みのりの秋 その3 樹木の最期




通勤の道沿いに見慣れない新しい倒木。夜のうちに倒れたものか。

数年前のナラ枯れ被害で、多くの雑木が枯死した。枯れた樹木は秋でもないのに葉っぱが散り、枝先が落ち、そのうち風雨に朽ちた大枝が落ち、ついにはある日音を立てて根元から倒れる。
雨上がりの朝などに遠くでミシミシと木の裂ける音がして、ああまた倒れたかと気づくこともある。

樹齢何百年の樹木の最期というと、チェンソーの刃を入れられ、音を立てて倒れていく様が思い浮かぶけれど、実際の名もなき雑木の最期はこんな風にゆっくり時間をかけて静かに訪れる。
そんな事もこの地に住んで初めて知った。

10年余り前、102歳のひいばあちゃんを自宅で見送った。若い頃から窯元の仕事に専念し、六世松月から七世、八世九世へと窯の伝統を繋いだ偉大な人だった。

心臓の動きが弱まり、そろそろお迎えかと診断されてから、ひいばあちゃんは少しずつ活動をやめていかれた。朝、起きてくる時間が遅くなり、おしゃべりが少なくなり、ご飯を召し上がらなくなり、好物のお菓子もいらないと言われ、プリンやアイスすら口にされなくなった。
そうやって少しずついろいろな機能を閉じていかれ、床についてまどろむ時間が増え、目覚めることがなくなった。最後に呼吸が止まって、終わりがきた。
一緒に看取っていた義母が、あ、止まった?と首を傾げられたのを思い出す。
静かな朝のことだった。

老衰で亡くなったひいばあちゃんの死は、人知れず静かに朽ちて倒れる雑木の最期に似ている。
倒木はやがて若い下草に覆われ、虫や獣に侵蝕され、崩れて散って土に還る。
庭園の木になることも家や寺社の木材になることもなく生涯を終える雑木は、土に還って次に芽生える樹木を育む。
美しい循環だなあと思う。

#倒木
#秋のみのり

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