お仕事靴


年甲斐もなくきれいなピンクの靴を履く。この夏の里帰りの折実家の父に買ってもらったお仕事靴。
通勤の時にはパーっとテンションの上がるのがいいと選んだ一足は、周囲の同年代以上の女性たちにすこぶる評判がよい。
駅の階段を登る足取りも軽くなったようで、きれいな色のもたらすパワーは思いのほか効果的だった。
 
一転、土場で土づくりの仕事をする息子のおんぼろ仕事場靴。
どうせ泥だらけになるからと日常の靴を仕事場用に下ろして履き潰すというのだが、それにしても靴紐さえ抜け落ちたスニーカーをどうやって履いているのかというこの惨状。
新しい靴買って来ようかと提案しても、いやいやまだまだと首を振る。

数ヶ月に一度行う土づくりの作業は窯元の最も大切な仕事の一つ。ここ数年は息子が一人で黙々と担っている。
土練機の鈍い音が続く土場で泥と埃にまみれながら、延々と続く土との闘いに彼は何を思うのだろう。

土場から帰った彼は泥まみれ。時には髪や顔にすら泥跳ねをまとって笑っている。我が身の汚れ具合が本日の仕事の成果とも思えるのか心なしか誇らしげですらある。

雨上がりの公園の水たまりでどろんこ遊びに興じて濡れネズミになった幼な子の満足顔は、こんなだったか。

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