事八日

 空を塞ぐかのような雲が現れ、本格的な冬の訪れを感じる、師走の八日。
村境の石碑に立ち止まるものがあった。
「道のお方様、お久しぶりでございます。」
「うん?おお、マナコかまだ今年も律儀にやってきおったか」
 話しかけられたのは一見どこにでもいるかのような好好爺といった風貌だが、しかし、その鼻が異様に大きく、異彩を放っており、かたや、話しかけたほうのものは顔は、大きな丸い目が一つついているだけであった。
「勤めでございますので。」
「そうは云うても、今時、こんな田舎であっても事八日なんぞ知ってるやつは、めったにおらん。まあ、厄神のお前らにとっては、やりやすいのかもしれんが。」
「神などとは恐れ多い。私どもはただの先遣隊ですよ。人の子らが年神さまに失礼の無いように、つつがなくお迎えができるかを、帳面につけているだけでございます。」
「まあ、確かにその帳面を見て厄をつけるのこちらの仕事だからな。やったことはないが」
「燃やしてしまいますものね。毎年、新年のどんど焼きで。」
「なあに、ずいぶんと気にかけられることも減ってはきたが、、火をくべて、こちらに願いを託してくれるのならば、まだまだ、愛着をもたずにはおれん。そのような子らに厄を降らせるなんて、いや、俺にはできんな」
「ええ、まったく。だから、まだ道は閉ざされずに、我らもこれるのです。」
「いつか、我らも、役目をおえるのだろうかな」
「確かに、私たちは不合理の存在ですからね。人の世が合理を突き詰めるのならば、その日が来るやもしれません。ですが・・・・・・」
「まだまだ、だな。」
「ええ、まだまだ、でございます。」
冬の寒空に、二つの軽やかな笑い声が響きわたった。

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