではないか、という感覚は多くの人が持っているのではないかと思います。別方面で言うと、声優のソロデビューが増えたのもこの時期です(なお、ソロデビューの人数が一番多いのは、一般的に2014年とされています)。
 同人音楽が徐々にレーベルに取り上げられるとともに、著作権などの問題でそれができない艦これや東方の二次創作音楽は過疎化が進んでいったのかもしれない、と考えることもできますね。

 他には、スマートフォンの発達もあるでしょう。「艦これ」は今でこそスマートフォンでもプレイできますが、当時はPCでしかプレイできない時代遅れのゲームでした(まぁ正確には裏技を使えばできないことはなかったのですが、垢BANの可能性が高かったです)。スマートフォンならまだしも、PCでプレイするゲームはそれなりに手間がかかりますね。またこのゲームには轟沈などという自分が手塩にかけて育てた艦娘がほんの一瞬の確認ミスで返ってこなくなる可能性がある、というふざけたカスのあまりに革命的なシステムが存在します。
 当然我々プレイヤーはそんなことをしたくはありませんし、必然的に「艦これ」に集中しますよね。また、画面を見ていなくてもイヤホンを挿していれば中破/大破のボイスからも確認できます。したがって、「艦これ」においては特に画面や音を注視しなければならないコンテンツだったと言えるでしょう。
 対して、他の多くのゲームではそこまでする必要はありません。とくにスマートフォンで遊ぶソーシャルゲームはそうです。我々はBGMをわざわざ聞くよりは、お気に入りの歌を流したり、動画を見たりすることが多いでしょう。とすると、必然的にBGMという存在にものすごく注目することは減るわけです。

 最後に、もう少し別の観点からも、可能性を真面目に考えてみましょう。この時期に同人音楽は、恐らく「文脈」に依存するものでした。というのは、他に依存できるものがないからです。イラストは身体的特徴が一致していれば同じキャラクターであると認識できますし、文章だと口調などからキャラクターを認識できます。しかしながら、「音楽」に関してはそれが不可能です。そもそも何かをベースにして組み上げていくわけですから、必然的に個々の特徴ではなくより大きな「文脈」に依存せざるを得ません。
 しかしこれは、「同人文化」においての話です。当然公式ではそうはなりません。そこには「声」という絶対的に正しいものが存在するからです。例えば佐倉綾音さんが「恋の2-4-11」を歌ったことで「公式化」したように、その力は絶大なものと言っていいでしょう。
 そしてこの時期、「声」によって、我々の消費態度というものは確実に変化しつつあったと思います。先に挙げた声優や歌い手のメジャーデビューもその範疇で考えられるのかもしれません。現代においても「VTuber」の外側と内側を繋ぐものとして「声」は非常に重視される傾向にあります。そして「声」は唯一のものです(一応キャスト変更があることもありますが、基本的に)。
 つまり、かつて「文脈」に依存していた我々の消費態度は、いま一度組み替えられた結果として「声」というキャラクターを措定可能な要素のうちで最も強い属性に依存し始めていたのだ、ということも可能なのかもしれません。

 もちろん、こうした推測が絶対に正しいわけでは当然ありませんが、少なくともある程度納得できるようなものが一つくらいはあるのではないでしょうか。……あったら嬉しいな。より詳細な分析だったり、より正確そうな異説だったりは、いずれ誰かがやることでしょう(投げやり)。
 何はともあれ、こうした「艦これ」の同人音楽文化は、時が進むにつれて(まぁ、艦これが衰退するにつれてと言ってもいいですが……)、徐々に活動が少なくなっていきました。今では新曲を更新するサークルは少なく、我々はかつての楽曲を聞きながら新たな曲をたまに確認するほかありません。個人的には少し寂しい気もしてしまいますが、それもまた時の流れというものなのでしょう。
 ひとまず我々にできることはそうした曲をたまに聞いたりして、かつて存在した文化を忘れずに語り継いでいくことなのかもしれません。
 というわけで最後に、僕のおすすめの艦これ関係のMADや「艦これボーカル」をいくつか紹介しておきます。良かったら聞いてみてください。

「艦これボーカル」紹介

〈MAD編〉

1.かんこれふぁんくらぶ
 ボーカロイド曲「いーあるふぁんくらぶ」の艦これ版MAD。各キャラのボイスをうまくはめ込んでいて個人的にはとても好き。人気があるためか、その後も「第二次かんこれふぁんくらぶ」、「第三次かんこれふぁんくらぶ」、「第参次かんこれふぁんくらぶ・姫」「第4次かんこれふぁんくらぶ -Extra Operation-」が別の人によって製作されている。

2.時雨ノナミダ
 「たしかなこと」のMAD。製作者はキネマ106。小田和正の原曲ではなく絢香がカバーした方が用いられているが、それが時雨にマッチしていて聞き入ってしまう。
 タイトルにあるように時雨にフォーカスされた、史実に近い物語が曲と共に展開されている。時々インサートされる時雨のボイスが痛ましい。少し寒くなってきた秋の、雨が降っている日に見たい(それはそう)。


3.一航戦の軌跡
 「愛をこめて花束を」のMAD。個人的にはこの三つの中で一番好きかもしれない。
 名前の通り一航戦を主役に作られている。見たことがある人も多いのでは。シンプルな絵が逆に視聴者の胸を打つ。加賀→赤城の愛情も、赤城→加賀の愛情も再確認できる。加賀さんは一生赤城さんのお世話をしていてほしい。
 なお元の動画は削除されており、現在は転載しかない。悲しい。

〈オリジナル楽曲編〉

1.銃爽/銃爆
 二曲だけどまとめて紹介します。それが礼儀というものです。こちらも「時雨ノナミダ」と同じくキネマ106による制作。「銃爽」が鈴谷のイメージソングで、「銃爆」が熊野のイメージソング。何がかっこいいか文章で説明することは不可能なので、一度聞いて確かめて欲しい(艦これボーカルの中で恐らく一番知られている気がするのでもしかしたら知っている人も多いかも)。歌詞、メロディー、文脈そのすべてがかっこいい。鈴熊のオタクが聞いたらだいたい吐血して成仏する。
 マジでかっこいいから聞いてくれ(三回目)。

2.金剛のてぃーたいむらんでヴー
 名前の通り金剛のイメージソング。実はあまり知られていない曲なのだが、MVの四姉妹の絵がすごく可愛らしい。一昔前の美少女ゲームOPみがあるように思うので、そういうのが好きな人はぜひ聞いて欲しい。声と歌詞のマッチ具合もいいし、金剛の乙女な一面みたいなものが想像できてニッコリできる。
 またこちらもYouTubeに公式が曲を残している。聞くべし(猛プッシュ)。

3.なのです!
 かのIOSYS(チルノのパーフェクトさんすう教室作ったところ)制作の、電のイメージソング。羽入の曲じゃないよ!キャラの解像度がとても高くて本当に好きな曲の一つ。まぁ自分が電に想い入れがあるのもありますけどね。最初に選んだ娘だし。「もし生まれ変わって また海に出るとしたら 守るためにいる 艦になりたいのです」この歌詞が良すぎて、何回でも聞いてしまう。
 なお本曲は公式がYouTubeに曲をあげている。ぜひ一度聞いて欲しい。

〈アレンジ楽曲編〉

1.遥か遠き
 帝國交響楽団作。帝國交響楽団はボーカルに片霧烈火さんがいらっしゃるのでとても良い。恐らく筆者が「艦これボーカル」のなかで一番よく聞いている曲。そして一番好きな曲の一つであることは間違いない。ずっと聞いてた母港BGMをアレンジするだけでこんなにカッコ良くなるんだ……という感動がある。また曲全体も戦の前の静けさの表現具合と片霧烈火さんの歌声が絶妙にマッチしていて美しい。正直もっと評価されるべき曲の一つであると思う。
 現在は試聴がないので転載をゴニョゴニョするか、なんとかしてCDを入手するしかない。

2.鉄底海峡に陽は沈む
 こちらも帝國交響楽団作。曲がマジでかっこいいから聞いてほしい。「決戦!鉄底海峡を抜けて」の間に「敵超弩級戦艦を叩け!」が入るような編曲で、どちらもかっこいいのだから合体すれば当然さらにかっこいい。歌詞も勇ましくて、まさにアイアンボトムサウンドという感じがする。イベ最終日、最終海域ラスダンをこれ聞きながらやると脳汁ヤバいくらい出ます。
 こちらも試聴がないので転載を(ryするか、CDを買うしかない。「遥か遠き」と同じく、「陽はまた昇る」に収録されているので見つけたら買おう!(ダイマ)

(C85ってもう古代だよね……)

3.女神の口づけを
 幽閉カタルシスより。工廠BGM、母港BGM、砲雷撃戦、始め!、艦隊決戦が混ざっている(らしいが、恥ずかしながら筆者はどこがどれ、と完全には言えないと思う)。それくらいアレンジが上手くて、歌詞がオシャレ。そしてジャケット写真の金剛姉妹がすごくいい。あと、やはりどことなく「幽閉サテライト」みを感じるのだがどこに感じているのか自分でもよくわかっていない。
 なおこちらはアルバムの試聴があるので聞いてみて欲しい。同じアルバムにある「沈黙のカナデ」も非常に良い曲なのでついでに聞こう。

〈番外編:公式曲〉

1.鎮守府の朝
 公式曲の中で意外と知られてない気がする。何のアレンジかというと「鎮守府の午後」こと模様替えの時の曲。まさに「朝」という感じでよい(原曲が午後なのはなぜ?)。暁の「敵艦どこに行ったの? まーいっか そんな日の朝」が可愛すぎて筆者も聞くたびに「まーいっか」とよく思っている。
 六駆が歌う可愛らしいこの曲がかなり好きなのだが、あまり知られていない印象がありもったいないので紹介。確かジュークボックスで視聴できるので、暇なときに聞いてみては。なお「艦隊これくしょん -艦これ- 艦娘想歌【壱】 KanColle Vocal Collection vol.1」に収録されている(ダウンロード販売しろよ運営)。
 ところで七駆もこういう曲作らん?

 というわけで、「艦これボーカル」聞いたことがない方はよかったら一度聞いてみてください。聞いたことがある方はおすすめ教えてください。最後まで読んでいただきありがとうございました!

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