助産院での出産

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助産院を選ぶ

2人目の赤ちゃんを助産院「カンガルーホーム」で産みました。上の子の時は病院で出産しました。以前、病院での手術がきっかけで心と身体のバランスを崩したことがあり、病院という場所が極端に苦手でしたが、その時は助産院が自分の身近ではなく選択肢にありませんでした。

病院での出産は陣痛促進剤の点滴をしながら、お腹に監視装置が付けられ、身動きもしにくく、狭い陣痛室のベッドの上で痛みに耐え、何が何だか分からないままあっという間に産まれたという印象で、元々拘束されるような場所が苦手なこともあり、つらい記憶として残ってしまいました。

産後の子育てもつらく感じられ、子供が1歳半の頃に体調を崩した事をきっかけに、食事や生活を見直し、心と身体の自然とは何かを日常生活の中で意識するようになりました。そして2人目の妊娠がわかった時、次こそ可能であるなら、できるだけ医療に頼らず自然に産んでみたいと思い、助産院での出産を決めました。

年齢や過去の病気の事などもあったので、助産院で受け入れてもらえるか不安に思っていましたが、「カンガルーホーム」の助産師、高橋さんは当然のように受け入れてくれました。その自然な対応と人柄に惹かれ、この助産院で出産したいと思いました。

6ヶ月経った今でも、授乳のたびに何とも言えない愛おしい気持ちで満たされます。離乳食も始まり、徐々に母親から離れていく寂しさも感じ始めた今、助産院での出産を通して身体の自然を感じることができた事、その感動が薄れない内に書き留めておきたいと思います。

出産まで

妊婦健診では、お産のビデオや模型を使って赤ちゃんがどのように出て来るのかを分かりやすく教えてくれたり、貧血対策や身体の整え方まで、不調があれば高橋さんは、母親のように親身になって助言してくれました。出産間際になると、今は常に私のお産の事を気にかけていると声をかけてくれました。自然に始まる陣痛とはどのようなものかドキドキしていた私は、その言葉で安心することができました。

普段から貧血気味なのに加え、上の子の出産の時は出血が多かったので、貧血対策は特に課題でした。鉄分の高い食べ物をこまめに食べていると、身体はちゃんと反応してくれるのだということで、今まであまり食べてこなかったレバーや赤身肉も積極的に食べるようにしました。すると出産間際でヘモグロビンの数値が上がり、食事でこんなに改善されると思っていなかったので、身体の素直な反応に驚きました。

また、自分の身体に意識を向けたことで、1人目の妊娠の時よりも身体の変化が敏感に感じられたように思います。白米や甘いものが無性に食べたくなった時は、赤ちゃんがそれを求めているのではないかと考えたりし、このような身体の変化は、忙しい日々の中で、私とお腹の赤ちゃんが対話をするひとときをくれました。

助産院に通う度に、病院ではなく、ここで出産したいという思いが強くなり、運動や体操なども積極的に行いました。高橋さんは、妊婦健診を通して「自分で産む」ということを自覚するよう教えてくれたように思います。

陣痛

陣痛は夜に始まることが多いと聞いていた通り、私の陣痛も深夜に始まりました。お腹の赤ちゃんは小さめで経産婦ということもあり、陣痛開始から出産までの時間は短いだろうと予想していましたが、実際は微弱陣痛が長く、助産院に着いてから赤ちゃんが産まれるまで15時間近くかかりました。

この長い間、陣痛は強弱を繰り返しましたが、出産には精神面が大きく影響することを実感しました。助産院に着くと陣痛が弱まり、家に帰ると強くなり、立ち会いのために上の子が助産院に来て遊び出すと陣痛が弱まり、上の子が帰るとまた陣痛が強くなったり。お腹の子は、リラックスできる静かな場所を求めていたのかもしれません。

高橋さんやサポートに来てくれた数人の助産師さん達は、進まない陣痛に対してさまざまな方法で陣痛が強くなるよう誘導してくれました。「まず、エネルギーを付けましょう!」と、高橋さんがおにぎりとレンコンのきんぴらを作ってくれました。痛みで食べるどころではないと思いましたが、陣痛の合間に必死で食べると、とても美味しくて前向きな気持ちになり、陣痛も強くなりました。他にも足の親指を刺激したり、足湯をするとすぐに陣痛が強くなりました。身体の素直な反応がなんだか面白く、薬を使わなくても身体はちょっとした刺激でこんなに反応するのだという事が驚きでした。

「カンガルーホーム」の施設は、出産する妊婦さんのためによく考えられた施設で、トイレでも出産できるようにトイレがとても広く作られています。陣痛中は出来るだけ気分転換して痛みを紛らわせたり、強い陣痛が来るようにトイレや廊下、別の部屋など、施設をフルに使わせてくれました。陣痛に耐えながらも廊下を歩いたり部屋を移動したりして気分転換ができたので、痛み以外に意識を向けることができ、痛いながらもリラックスできました。廊下の突き当たりには大きな窓があり、陣痛の合間に窓から見えた雪の美しさは今でも忘れられません。

長い陣痛であったにもかかわらず、助産師さんたちは終始私の側にいて、話し相手になってくれたり、痛みの度に腰をさすってくれました。痛みのあまり助産師さんの腕を強く引っ張ったり、泣き言を言ったりして迷惑をかけましたが、助産師さんたちは嫌な顔ひとつせず、優しく、そしてしっかりと対応してくれました。助産師さんたちの心ある対応が、長い痛みを乗り越えるのにどれほど支えになったか…本当にありがたいと思いました。

出産

夕方になり、このまま夜まで生まれなければ病院に行くという選択肢も出てきた頃、助産師さんが、パノラマのように広く大きな窓のある部屋に連れて行ってくれました。部屋に入った瞬間、黒い山々の山際だけ赤い夕焼けが残ったような景色が目の前に広がり、なぜか怖く感じ、それを助産師さんに伝えると、「夕方に産まれる赤ちゃんは多いですよ」と教えてくれました。そのすぐ後、今までとは違う痛みの陣痛が始まり、1・2時間後に赤ちゃんが産まれました。やはり精神的なものが出産には大きく関係するのだと実感しました。

赤ちゃんが出てきた後、私はわんわん泣きました。やっと赤ちゃんが出てきて安心したというのもあったと思いますが、それ以上の感動がありました。自然に陣痛が始まり、強弱を経ながら徐々に本陣痛になり、赤ちゃんがゆっくりと降りて来て、最後は自分で力を入れて生み出したという感覚があります。何というか、自分の身体を使い切ったという本能的な喜びがあふれたような気がします。産まれたての赤ちゃんは私のお乳をとても上手に飲みました。何というかわいさ。お腹の中で誰がお乳の飲み方を教えたのでしょうか。赤ちゃんってすごいです。

経産婦にしては出産まで時間がかかりましたが、長い陣痛を経て出てきた赤ちゃんの首にはへその緒が巻きついていました。身体のわりに頭が大きかった事、私の体力不足や体幹のなさ、赤ちゃんの性格など色んなことを総合して、赤ちゃんは安全にゆっくりと出て来ようとしたのではないか。陣痛は短かければいいと思っっていましたが、赤ちゃんと母親にとってベストなタイミングであれば立派な安産なのだと解りました。お産の長さには意味があるのだと高橋さんは言います。昔は3日程かかるお産もあったとか。長い時間だったにもかかわらず、元気にゆっくりと安全に出て来てくれた赤ちゃんと、母親と赤ちゃんのタイミングを大切にしてくれた助産師さんたちに心から感謝します。

産後

出産を終えた私に高橋さんは、とてもいいお産だったと言ってくれました。その言葉に、全てを受け入れてもらえたような気がして、一気に肩の力が抜けました。

そして、母親が身体を休めながら赤ちゃんのお世話に集中できるよう、母乳にこだわり過ぎる事なく、夜はミルクを出して身体を休ませてくれたり、必要な時は赤ちゃんを預かってくれたり、私の様子を常に見て臨機応変に対応してくれました。こだわり過ぎて疲れてしまいがちな私には、その自然体がとても心地よく感じました。

また、高橋さんの手料理は、酵素を活かしたお野菜中心の料理で、産後すぐから今までになく快腸だったのは驚きで、魔法の料理のようでした。高橋さんは、料理で使う食材の生産者さん達の事をよく話していました。

「ここのお野菜は手間暇かけて育てられてるから高いの。だから大切に使ってるのよ。高い食材だと余らすのもったいないでしょ。」無農薬で手間暇かけて作られたお野菜は塩をかけて焼くだけで美味しく、大切に育てられたお野菜だということが分かると、こちらも大切に食べようと思います。

貧血気味だった私のためにレバーを出してくれたり、最終日前日の夜は丸鶏を仕込んでサムゲタンを作ってくれたり、私の事を考えて作ってくれている事が嬉しくて、愛情を感じながら食べる食事の大切さを改めて感じました。

産後、心身共にリラックスさせてもらえた事で、赤ちゃんとの時間を楽しむ余裕もできました。赤ちゃんはもう身体から離れているのに、赤ちゃんが泣くだけでお乳が痛くなり母乳が出てくるのが不思議でした。お乳を飲ませると子宮が元の大きさに戻ろうと収縮して痛むのですが、お乳を飲む時の赤ちゃんの可愛さは格別で、仕方ないと思えます。授乳の刺激で出るオキシトシンというホルモンがそう感じさせてくれるそうです。身体ってなんて上手くできているんでしょう…自然ってほんとにすごいです。

おわりに

「自然って待つことなのよ、今の世の中は待つということがなかなかできないんだけど。」高橋さんがかけてくれた言葉の数々は、私にたくさんの気づきをくれました。お産に限らず子育てや日々の生活においても、すぐに結果や効果を期待し、思い通りにいかないと不安になり、自然を信じて待つということができていただろうか…。

今、半年になる赤ちゃんは、私がそばに居ると安心し離れると泣きます。赤ちゃんにはお母さんが必要なんだなと改めて思う毎日です。当たり前の事かもしれませんが、上の子の時は何もかも初めてで私に余裕がなく、その当たり前のことに頭では分かっていても、上手く受け入れることができなかったように思います。上の子はもう小学生になり、言う事を聞かなかったり何かと対応を悩みますが、子供はただひたすら母親を求めているだけなのかもしれないなと、今の赤ちゃんが教えてくれているようです。自然はもっとシンプルなのかもしれません。

私は助産院「カンガルーホーム」で出産できたことをとても幸運だったと思います。出産の時にサポートに来ていただいた助産師さん2人は親子で、その助産師さんの出産の時に助産師として立ち会ったのが高橋さんであり、親子での初仕事が私の出産でした。また、お野菜を買っている農園のご家族の出産にも立ち会い、その赤ちゃんの成長を嬉しそうに話してくれます。この助産院で出産した人たちが、次の出産の方々のサポーターとして関わっているということが、お産の場を温かく心地良い場所にしてくれているのだと思います。

産後は長い育児の始まりであり、子育ての悩みは尽きません。今でも何かあると助産院に相談に行きます。また、助産院に行けば他のお母さん達とも交流することができ、子育ての悩みを聞いてもらうことができます。悩みを言い合うだけで解決することもたくさんあります。このような交流の場は母親にとって必要であり、身近にこのような施設がもっと増えればいいなと思います。

素晴らしいお産を体験させてくれた高橋さん、お産に関わってくれた全ての人たちに、心から感謝します。


筆者:osuzu

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