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つれづれ完結済ジャンプ漫画感想記録vol.2 鬼滅の刃(全23巻)

 永遠というのは人の想いだ 人の想いこそが永遠であり 不滅なんだよ

鬼滅の刃 16巻

 近年最も注目を浴びた作品と言えば、『鬼滅の刃』だろう。2020年夏あたりが一番すさまじかった気がする。街を歩いているといたる所で見かけた。吉祥寺を歩いていて友人に「なんか最近みんな鬼滅読んでね?」と言ったら「昨日読んだよ」と返されて、「ああ、時流に乗り遅れてんなぁ」とか肌感覚で感じ取ったもんである。(当時は劇場版公開前だったが、それでも凄かった記憶がある。私も当時読みたかったのだが、生憎多忙だったのと逆張り精神が変なところで作用して手に取らなかった。劇場版もまだ観ていない)

 本記事は感想記事なので、鬼滅が何故ヒットしたか(一番よく見かける理由→コロナでエンタメがなかったから)を分析するだとか主人公像について素人評論を垂れ流すだとかそういった下世話を抜きにして、面白かった場面などを書き綴っていこうと思う。

 まず、本作は面白かった。とても面白かった。お仕事で千葉県の方まで行く予定があったのだが、がら透きの総〇線の車内往復二時間余りで10巻以上も読み進められるほど作品内世界に没頭でき、自分でも驚いた。具体的に言うと10~21巻辺りである。遊郭ラスト~最終決戦終盤前の回想くらいか。

 非常に「ノイズがない」というか、「手が止まる場面がない」作品だと感じる。あっさりしているといえばあっさりしている。ただ、キャラクターに対して「こいつはこういうことはしないだろ」とかストーリーに対して「いやここはおかしいだろ」みたいな、そういった手が止まるような違和感が殆どなく、終始さらさらと読めた。不思議な読み味である。欠点という欠点がなかったように思われる。(粗さがしをしているわけではない)。

 本作がまだ二巻くらいしか出ていなかったころ、帯に奈須きのこが推薦文を寄せていたのを観て買おうか迷ったり、無限列車の大ヒット辺りで手に取るか迷ったりもしたが、気ぜわしいのを嫌う私の性格的にも、ブームが落ち着いた今の辺りで「腰を据えて」じっくり読めたのは良かったと思う。

 本作の筋は王道バトル漫画だが、にしても、作品が現実世界(私たちの時代と地続きの大正時代)を舞台にしているからか、どこか卑近な雰囲気を纏っていたように感じる。これは非難しているのではなく、親しみやすい、とでも解してもらえれば。流れるような話の運びも、すぐに頭に入る登場人物たちの個性や特徴も、丁寧なバトル描写(視覚的にも剣技は映える)も、まるで主人公が使う「水の呼吸」(形を変えてどこまでも流れていく)のように、一つの大河の流れ(の一部)を観ているかのよう。そこに日本人お得意の「人情話」めいた鬼の過去話や(上弦の参好き)あっさりでいて重厚な舞台背景、緻密な裏設定オマケページ(こういうの好き)、などなど様々な要素が組み合わさり、『鬼滅の刃』を彩っている。ノイズがないというのは、良くも悪くも「悩まない」とか「考察要素的なものには欠ける」ことでもあるが、これは間違いなく少年漫画だろう。だって少年漫画だ。そのような無粋な者からは距離を取って読むのが正解と感じる。

 人情話と言えば、遊郭のラストは個人的にとても良かった。首を切られ敗北し(今わの際に罵り合い始める)鬼の兄妹を主人公が窘める場面。「敵に優しい」とか「愛され主人公」とかそういう属性は読む前から知っていたが、この「優しさ」「甘さ」が主人公にとっても(自分の妹も鬼であるという)弱さや空きになっているのが良い。一貫した主人公像という点でも、「妹を守る」「妹を人に戻す」という一本の軸がストーリーにしっかりと入っており、他の雑多な方向に過度に寄り道することなく、非常に巧く「纏まっている」。万人受けも納得の出来栄えというか「読みやすさ」と感じた。

 正直、私の様な生粋な捻くれ人間が『鬼滅』のような作品をとても楽しめたのが自分でも意外で、感想を書く手がなかなか動かなかった(読了は2/1)。物凄く好きかと言われると(ブームに乗り遅れたというのもあるが
)答えに窮するが、好きである事には違いはない。推しは甘露寺蜜璃ちゃんと栗花落カナヲさんです。大体強くてときどき弱い女性はいいね。

 ああ、本作の大きな特徴を最後に上げ忘れていた。

 本作は全23巻という短さだが(本当にこの「短さ」が良い)、大雑把に16巻からが最終決戦パートなのである。これは些か思い切った構成というか、本作の「流れるような」話運びを象徴してはいないか。8/23が最終パート。なんと全体の1/3強が最後の戦いなのだ。上弦の参→弐→壱→回想→無惨戦、と、凄絶な展開が続くが(死者多数。容赦のなさや敵の強さが際立っていてとても良かったです)、本当に「読ませる」。止め処頃が解らなかった。

 他の作品を引き合いに出すのも恐縮だが、同じく構成が上手い作品として『鋼の錬金術師』を挙げるのならば、ハガレンは全27巻のうち21巻からが最終章(的なもの)だったはずなので、7/27が最終パート。鬼滅と比べると話のスケールも違うし連載形態の差もあるだろうが、如何に鬼滅の終盤のスピード感……というと明け透けか。「山場の作りの上手さ」がわかる。全く、だれる気配がない。蝶屋敷のところと柱稽古のところくらいじゃなかろうか、若干でも停滞したの。あとは最初の参巻。そのくらいだった。雑さが全然なく、最初から最後までほぼずっと面白く読めた(なおかつキャラの掘り下げまでちゃんとやってのけ鮮烈な印象を残す)のは、並大抵ではない、というか神業の域だろう。

 不思議な作品である。私はとても楽しめた。劇場版も観に行こうかしら。


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