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嘘つきは猫泥棒の始まり 第4話


拓実は段ボールにそっと子猫を入れて
軽く蓋をした。
それを抱えて
いそいそと私の部屋を後にする。

やれやれ。
なんかドキドキして損した気分だ。
すっかり子猫に夢中の拓実。
恋人と言っていたのが、今なら分かる。
ホッとしつつも、ちょっとさみしい気持ちも混じる。

遅い夕飯を食べて、お風呂に入り
髪を乾かしながらあくびをした瞬間
スマホが鳴った。
「えー。今頃、誰?」
画面には
【柳下】
拓実だ。
前にみんなでカラオケ行く約束をした時に、連絡先交換してたんだった。
使うことも無かったから、忘れていた。
「はい。前島です」
「あ、すみません夜分遅く。
ミーが、あ、連れ帰った仔猫が
ミルク飲まないんです。
頂いたシリンジ使ってるんですけど」
「なんでかなぁ。飲ませ方かなぁ?」
「ご迷惑でなければ、うちに来てくださいませんか?僕迎えに行きますから」
「え、自分で行くよ」
「いえこんな時間だし、バイクでもいいですか?」
「別にいいですけど」
「じゃ、すぐ向かいます。準備していてください」

電話を切って10分もしない内に
バイクのエンジン音がして
私のアパート前で切れた。
ドアをノックする音。
「すみません。柳下です」
小声で囁く拓実。

ヘルメットを抱えて立っている拓実の顔はかなり暗い。

「僕じゃ、ダメなんですかね」
「いや、たぶん新しい環境にびっくりしてるだけだと思うけど」
「とりあえず、お願いします」

拓実の背中に自分の体をピタリとつけて、二人乗りで走る。
だいぶ鼓動が早いのを
気づきはしないだろうか?

たぶんミーが心配で、気持ちはこちらになんて向いてないだろう。
一人で勝手にドキドキしてるのも
馬鹿みたいだけど。

すぐに拓実のうちに着き
ミーの様子を見る。
小さな足で、ちまちま
私に寄ってきた。
私がシリンジを使って飲ませてみると
普通にゴクゴクと飲む。
「やっぱり前島先輩じゃないとダメなのかなぁ?お願いだ。俺からも飲んでくれよなぁ」

この日はリビングで
二人で仔猫の様子を見ながら
一晩明かした。

カーテンの間から光が入る頃には
拓実でも、ミルクを飲んでくれるようになった。

「すみません。一晩付き合わせてしまいました」
「いいよ。これから新しい恋人のお世話よろしく頼むわ」
「はい!ミー。よろしくな」

それからバイト先でも、ミーの話をよくするようになり、バイトの帰りに拓実の家に寄り、夕飯をご馳走になることもあった。
また、一緒にペットショップへ行った後
食事なんて時間も。
私達、なんだか良い感じになってる?



#損した気分
#一晩明かした日
#新しい恋人


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