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小説✳︎「紘太と結里子」 第1話

「月明かりで太陽は輝く」
のサイドストーリーです。
宜しければ、まずは本編を
読んで頂けたらうれしいです。



「今日で二人は夫婦となり、永遠の愛を皆様の前でお誓いいたします」
「思いやりと笑顔いっぱいの家庭を築いて参ります。暖かく見守ってください」

颯人《ハヤト》と沙有里《サユリ》は
郊外のホテルで、結婚式を挙げた。
今時の神式やキリスト教式では無い
人前式結婚式。

二人は同じ病院で、理学療法士と看護師として働いている。

誓いの言葉と指輪交換の後、ライスシャワーを受けながら
笑顔の二人を結里子は見送った。
結婚式は滞りなく、和やかに進行した。

結里子の看護学校時代の同級生「沙有里《サユリ》」
クラスメイトからは「さゆりこ」
と呼ばれる位の二人組だった。
それぞれの病院に就職後も、回数は減ったものの休日にはよく二人で出かけたりしていた。

沙有里が、恋人の「颯人《ハヤト》」との結婚が決まり
マリッジブルーの時も、結里子はずっと付き添い励ましてきたので
この日を迎えられて本当に良かったと
嬉しい気持ちと、ちょっとだけ羨ましい思いを抱いて参列していた。

全員が庭に出て、ブーケトスの時間になり沙有里は
「結里子!絶対受け取ってよ!」と言いつつ後ろを向いて放り投げたブーケは
急に吹いた強風に乗って、高い木の上に
引っかかってしまった。

結構な高さで、ハシゴでもないと届かない位置。式場の係の人が、慌てて梯子の用意をしようと、駆け出していく。

その時、装飾に使っていたプラスチックボールを手にしてブーケに向けて投げる男性。
見事ブーケに当たりその勢いで
ストンと落ちてきたブーケは
下で見守っていた結里子の手元に
ピタッと収まった。

ボールを投げたその人に向けて皆が拍手を送っていた。

ボールを投げたのは
元高校球児の紘太だった。

颯人と沙有里の勤める病院で放射線技師をしている紘太は、颯人と同期入職で同じ元高校球児だったせいか意気投合し、すぐに仲良くなった。
もちろん、結婚式にも呼ばれ参列していた。

結里子は、紘太を見つめ
受け取ったブーケを抱きしめたまま
しばらく動けなくなっていた。

式の日の夜、結里子のスマホに沙有里から電話が入った。

「今日はどうもありがとう。
結里子のお陰で今日を迎えられたと言っても良いくらいだよ」
「おめでとう。素敵だったよ。私も嬉しかった!」
「ブーケトスのハプニングがあったけど、結里子に受け取ってもらって良かったよ」
「うふふ、ありがとう。焦ったよね」
「紘太くんが、機転を効かせてくれたから良かったよね」
「あのボール投げた人、コウタさんっていうんだ」
「うん、うちの病院で放射線技師してる。颯人と同じ元高校球児だから仲良くてね。彼、かっこいいよね」
「う、うん」
「結里子、彼、今一人だよ。どう?」
「どうって。沙有里」
「“さゆりこ”と言われた仲の私が、気がつかないと思う?」
「え?何?」
「結里子、一目惚れしたでしょ?」
「や、やだ。何言ってんの!」
「いいのいいの。否定しないんだから、違わないでしょ?」
「……違わない」
「よし、素直でよろしい!」

遠くから颯人が、沙有里を呼ぶ声が聞こえる。
「はーい。颯人が呼んでるから、また
落ち着いたら、連絡するね。じゃあ
おやすみ」
「うん。お疲れ様でした。おやすみ」

結里子は電話を切った後、テーブルのブーケに目をやると、式場での光景が浮かんできた。

『私、一目惚れしちゃったのかな?
コウタさんって言うんだ。
背が高くてカッコよかったなぁ』

ブーケを手にした時の、結里子へ向けた紘太の微笑む顔を思い出し、頬が熱くなるのを感じた。

#紘太と結里子
#月明かりで太陽は輝く
#サイドストーリー


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