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1人にしてごめんね

わたしの心の中には白いくまのぬいぐるみがいる。
それは、ほとんど会ったことのない父が私が子供の頃の誕生日に買ってくれたものだ。
そのくまはとても大きく、子どもの時の記憶では自分よりも大きいテディベアだった。
その当時はとても嬉しかったが、いつしか私は成長し、くまの存在を気にも留めなくなって行った。
先日、母からくまのぬいぐるみをリサイクルショップに持って行った話を聞いた。
母は800円にもなったと喜んでいたが、わたしはそれがとてつもなく悲しかった。
しかし母には何もいえなかったし、涙は出なかった。わたしは最近涙が出ない。
後日、リサイクルショップを訪れた。一度は通り過ぎた場所に、その姿はあった。
私は気づかなかった事がとてもショックだった。
目があった。耳につけられたタグには3300円と書いてあった。
私はその白いくまを買って帰ろうかどうかとても悩んだ。どれくらい時間が過ぎたか分からない。
結局、わたしは白いくまのぬいぐるみを買って帰らなかった。
わたしが買って帰ってもこの子は救われないのではないかと思った。この先ずっと大切にできる自信がなかったのだ。また今までのようにいつか気にも留めなくなってしまうかもしれない。
ただ、その光景は悲しかった。
わたしはそれから毎日そのくまのことを思い出す。
手に入っていたときには思い出すこともなかったそのくまのことを。

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