キンモクセイ

冷徹女の優しい記憶

匂いに誘われたことがありますか?

プルースト現象。匂いが記憶を呼び覚ます。記憶の手がかりとして匂いはもっとも有効なのかもしれない。
私自身は香水もつけないし、お化粧もほとんどしない。シャンプーも匂いを残さないほど洗い流してしまう。
体臭は幸いなことにないらしい。もちろん、全くって事はないと思うが基本的に無臭らしい。フェロモンも出てない気がする。
そうなると、私に対しての記憶は食事とか、行った先によほど特徴のかある匂いがあればそれ、ということになる。
それだと1番に思い出すのは私自身でなく店の名前だったり、料理そのものだと思うとがっかりだ。

幼い頃から本が好きで、友達とゲームをしたり、外でスポーツをすることは義理にすぎなかった。その義理的行為も、断って大丈夫頻度を考えて伝えていた。加えて習い事を多く抱えていた子も割といて、そんなこんなで事なきを得ていたと思う。
相手に確かめたことがないのでわからないが。

義理的行為を断った後などは、人に会う事を避けなくてはいけない。
そんな事を考えて、少し遠くまで散歩をする。
どこか適当なところで本を読んだり、絵を描いたりしていた。
そんな中にもお気に入りの場所があった。
家と家の間の小さな公園。片側は古くてツタの絡まる家。
もう片側は木々が生い茂る大きな家。両方の家のせいで
昼間から暗くて目立たない公園だった。
ツタの絡まる古い家は、今思えば人がもう住んではいなかった
のかもしれない。一度覗いた時に壊れた自転車やらなんやらがあって
「ゴミ屋敷?」と思った事があった。
大きな家の方は、時々人が出かけていくのをみかけた。
両手いっぱいの買い物袋を抱えて帰ってくる。
何度目かで挨拶をするようになったが、物語のように家に招待されて
お茶でも・・・みたいな事には全くならなかった。
目立たないところも気に入っていたが、目をつぶると花の匂いが香ってくるのがとても気に入っていた。
特に、夏が過ぎ香って来る。風に煽られオレンジ色の小さな花を見つけて、金木犀を知った。散歩の途中で同じ香りに出会うと「金木犀の香りだ!」と知っている事に、ご満悦だった。
それと、春というにはまだ肌寒い頃、甘い甘い香りがした。
その花の名前はすぐにはわからなかった。
いつもは行かない時期に、家の用事で祖母の家に行ったとき、同じ匂いを嗅いで母に教えてもらった。
沈丁花の香りは悲しみの香りとなってしまったが、同時に祖父を思い出す香りとなった。

ちなみに、今散歩に行くと喫茶店に入って本を読んだりする。
大人になったと思う。


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