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小説✴︎梅はその日の難逃れ 第47話


「久しぶりだなあ」
春翔は米村家の門の前で呟く。
「結婚式以来だもんね」
マキも答える。
そこには春翔と赤ん坊を抱くマキがいた。

千草の夢であった介護施設も完成。
今日は、春翔とマキ、そして二人の間に授かった赤ん坊の優梅《ゆめ》が米村家にやってきた。
マキの前夫との離婚の原因は、跡取りの欲しい夫や家族だったが、マキは流産を繰り返し子どもを授かることが出来ず、母になることは諦めていた。「子どもが出来るかどうかは、自然な流れ。僕はマキさんと、ずっと一緒に居たいんです」との春翔からのプロポーズを受け入れた。

千登勢と小春の結婚式で、集まっていた春翔の親族にもマキを紹介する事が出来、籍を入れた。
それから間も無く、思いもかけず妊娠。小さな命は皆に祝福された。

近々春翔は、和歌山での修行を終え、木杉ガーデンの副社長として東京に戻ることになる。

「優梅ちゃん。ようこそ、さあ入って入って」
小春は玄関に迎え入れた。
「後でひと段落したら、千草もこっちに来ると思うから」
米村家の居間に通される。そこには千登勢も待っていた。
「じいちゃん、小春さん、ご無沙汰です」
「おお、お疲れさん。マキさんもようこそ」
「お久しぶりです。お会いできて嬉しいです。優梅も連れてこれて良かったです」
マキも優梅を抱きながら頭を下げた。
「まあ、立ってないで座りなさい」千登勢が促した。

「梅番茶でいいかしら?」小春はミニキッチンから声をかける。
すると春翔は「マキは和歌山の生まれですから、梅好きです」
「はい。大好きです」マキも答える。
「そうよね。本場だもんね」小春が言うと優梅も声をあげた。
「あら、優梅ちゃんも?」小春は笑いながら言うと
「なんと言っても梅干し大好きな二人の娘ですから、梅干し姫です」春翔も言いながら笑う。
「では、初代梅干し大将は、私だな」と千登勢が言うので
「え?あのおじいさんがジョークいう人になったんですね!」
気難しいと思っていた春翔には驚きだった。
「結婚式でも言っただろ?木杉千登勢は生まれ変わって小春さんにプロポーズしたんだからな」
「そうだね」春翔は微笑む。
「素敵でした。結婚式でも思いましたが、お二人は私の理想です」
マキも言うと全員の笑顔に、優梅《ゆめ》 も笑った。
「あらあらいいお顔」小春が優梅の手を握る。
ふと庭に目をやった春翔が
「ああ、梅、もうすぐ花咲きそうですね」呟く。
「春も近いな」千登勢が言えば
「実がたくさん出来るといいわね」と小春も言った。


居間でくつろいでいると
千草もやってきた。
「わぁ、優梅ちゃん!春翔くんもマキさんも、ようこそ!お疲れ様。抱かせて抱かせて」
「ご無沙汰しておりました。千草さんも変わらずお元気そうですね」
春翔も優梅を、千草に預けながら言った。

「そろそろですね」そう言って小春はテレビをつけた。
「お、出て来た」全員がテレビに注目する。




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