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怪獣の名前【コント】

   司令室。
   司令官が画面を見ながら渋い顔をしている。
   周囲で焦りながら、状況を伝える部下達。
部下A「第二師団壊滅!」
部下B「港区 損壊率40%」
司令「上空からのミサイル攻撃で迎え打て」
部下C「各機ミサイル用意、発射!」
部下A「だめです! ガメゴロンへのダメージがありません!」
部下B「ガメゴロンはなおも新宿方面に進行中!」
部下A「東京湾に、マゲラ出現しました!」
部下C「横浜上空には、レポピヌン出現! 航空隊迎撃間に合いません!」
司令「しかたない…ここは退くしかないか、全軍につぐ! 総員退(避)―」
   黙って様子を見ていた、参謀。
参謀「―司令、お待ちください!!」
司令「参謀! 気持ちはわかるが、みすみす部下たちを死なすわけにはいかん! 幸い怪獣たちは同じ場所を目指している! ここは一旦退いて、共倒れをねらうしかない!」
参謀「そのことではございません!」
司令「では一体なんだ!」
参謀「名前です!」
   全員の視線が、参謀に集中。
司令「……ん?」
参謀「怪獣たちの名前です!考え直してください!」
司令「何を言ってるんだ! 今はそんな―」
参謀「―いくらなんでもガメゴロンはないでしょう!!」
   再び全員の視線が、参謀に集中。
司令「なんの話だ!」
参謀「だってガメゴロンですよ! ガメゴロン! なんか間の抜けた名前でかっこよくないし。正直テンションがあがらないんですよ。ガメゴロン。為五郎みたいじゃないですか!!」
司令「……それは……確かに」
参謀「なにより、『ガメ』とついていたら亀を想像するのに、あいつは全然亀型の怪獣じゃないんですよ! どっちかというとサルゴロンの方がいいくらいだ! でもダメですよ、そもそも『ゴロン』がダメなんですから」
司令「正直、私も思っていた。なんか、気が乗らないんだよな。『ガメゴロンを迎撃しろ!』とか言ってもなんか、しまらないし」
参謀「そうでしょう! そうなんですよ! 即刻改名すべきです!」
   ざわつく周囲の部下達。
司令「確かに、名前は変えるべきだ。だが参謀、今は一刻を争う。即刻撤退命令をださねば、現場の隊員たちが無駄死にしてしまう。撤退後の作戦会議で名前を変えることとしよう」
   小さくうなずく部下達。
参謀「司令」
司令「?」
参謀「自分たちが戦っている怪獣の本当の名前を知らないで撤退。それで彼らは報われるんですか?!」
司令「う……」
参謀「隊員たちは、誇りに思うことでしょう。自分たちはこの地球の危機に立ち向かい、立派に戦ったと。撤退はしたけれど、俺たちはあのガメゴロンと戦ったんだ! と。そんな彼らに『実はあれはもう、ガメゴロンじゃないんだぁ』なんて言えますか?!」
司令「確かに!」
   参謀、突然の一人芝居
参謀「お父さん~お父さんは昔怪獣と戦ったんでしょう?」
参謀「あぁそうだよお父さんはガメゴロンに立ち向かったんだ」
参謀「あれ~? ガメゴロンってなぁに? そんな名前じゃなかったよ~」
参謀「うっ、しまった!」
参謀「お父さん、本当は怪獣と戦ってないんだ! うそつきだ! うそつき!!」
  一人芝居終わり。
司令「息子がいる身としてそれはつらい」
参謀「それ以来息子はグレ。家族はバラバラ。そして離婚」
司令「なんてことだ……」
参謀「立派に戦っている彼らの家庭を壊して、それで本当に司令と言えるんですか!」
司令「いますぐ改名しよう!!」
   ざわつく部下達。
参謀「わかっていただけましたか!」
司令「して、どんな名前にする?」
参謀「私なりにいくつか考えてきました!」
   参謀、巻物の様な紙を出す。
   そこには、怪獣の名前がたくさん書いてある。
司令「随分考えたな」
参謀「大切なことですから。隊員達の名誉に関わる問題です」
司令「ひいては、われわれ防衛軍、いや全人類に関わる問題だな」
   司令、中の一つを指し、
司令「むっ、このドルギラスなんて、いいじゃないか」
参謀「かっこいいでしょう」
司令「『ド』がつくのがいい。ドラゴンの『ド』だ!さらに『ギ』もはいってる」
参謀「私たちが戦っているのはドルギラス。防衛軍はドルギラスに立ち向かった。人類はドルギラスの魔の手から救われた!」
司令「いい響きだ。ガメゴロンよりよっぽどいい! よし」
   と、スイッチを押し、
司令「全隊員につぐ。全隊員につぐ。これより重大な発表を行う! 只今をもって、これまでガメゴロンと呼称していた怪獣を、ドルギラスと改名する! 繰り返すガメゴロンをドルギラスと改名する! 以上だ」
   と、突如部下Aが、驚愕し
部下A「司令!ガメゴロンの攻撃により第三師団が全滅しました!!」
司令「ガメゴロンじゃない、ドルギラスだ!」
部下A「ガメ……ドルギラス、新宿に到着! 都市が破壊されていきます!」部下B「マゲラ、池袋方面に進行中! 迎撃にむかった第五師団は全滅です」
参謀「司令、マゲラという名前も変えましょう!」
司令「ん? マゲラは、正当派な名前でいいんじゃないか? なになに『ラ』ってつくのはよくいるし」
参謀「なにをいってるんですか、マゲラって! これではまるで、チョンマゲが生えている怪獣ですよ!!」
司令「……何故今まで気づかなかった!!」
部下C「レポピヌン渋谷に降下! 航空第三師団は全滅です!!」
参謀「レポピヌンこそ最初に改名すべきだ! 一匹だけ方向性が違う!」
司令「なんてひどい名だ!レポピヌン。言いにくい」
   部下C、意を決して、
部下C「司令!」
司令「なんだ?!」
部下C「……私もそう思っておりました」
部下A「私もです」
部下B「わ、私も」
司令「そうだよな! おまえたちが一番怪獣の名前を叫ぶことが多いわけだし」
参謀「ここは、皆の声を集めて改名すべきでは」
司令「そうだな。各員につぐ、ただいまより、マゲラ、及びレポピヌンと呼称していた怪獣の新しい呼び名を検討する。意見のあるものはいるか?!」部下達「(いろいろな名前を連呼)」
参謀「やはりみんな不満を持っていたか」
司令「すまなかったな。私が不甲斐ないばっかりに、しかしもう安心だ!」
   と、
部下A「司令! あれを!」
司令「なんだ? こ、これは…」
参謀「巨人?」
部下A「謎の巨人が、ドルギラスと戦っています!!ドルギラス……消滅」
司令「名前を変えたばっかりなのに」
部下B「巨人がマゲラと交戦中! レポピヌンもそちらへ向かっているようです!!」
部下C「我々の味方なのか?」
司令「まずいぞ! 早くマゲラとレポピヌンの名前を変えなければ、彼らが倒されてしまう!」
参謀「あの巨人に名前をつける方が先決です!」
司令「そ、そうか!」
   と、名前の巻物を眺め出す。
参謀「あっ、巨人が光線技を! あれにも名前をつけないと!」
司令「え? ちょっと、ちょっとタンマ」
部下C「謎の少女が、レポピヌンの元へ向かってます」
司令「何ぃ?!」
部下A「地下から、謎の基地が現れました」
部下B「上空に円盤が!」
部下C「海中から巨大ロボットが!」
   徐々に暗転していく。
司令「ええい! そんな一気には思いつかん!!」
   暗転の中、声だけが聞こえる。
部下B「あぁ、マゲラが……」
参謀「間に合わなかった」
司令「人類の……負けだ」

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