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登り坂の多い街

登り坂と下り坂はどちらが多いか?という古典的なひっかけ謎々がある。
この謎々の答えとされているのは「上り坂と下り坂は同じ」だ。
なぜなら行くときに登った坂もも帰りは下るのだから同じ坂が昇り坂でもあり下り坂でもあるのだ、と。

しかし、この街は登り坂が多いことで有名だ。
登り坂と下り坂では登るほうに時間がかかるから多く感じる、というのも有るのだが、実際にこの街には登り坂が明らかに多い。

中世、戦国時代に建てられた城を中心に発展したこの街は、城の周りを守るように広がっていった。
城は護りやすいように急峻な山の上に建てられた。
街がにぎわい始めてからも見晴らしの良い場所に立つ城は街の中心であり続け、今では中心に向かって続く坂道に掲げられるように城は建っている。

しかし山が急峻と言っても人が通る坂の角度はそんなに急には出来ない。
街の中心地であり主要な施設も集まっている城の周りには人も集まる。
老若男女、誰でも登れるくらいの傾斜に道は作られているのだ。
急な山を誰にでも登れるくらいの傾斜で登るのだからその分折り返しは多くなる。多くの人が山を左右に行ったり来たりしつつ登る様子はふもとからもよく見える。

つづら折りの道の途中には建物は建て難い。
一つ下の道と一つ上の道の間が狭くなるからだ。
しかし人の集まる街の中心地、店を立てたいと思うものも多い。
公的な機関も人が集まる場所に合った方が便利だ。
いつしか折り返しごとに大きな施設が立てられるようになり、その施設の名前で坂を呼ぶようになった。

登るときは折り返しがあるほうが楽だが降りるときにいちいち折り返しをたどるには距離がかさばって面倒だし効率も悪い。
利便性のため登り坂の道とは別にまっすぐ下る道が通された。
それぞれの登る道の途中から繋がる下る道はそれなりに広い坂になり、ただ南の広坂や北の広坂という名前が付いた。

折り返しの多い坂は人が通るにはすれ違いにも余裕があったが、馬や馬車が往来を通るころにはかなり手狭になった。
折り返しの道では道を広げようにも限度がある。
いつしか道は折り返して登る多くの坂と広い道を下るいくつかの坂で一方通行になった。
自動車が往来する今でも一方通行なのは変わらない

つづら折りの登り坂とまっすぐ降りる広坂。
坂の距離も名前の付いた坂も登り坂の方が多くなった。
最近ではまっすぐ上るエスカレータを作る計画もあったようだが、うまく資金が集まらなくてとん挫しているようだ。

この街には登り坂が多い。
登り坂が多いのは悪い事ではない。
一つ一つの坂を上るごとに一つ景色を増やせるのだから

(フィクションです)


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